第十二話 殺す権利

「ん。とりあえず主を頼む。ツァンリルの方をササッと倒してくる。」

「分かった。どれくらい耐えればいい?」

「30秒もいらないくらいだ。できるな?」

そう聞くハイドだが、答えはもう分かっているんだろう。


「任せろ。」


ー・ー・ー


俺はその自信に満ち溢れた言葉を聞いて満足しながら透明になる。


そしてツァンリル達の方を観察する。


「【奪盗:スティール】」


「【結界:マジックウォール】」

ツァンリルが核を奪おうとして、リーリンがそれを結界で防ぐ。


「【転移:イメージテレポート】」


それを囮にエレードの後ろにテレポートする。


「【攻撃:キャウレスライツ】」

「【結界:マジックウォール】」


ギリギリの所でリーリン達が反撃をするって感じか。


エレードの傷を見る感じそれが何回もあったのかな?

たしかにあれは反応しづらい。

それに加えて、魔法が発生する時間が必要だから、どんなに頑張ってもくらってしまう。



「【電雷:クロウサンダー】」

エレードが我武者羅な攻撃を始めた。

多分あんま考えてはいないと思うが結構良い手だ。


【転移:イメージテレポート】は自分が見えている空間にしかテレポート出来ない。

今は攻撃でツァンリルの視界が限られているはずだから見えている空間も限られている。

まあ、悪魔なら視覚に頼らず【探知】で離れたところの空間を認識出来るけど、そこは俺がカバーしよう。


あと【奪盗:スティール】に対しても良い手だ。

攻撃があるって事はそこに魔力があるってことだから限られたコースでしか魔法が成功しないだろう。


「【想造:クリエイト】」


さっきみたいに100個ほどのナイフが降り注ぐ。

まずい。

リーリン達もそうだがザキは見えてないだろうからカバー行かないと。


「【結界:マジックウォール】」


と思ったがリーリンが大規模な結界を張ってくれた。


そうか。

今は1人じゃないんだもんな。

リーリンや、エレード、ザキがいるんだ。

いつもの単独の依頼じゃないのだ。


いつの間にかエレードの攻撃は止まっていて殺伐とした空気が張り詰めている。

この場の全員がそれぞれの攻撃を警戒をしている。

そして、相手の隙を見逃さないように、いつでも相手の隙をつけるように準備する。

この瞬間にも駆け引きは行われている。


次はどこに来るだろうか。

またエレードだろうか。


結界に次々とナイフが当たっては消滅していく。


…リーリンの核を狙えば良いのに、今までエレードだったのは何故?

そう考えれば今回テレポートしてくる地点が分かる。俺と同じような奴ならきっとそうだ。


「【転移:イメージテレポート】」

「【転移:イメージテレポート】」


ー・ー・ー


今度は私の後ろにきた。

次もエレードさんの方だと思ってた。

ちゃんとMPが少ないって計算してたのかな。。


斧で攻撃されるとわかっていても動けない。

私はそれが来るのを睨むことしかできなかった。

“その時”は意外と早くやってくるものなのかって、こんな状況なのにやけに冷静になって悟った。


そして目を瞑る。






「相手の裏をかくのはお前だけじゃない。」


ハイドさんの声がした。

ゆっくり目を開けてみる。


すると私の体は斬られてなんかいなかった。


「自分が有利な時こそ、その状況を疑え。」


悪魔とハイドさんは自由落下していく。

悪魔は斬ろうとしていたそのままの形を残しながら魔素のチリになっていく。

そして、悔しそうにハイドさんを睨んでいた。


あと少しで届いたはずの斧は、しばらくは原型を留めていた。



「あ、、、」

私、まだ、、生きてる?

…?

…?

……

…!

…助かったんだ。


いや、助けてくれたのか。


私は残り少ないMPを飛行魔法に使って床まで降りた。

「あ、ハイドさ


「【炎溶:ブラストファネス】」


上から赤黒い炎が降ってくる。

このままでは、ハイドさんと私が巻き込まれる。


結界を、

って、あ、今MP無いんだった。


じゃあ避けないとだけど、思ったより広範囲すぎる。


あ、テレポートだ!

っと思ったけどそれをするMPも足りない。

出来るのは飛行魔法くらいだ。


私はその場から動けずにいる。

ホッと息をつく暇もないな。


そんなことを考えている間にも炎は降ってくる。

まるで炎をズームして見ているみたいだ。


ハイドさんが私の左腕を掴む。

「避けるぞ!【転移:イメージテレポート】」

私達はザキさんの近くにテレポートした。


「何ボーっとしてるんだ。戦いの最中だぞ?」

「あ、す、すみません。あ、あの助けてくれて

「今はいい。あ、それともなんか怪我でもしたか?」

途中で言葉を遮られて、一瞬頭の中が真っ白になる。


「あ、いえ、そんなことないです。」

「じゃあ、次倒しに行くぞ。」


でも問題がある。

「ま、まってください。私MPが尽きちゃって、核の方は問題無く動き続けるんですけど出力を上げることが出来ないです。」


【展開:アンチマジックフィールド】は核の中に展開させたい魔素を入れて、魔素の分裂する働きを利用して辺りにその魔素を撒き散らしている。

だから、核にMPを足すってことは、核の中に分裂する元となる魔素が増えるっていうこと。

そして結果的に撒き散らす出力を上げれるってことだ。

ずっと前から、定期的にあの主が【奪盗:エクストーション】を何回も撃ってきていたが、それでも阻止できていたのは私が出力をあげていたからだ。


だけど、今私のMPは尽きてしまった。

【奪盗:エクストーション】は、消費魔力が大きい魔法だからそう簡単に連発は出来ないはず。

だと思っていたんだけど、あの魔人は多少無茶をしてでも連発してきている。

そのペースはだんだんと上がってきていて、今ではその間隔が1分半を切っている。

このままだと消滅させれなくなって、私達が死んでしまう。

それは何としても阻止したいけど、、


「あとどれくらいもつ?」

「えっと〜、あと1分もあればもう一度【奪盗】がくるかと。だから、そこから連発されれば、4分後くらいには間に合わなくなると思います。MPがあればもう少し伸びると思いますが、、」


「リーリン達どうしたんだ?」

エレードさんが降りてくる。

「あ、ちょうど良いところに。エレードさん、核の方にMPを。ちょっとでもいいので。」

「お、おっけー。…移したよ?何があったの?」

「ありがとうございます。」

「これで、時間は出来たな。」

「え、何があったの?」

「エレードは援護よろしくな?」

「オッケーだけど、え?何があったの?」

「後で話します。それに、エレードさんに言っても理解できないでしょうから大丈夫ですよ。」

「酷くね?教えてくれたっていいのに。」


「【攻撃:キャウレスライツ】」


攻撃が私達を襲いかかる。

「エレードさん!」

「【攻撃:キャウレスライツ】リーリン、MP無いのか?」

光線同士がぶつかり消滅する。


「そうなんです。ちゃんと守ってくださいね?」

「任せろよ、この俺に!」

頼りないなぁ…

「…お願いします。」


ー・ー・ー


ハイドは無事ツァンリルを倒して戻ってきた。

ほんとに30秒もかからずに倒してくるとは思ってなかったから、暗殺者の名は伊達じゃないなって思う。

それにあの主もハイドの存在を知っていたみたいだ。


たしかに爺さんが言った通り頼れる人だ。

…戦いにおいてはだけど。


それにしてもここから主をどう倒せばいいんだろう。またハイドが落としてくれるのかな?

ハイドがこちらに走ってくる気配がする。


「ザキ、アイツに近づくのは危険だ。炎の魔法が思ってるより広範囲で、近距離から撃たれたら避けれない。」

それは僕も思っていたことだ。

また「落とすから倒してくれ。」なんて言われてたら流石に断っていた。

「だから遠隔で倒す。だから主の気を引くか、引き続き耐えてほしい。」

僕は左をチラリと見る。

ハイドの気配が遠ざかっていく。


「【攻撃:キャウレスライツ】」


また象牙色に輝く光線が迫ってくる。

けどそれをエレードが相殺する。


エレードは引き続きリーリンの護衛をしているみたいだ。


…僕は何も出来てないな。

飛んでいる相手に対して弱すぎる。

でもこれからも飛んでいる魔物と戦うことになるだろう。

なら対策出来ないだろうか。


そんなことを考えながら攻撃を捌いていたせいか、右腕を掠る。

「大丈夫ですか、ザキさん!」

リーリンがすぐに心配してくれた。

「あぁ、大丈夫だよ。このくらい。」

「ボーっとしてただろ。」

エレードに鋭いことを言われた。

「ま、まあ、そうだけど…」

「ほら、次来ますよ!」


心配させてしまったな。

対策だとか考えている場合ではないか。

とりあえず今は戦いに集中し


「んなッ…」


速い。

認識ができないくらいに速い。


何の魔法かわからないけど、象牙色の光線とは比べものにならないくらいの速さで、飛んでいる主から僕の顔の右を何かが通過した。

それが球体のものだということに気付いたのは僕を通過してからだった。


僕の後ろには核を持ったリーリンがいて、その核目掛けて魔法は迫る。

一直線に、猪突猛進している。


エレードがリーリンの横から魔法を撃っているが間に合いそうもない。

リーリンが核を左に投げて防ごうとしているけどそれでも当たりそうだ。

リーリンの核が壊れれば僕達は酸素を奪われて死ぬ。だけど今、その核が壊れようとしている。


だんだんと、格と魔法の距離は短くなっていく。


少しずつ、でも確実に。


距離はどんどん短くなる。


僕はそれをスローモーションで見ていた。


ただ、見つめていた。


止まってほしいという願望を抱きながら。


だがしかし、その願いは天に届かない。


距離が限りなく0に近くなったとき、



“核が壊れた。”



リーリンにもその魔法が当たるが、リーリン自身が張った結界によってなんとか軽傷で済む。


主を倒さないと。

そう思って悪魔の方へ向くと、

悪魔の胸あたりにある丸いものにナイフが刺さっている。


壊れたものは“二つ”あった。


ー・ー・ー


俺は空中にテレポートし、主の核目掛けてナイフを投げた。

そして、そのナイフは吸い込まれるかのように核に命中した。



魔物と人間。


立場が違えば、見え方も違う。

アイツらから見れば、俺達は大罪人。

俺ら人間から見れば、魔物は大悪党。


結局、魔物と人間が分かり合える日は来ないだろう。

この先もずっとだ。


俺らには俺らなりの正義があるから。

アイツらにはアイツらなりの正義があるから。


だから、正義同士ぶつかる。


どちらが正しいのかなんて知らない。

何故ならこの世界の裁判官など居ないから。


“自分達で自分達なりに悪を裁く。”

ただ、それだけだ。

そうでもしないと、自分が誰かに裁かれる。


現にアイツは最初、俺達を裁こうとした。

殺人という罪で。


アイツも、俺とは反対の正義を持った裁判官なのだ。


だが、死刑執行人ではない。


裁きたいと思うのなら勝手に裁いとけ。

地獄でな。




俺はテレポートでザキ達の元へ帰る。

「ギリギリ間に合ったみたいだな。」

「ハイドありがとう。」

「ハイドさん、助かりました。」

「ナイス、ハイド!」

みんなが感謝を述べる。


⁉︎


不思議な感覚に襲われる。

だがそれは一瞬で、すぐに何事もなかったかのように戻る。

それが一瞬すぎて本当のことかも分からない。


不思議に思ってみんなの様子を見ると、みんなも何か感じたのかびっくりしている様子だ。



せっかく悪魔を倒せたというのに喜ぶ暇を与えてくれない。

次々と何かが起きる。


「あのさ、今なんか変な感じがしたんだけど、気のせいかな?」

ザキが言い出す。

俺もそう感じた。

「俺もそう思ったけど、エレードとリーリンは?」

「俺はなんかMPが増えた気がする。ほんとに気がするだけだけど。」

「私もMPが増えたように感じました。そして今、新しい魔法が使えるようになったような気分です。」



なるほど。これが噂で聞いた…

「レベルアップっていうやつかもな。」

「何言ってんだよハイド。ゲームじゃないんだから。」


エレードが馬鹿にしてくるが、この世界の法則の一つ何じゃないかと俺は思っている。

「いやまあとりあえず話を聞いてくれ。」


魔物を倒した時たまに、筋力の増加や新しい魔法が使えるようになるといった症状が現れるときがある。

それを通称“レベルアップ”と呼ぶ。

しかし、最近の研究ではレベルアップのときに【呪い:ブレッシング】が発動しているとわかった。

【呪い:ブレッシング】は少なくとも現代では、人間では発動することができない特殊な魔法だ。

それゆえに「世界の呪い」とも言われている。


とまあそこはおいといてレベルアップの条件だが、それはまだ研究途中らしい。


「とまあ、こんな感じだ。」


俺の予想では、条件は魔素が周りにたくさんあるかつ、精神的エネルギーが周りにたくさんあることだと思う。


理由として、呪いが発動するには魔素が必要だ。

魔物は倒した時に魔素のチリになるからこの量が多い、強い魔物でしか条件が満たないのだろう。


そして呪いは精神的エネルギーが関わってくる。

もちろん呪いも魔法の一種だから無くても発動するかもしれないが、精神的エネルギーのことはよくわからない。

だが多分【呪い:ブレッシング】には必要なのだろう。


すると、その精神的エネルギーとは何なのかということになるが、単純に強い感情を持っていればエネルギーが生まれるのではないだろうか。

「こいつが憎い」とかなんでも良いが、その感情の強さによってエネルギー量が変わり、より強い感情がないと、条件に満たない。

こんな感じだろう。


そしてその2つの量だが、結構必要になると考えている。

今回はツァンリルとカヲミとあの主の魔素。

もしかしたらリーリンの核のやつもか?


精神的エネルギーは、エレードとリーリンがツァンリルに対して思ったことがあるだろうからそれか?

別に俺らに限らず、ツァンリルが生み出していたとしてもいいのかも?


まあ、こんな感じなら頻繁にレベルアップが発動しないのも頷ける。


だけど別にここまでアイツらに言う必要もないかな。そもそもあんな研究なんて存在しないし。

【呪い:ブレッシング】が発生してると、とある人から聞いたことがあるだけだしな。


「なるほど。意外とあり得る話ですね。」

リーリンが納得する。

「うん、それにもしかしたらどこかで、知らず知らずのうちにレベルアップしてたかもね。今回みたいに大きい変化はなかったかもしれないけど。」

ザキがそんなことを呟く。


たしかに、その場合があるなら俺の予想は破綻してしまう。

だがそんな簡単に発動するもんなのだろうか。

こんなにメリットが大きい物の、コストが少なくて済むのだろうか。

…ザキの仮説が正しい訳でもないか。


ー・ー・ー


「じゃあ、俺はどれくらいレベルアップしてきたんだろうな?」

エレードがそんなことを言えば、

「どうせお前は今回が初めてだろ。」

とハイドが返す。

「はぁ〜?流石に辛口すぎだぞハイド。」

そして他愛もない話が続く。


それにしてもレベルアップなんて知らなかったな。

じいさんは知ってたのかな?

なら話してくれても良かったのに。


その後、ハイドがみんなの応急処置をしてくれた。

そして、もしかしたら僕の七年前の事件の手掛かりがここにあるかもしれないということで明日からは探索することになった。

今日はこの街の家を借りつつ食事をし、就寝する。


激戦だった。

何かが違えば、きっと全滅だった。

…いや、違ったら違ったで別の勝ち方があったのかもしれないな。

ともかく、ここまで生きているのは凄い!

そう僕を、僕達を褒めたのだった。




翌日。

「じゃあ、とりあえず街を周って何か資料がありそうな建物を探そう。」

「あ、俺昨日奇襲で魔法の雨降らせたけどさ、」


見回すと地面や家がぼこぼこになっている。


「そのとき街全体を見たんだけど、多分この屋敷以外に良さそうな建物なかったよ。」

「そうなのか?普通図書館みたいなものがありそうだけど。」

僕は疑問に思った。


「いや、エレードの言う通りだな。よく考えたらそんな重要なものを、魔王だとかあの悪魔達が一般に見られるところに置くわけないよな。」

ハイドがエレードに賛同する。

そう言われればそうだな。

僕もその考えに納得した。

「たしかにそれもそうですね。」

「それにこの屋敷以外ボコボコになってるからどちらにしろ見つからなさそうだな。」

ハイドがそう話す。


どっかの誰かさん達のせいでこうなったんたけどね。

ん?僕ですか?

なんにもやってないですよ。

やったのはエレードです!


そういうことにしよう。

「じゃあ、屋敷内を探索しよう。」


移動している最中、リーリンが何かを見つけたようだ。

「あ、あんなところにウサギがいますよ。」

屋敷の近くの家の影にウサギがいる。

「ほんとだ、迷い込んだのかな?」

「可愛いですね!」

そう言ってリーリンがウサギに近づく。


その瞬間、

ウサギの身にナイフが迫る。


僕は、そのナイフに見覚えがあった。

まさかと思ってそのナイフの持ち手の方を見る。


すると、ハイドが結構勢いをつけて投げた後だった。

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