第十一話 魔人が築いた都市

そして魔人達は宙に浮く。


「強奪の名を持つ私が、お前らの命を強奪してやろう。殺人という罪の罰のために。」

そう言って魔人の手の平が俺達の方へ向く。


俺達は今、裁かれようとしている。

その魔人達によって。


「【奪盗:エクストーション】」



ー・ー・ー



「【展開:アンチマジックフィールド】」


飛んでいる私の手の平の上には透明の小さな球体が浮いている。

そこから魔素が溢れ出してこの場を満たしていた。


そう簡単に死ぬわけにはいかない。


実はあの魔人の魔法を解析しておいてその魔素の反対の種類の魔素を見つけ出しておいたのだった。


あのとき選択授業で補助魔法の方を選んで良かった。

結界魔法の方だったとしても防げたのかな?


「…ほう。防がれるとは。」

魔人は驚きはしたものの、微塵も動揺してない。

そんなこと考えてる場合じゃないか。


「主。あの少女が使用した魔法の核を破壊すれば良いようです。」

左にいた魔人がそう報告する。

「では、ツァンリルはあの少女を。カヲミは引き続き援護を。」

左の魔人は動く感じではないが、右の魔人はこちらに向かってくる。


魔人達は人と同じ見た目だ。

しかし、体の輪郭は少しぼやけておりオーラが漂っている。

主と呼ばれていた魔人は黒と青の仮面、その左の奴は白と青、右の奴も白と青の仮面をつけている。


つまり、あいつらは“悪魔”だ。

悪魔は仮面をつけていることが多い。

その仮面の下では、今か今かと人間を殺す機会を伺っている。

高貴で狡猾な魔物だ。


「【想造:クリエイト】」


右の悪魔は魔法で斧を作り出して、私に襲いかかる。

「エレードさん!」

「とりあえずこいつらを消し飛ばせばいいんだな?

 【電雷:クロウサンダー】」


ー・ー・ー


紫色の雷がいつのまにか悪魔に届いているが、あまり効いていない。


「エレードさん、水系統ではないみたいです。」

確かにそうみたいだ。

青い仮面を付けているから水系の悪魔かと思ったんだけどな。

雷属性の魔法で通りが普通っぽいなら無系統の悪魔かな?


「【攻撃:キャウレスライツ】」


悪魔は体の胸あたりに核というものがある。

その核から魔素が溢れ出して体を作っている。

つまりはそれが壊れない限り死ぬことはなく、唯一の急所だ。


俺はその急所を狙って魔法を放つ。

だが、放った魔法は淡々と斧で弾かれていく。


あの悪魔斧で攻撃を弾くのが上手いな。


「エレードさん、どうやらあの斧は魔素で形をつくり、魔力で斧の効果を模倣しているみたいです。」

リーリンからの報告だ。


なるほど、魔戦士っていうやつか。

「リーリン、その斧の解析を続けて!あわよくば消滅させよう。」

魔素で形をつくって魔力で斧の効果を模倣しているなら、斧を作り出す時毎回同じ種類の魔素を使うはず。

それなら解析して消滅させれたら、また作り出されても消滅させれるからずっと封印できる。


「小僧、以外と賢いな。」

「一言余計だな。」

「だが、あの少女が持っている核を壊せばお前らは死ぬしかないのだろう?」


「【奪盗:スティール】」


「リーリン!」

「わかってます!」

あの魔法は対象のものに干渉して奪うことができる。だがその対象との間に魔力があれば失敗するという特殊な魔法だ。


「【結界:マジックウォール】」

悪魔の口角が上がる。

なぜ、、


「【転移:イメージテレポート】」


俺のその疑問は一瞬にして答えが出た。

なぜなら、俺の背後にテレポートしてきたからだ。


「なッ」

しまった、てっきりリーリンが狙われてると思って油断してた。


そのまま斧が俺の身体に触れて切り裂いていく。

どうやらリーリンの結界こど切り裂いたようだ。


背中に激痛が走る。

それにつられて自分の体の制御もしづらくなる。


俺は襲われないと勝手に思い込んでいた。

いつもお母さんとかお父さんとか、先生とか執事さんとかが、どんなときも守ってくれてたから大きな怪我をしたことなんてなかった。

なんでかそれで俺は襲われないって思ってしまった。


「【攻撃:キャウレスライツ】」


俺の攻撃は、悪魔にヒュラリとかわされる。


でも今は、俺も攻撃の対象。

街を破壊した魔法使いなのだ。

俺は裁かれる立場なのだ。


俺はパーティの一員なのだ。


…こんな形でそのことを理解することになるとは。


「自分だけは襲われないとか思ってたのか?」

ハハッ、と悪魔は笑う。

「我儘で愚かだなぁ!!」

嘲笑される。


「そんな事ないですよ。怪我した分強くなれるんです!それに、あなたがバカにできるほどエレードさんは弱くないです。」

背中がズキズキと痛い。


リーリンが言い返しているのを俺はただ見つめていた。

「エレードさん、一度降りて治療しましょう。」

「…頼む。」

俺はリーリンにもたれかかって【転移:イメージテレポート】で俺ごと運んでもらった。



下ではザキとハイドが戦っているみたいだが、ザキは攻撃できているのか?

なんとか剣で弾いているみたいだが、圧倒的に押されている。


「【回復:セルアクティベーション】エレードさん、攻撃が来たら言ってくださいね。たぶんあの斧の悪魔が来ます。」

リーリンが忠告してくれた。


その直後、斧の悪魔は俺らを狙って魔法のナイフを100個くらい投げてきた。

だから言おうとしたがそこをザキが防いでくれた。


「…ごめん。」

「気にしないでください。私こそ守れなかったので、すみません。」

「いや、ごめん。」

完全に油断してた。

なんで警戒できなかったんだ。


リーリンに謝罪をさせて、何をしてるんだ俺は。


そこで、リーリンが話し出す。

「…エレードさんは意外と思いやりがある方なんですね。」

「今はほんとに申し訳ないと思ってる。」

「一言余計だな。って言わないんですね。」

リーリンが意地悪そうな笑みを浮かべながらそう言う。

もう怪我が治ったのか、背中の痛みがひいてきた。

「あ、ぼーとしてた。」

俺の頬が勝手に緩んで、リーリンが笑顔になる。


「もうすぐ治りますが、しばらくは痛いと思います。でも動いても問題はないので戦いに戻りましょう。」


すると、その時、


「【奪盗:スティール】」


頭上から魔法が使われる。


「リーリン、上!」

「【結界:マジックウォール】」


まただ。でも今回は警戒している。


「【転移:イメージテレポート】」


俺の後ろに来た。

それなら、って、


俺が攻撃するよりもアイツが斧を振る速さの方が早い。

間に合わない。

俺の体に白く輝いた刃が触れる。

前にもこんな感じになったことあるな。


「【攻撃:キャウレスライツ】」

俺が攻撃し返す。


あぁ、ハイドと模擬戦したときか。


「【結界:マジックウォール】」


ギリギリのところでリーリンの結界が間に合って軽傷で済んだ。

とりあえずは被害を最小限にできた。


魔法で攻撃して悪魔は引いていったけど、毎回こんなのならいつか死ぬ。

なんとか早めに決着つけないと。


「【奪盗:スティール】」


また来た。

「【結界:マジックウォール】」


「【転移:イメージテレポート】」

また後ろにきた。

俺が攻撃しようとしたときにはもう斧が触れている。やっぱり早い。


「【攻撃:キャウレスライツ】」

「【結界:マジックウォール】」


これじゃなんとか喰らい付いているだけだ。

俺らから仕掛けないと。


「【電雷:クロウサンダー】」


この魔法も避けられていく。

一応攻撃の緩急はつけてるんだけどな。

…いや、当たってはいるのか。

だけど核じゃないから、痛覚がない悪魔にとってそれはもはや当たってないのと同じ。

それにすぐに体が元通りになるから意味がない。


それでも俺は攻撃を続ける。

解決策がわからないから、いつかは核に当たってくれるのを祈りながら。


ー・ー・ー


エレードさんが攻撃し始めた。

無茶苦茶だけど精度はいい。


でも決め手がない。


どうすればいいんだろう。


どうすれば攻撃を防げる?


あんな速さで攻撃がくるなら結界じゃ間に合わない。


その上結界は【奪盗】の攻撃で直前に使っているから、魔法を連続して出そうとすると魔法の発生時間のラグで間に合わない。


【奪盗】のときと同じタイミングで結界を張るにしても、位置が変わるかもしれないから見てからじゃないと対応出来ない。


……こういうときハイドさんのように戦闘経験が豊富であれば解決できたのかもしれない。


いや、そんなことを考えても仕方がない。

今は解決策を。


でも、さっきからMPが急激に減っている。

理由はあの主が何回か【奪盗:エクストーション】を撃っているからだ。

いや、それは魔素同士が消滅して防げているから良いんだけど、その魔素を補うように私のMPを核の方に移している。

だから、急激に減っている。


斧の解析も終わってないのに、足りない。


どうする?


どんどんMPがなくなっていく感覚がして、それに伴いどんどん選択肢が狭まっていく。


「【想造:クリエイト】」


また100個ほどのナイフが投げられる。

これは防がないと。


「【結界:マジックウォール】」


これでMPがほとんど奪われる。

あと一回くらいは結界を張れるけどまずい。


エレードさんは魔法を撃つのをやめて身構えている。


「【転移:イメージテレポート】」


「あっ」

私はずっとエレードさんの方を見ていた。

見ていたからこそだ。


今度は私の後ろにきた。

次もエレードさんの方だと思ってた。

ちゃんとMPが少ないって計算してたのかな。。


斧で攻撃されるとわかっていても動けない。

私はそれが来るのを睨むことしかできなかった。

“その時”は意外と早くやってくるものなのかって、こんな状況なのにやけに冷静になって悟った。


そして目を瞑る。


ー・ー・ー


「では、ツァンリルはあの少女を。カヲミは引き続き援護を。」


それにしても、俺は今透明のはずなのに報告していた左の魔人ーカヲミと主に見られている感じがする。

アイツらは探知の精度が良い方なのだろう。

じゃあ、俺が動き回るだけでも十分気を引きつけれそうだ。


一方、あのツァンリルとかいう悪魔は俺に気づいて警戒しているがそれよりもリーリン達の方に的を絞っている。

コイツが一番倒しやすそうだ。


ザキが動き始める。

さて、ザキはどうするんだ?

地上戦では無双中のザキだが、飛んでいる相手にはとことん弱い。

相手は2人とも飛んでいるから俺が落とすか?


「君達降りてこい!ずっと飛んでいるなんて卑怯だ!」

「滑稽ね。飛べないあなたが悪いじゃない。」

ククッと笑って話を続ける。

「あんな地上戦が強い相手にわざわざ降りるなんて愚かだわ!」


さっきの戦いを解析していたのか?

もしかしたらエレードは解析されてて完封されてるかも。


「【炎溶:ブラストファネス】」


そんな事を考えている間に攻撃がくる。

あの主、水系統の悪魔じゃないのか?

まあ、まだ決まったわけじゃない。


その魔法は赤い炎が広範囲を覆い被さるように上から降って来る。

結構距離があるはずなのにとても熱い。


ザキと俺はその魔法をバックステップで避ける。

そして、俺はザキの方に移動して小さい声で伝える。

「主達の方を狙いに行くが、無理そうだったら一度リーリンたちの方に行く。あ、あとコイツらを落とせば殺れるよな?」


ザキがチラリと左を向く。

これはあらかじめ決めておいた“yes”の意味のサインだ。


「じゃあ、とりあえずカヲミってやつをを落としに行ってみるわ。」


とりあえずカヲミの様子を伺いながらもツァンリルの方を見る。

エレードの攻撃をツァンリルが魔法の斧で弾いている。


【想造】か。

そうなると早めに倒しておかないと何かやってきそうだ。

ただ今は先にカヲミの方だな。


カヲミ達は俺の事をうっすらだが見えているはず。

そのため不意打ちに警戒しているだろう。


今も悪魔の目がこちらを見ている。

せっかく探知魔法があるのに目があるせいで死ぬことになるとは。

かわいそうに。


俺はカヲミ達の前を横切るような形で走って視線誘導する。

探知が得意な奴ほど敵をよく見る。

カヲミも探知に自信を持っている目をしている。

だからこそそれを利用して殺せたときは面白い。

自分が得意なこと、一番信用してたもので負けたときに絶望しているのが、人格が否定されたかのように思ってしまうところが面白い。

まるで、一番得意なことだけの世界しか見ていないようだ。


「【想造:クリエイト】」


ツァンリルがナイフを生み出してこちらに100個ほどとばしてくる。

だが、ザキが必要なところだけ剣で弾いてくれた。

おかげでリーリンとエレードも助かったようだ。


アイツらは大丈夫なのか?

まあ、リーリンもいるしエレードも無能というわけではない。

なんとかなるだろう。

まあ、大丈夫じゃなかったとしても先にカヲミを倒しに行かないとな。


その後も魔法が飛んできて、そして俺はある程度走り回った後で上を向いて仕掛ける。


【転移:イメージテレポート】



ー・ー・ー


たぶん今ハイドが視線誘導しているのだろうか。

たまにチラチラと僕じゃない方に目を向けている。

まあ、僕は今ハイドがどこにいるかわからないから本当に推測でしかないけど。


そんなことを考えてる間にも象牙色に輝く魔法がこちらに向かってくる。

所々にあの炎の魔法が来る。

それが意外に範囲が広く厄介だ。


【炎溶:ブラストファネス】


また来た。

僕は移動を優先して魔人と距離を取る。


僕は最初一目見た時にあの魔人達の胸のあたりに丸い何かがあるのを発見した。

おそらくだけど、人間も胸に心臓とか臓器がたくさんあるし一番庇いやすい位置だからそこが、


その瞬間魔人達の視線が斜め上に向く。


「わっ」

と、カヲミが声を小さくあげて落ちてくる。

その落ちてくる姿から、どうしようもない虚無感を感じているのがわかった。


チャンスだ!今決めないと。


カヲミとの距離をどんどん縮めて、目標の丸い何かが大きく見えてくる。

そして僕は剣を力強く握り、下から振り上げて目標を斬った。


時間にして5秒にも満たないシーンだがその瞬間だけはゆっくりだった。


意外と簡単に斬れてほっとする。

ハイドに落としてもらったら倒せるなんて言ったけど内心では倒せないかもなんて不安に感じていたのだ。危なかったー。

心の中でホッと一息をつく。


あとはあの魔人だ。

そう思って上を見上げてみればその視界のほとんどが象牙色に輝いていた。


その光との距離は鼻の先から40センチほどで、横からも何本もの光が向かってきていた。


今から剣を振って間に合うだろうか。


そう考え終わるよりも先に体は動いて、なんとか後ろにジャンプしながら剣で弾けた。

だが想定以上に飛んでしまって僕は今空中にいる。


やっぱりか。。


案の定僕の方にもう一度あらゆる方面から攻撃が来る。

上も左も右も正面も攻撃がきている。


空中で身動きが取れないから狙われた。

僕の師匠と模擬戦したときのたいていの敗因だ。

ここから勝てたことはない。


攻撃が迫ってきて僕の視界が再び光一面になった。

それでも光が止まることはなく無慈悲にも命を狙ってくる。





⁉︎

その瞬間緑色と黒色のオーラを纏っている手や足が視界の中で高速に動いて一瞬にして光り輝く攻撃を薙ぎ払って行った。


「もう少し周りを警戒してから突っ込めよ。俺を過信しすぎるな。」

緑色と黒色の何かを手足に纏っているハイドがいる。というかいつの間にか透明じゃなくなっている。


「ッ、魔物でもない癖にやけに魔法の扱いが上手いと思ったら、さては貴様、暗殺者ハイドだな?」

あの主と呼ばれていた魔人が声を荒げた。

「そんな立派なもんじゃねぇよ。それに暗殺者ハイドは死んだ。」

「そんなわけはない。これほど魔法が上手く、呪いも使えるとなるとあのハイドしかいない。それにアイツは死なない。」

「は?人間なんだから死ぬだろ。もう死んだんだよ、ハイドは。」

「あり得ない。嘘だ。」


悪魔はブツブツ何かを呟いている。

あの会話の意味は、さっぱりわからない。

「無事か?」

ハイドが声をかけてくれる。

「あぁ、助かった。ありがとう。」

「とりあえず主を頼む。ツァンリルの方をササッと倒してくる。」

「分かった。どれくらい耐えればいい?」

「30秒もいらないくらいだ。できるな?」

そう聞くハイドだが、答えはもう分かっているんだろう。


「任せろ。」

僕は自信満々に応える。

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