第九話 出発進行

ー・ー・ー

門をくぐり、長い間整備されていなかった橋の前で僕達の足が止まる。それと同時に後ろで南門の扉が閉じるのを感じる。


目の前の景色の中にはどこを見ても魔物。魔物。魔物。距離こそ遠いがこの先ずっと遥か彼方まで魔物が無数にいるのが容易にわかる。


分かっていた。大結界の外は魔物がたくさんいるということなんて最初から。分かっていたはずなんだけど、理解ってはいなかった。


僕はみんなの方を見た。ハイドはいつも通りの顔だが、足が止まった事からもやはりびっくりしているのだろう。それに警戒している気配がする。

エレードの方を見ると目が合った。エレードは辺りを見回して周囲の安全を確保しているようだ。だが足を動かすことはできないみたい。

リーリンは後ずさったのかみんなとは少し後ろにいた。全身が震えている。


僕は声をだす。

「分かってはいたけど、いざこうやって目の前にこの景色が広がっているのを見ると動けなくなるね。」

「そうだな。衝撃的かもな。」

「なんか他人事みたいに言うじゃん、ハイド。」

「俺は一回おんなじようなことになったことあるからな。」

「なんで、、」

さっきからリーリンが喋っていない。

「リーリン?」

「い、いや、なんでもないです。」


ー・ー・ー


 私は目前に広がる景色を前に身の危険を感じた。魔物は本やネットに載っているのを見ただけで、実際には見たことがない。正直私も強くなってパーティに入れてもらえたのだから大丈夫だと思っていた。しかしそんなことはなく思わず後ろに下がる。

やっぱり怖い。お母さん、お父さん、たすけて。

ふと自分の右腕のバングルが目に入る。旅に出るときお母さんからもらったペンタス模様のバングル。

そうだよね、お母さん。私にはやらないといけないことがあるんだよね。たとえそのせいで私達が死んでしまうことになってでも。


ー・ー・ー


「い、いや、なんでもないです。」

リーリンはそう言った後、普段通りの表情になる。

やっぱり怖かったのだろうけど、みんなパニックにならなかったからよかった。

「みんな、ゆっくり進んで行こう。時間はかかるだろうけど安全第一で。」

僕の言葉でまた旅が進み出した。


ー・ー・ー


俺達は魔物を順番に倒しながら旅をすることになった。まず最初に会ったのはスライムだった。ぴょんぴょん跳ねてきてかわいい。だが、ザキは剣士だから嫌っているみたいだ。まあ、俺も嫌い。


「エレード、お願い!」

「このスライム可愛いよ!」

エレードはスライムに近づいていく。

「あぶないですよ!」

「そんなに?」

「はい、スライムってくっつくと服ごと体を溶かしてくるんです。それで捕食対象のMPを吸って自分の体に還元します。どんなに硬い金属を使った防具や武器でも溶かせるそうです。」

「あー、そういえばそうだったっけ。でも魔法なら一発だもんな。」

そういってエレードは【攻撃:キャウレスライツ】を一発撃つ。スライムはすぐに魔素のチリになって消える。


そのとき、

前方に大きな魔素の塊を感知する。それは大きな大きなスライムで俺らの身長の2倍の高さがあり横には4メートルくらいだ。

「これが、キングスライム…」

リーリンが少し震えた声で言う。


キングスライムとはスライムが大きくなったもの。でもスライムは魔法ですぐ倒されてしまうためここまで大きくなるのは珍しい。それにここまで大きくなればただ魔法で攻撃しただけでも倒せなくなるし、飛び跳ねるだけで厄介だ。


そのときキングスライムが大きく飛び跳ねる。それだけなのに地面がえぐれている。

上から俺達を捕食しようと降りてくるその体は優しい水色だが不透明で底が見えない。

リーリンが上に【結界:マジックウォール】を張り防ごうとしていた。

「リーリン、下がれ!」

ザキがリーリンの方へ走り正面からハグするような形で持ち上げキングスライムから距離を取る。

【転移:イメージテレポート】で俺は距離を取る。エレードは飛んで距離をとっていた。


キングスライムはリーリンが張った結界を一瞬で粉々にしながら着地した。土埃が舞い、だんだんと楕円形の魔物の姿が見えてくるのはキングらしい演出だ。


「エレード、やっちまえ!」

「わかってる!【攻撃:キャウレスライツ】」

さっきの10倍以上の光線がキングスライムを襲う。

しかし、魔法は全て跳ね返され乱反射して俺たちの元へ帰ってくる。


キングスライムって反射もってるのかよ!

「【結界:マジックウォール】キングスライムは反射持っていなかったはずです。」

「もってないんかよ。」

「じゃあ、特殊個体なのか。」


魔物は生まれる時に魔法を獲得するのだかその魔法の種類は決まっている。しかし稀に、生まれつきそれ以外の魔法を覚えていることがある。その数が増えれば増えるほどレアだ。


「エレードは解析をして。リーリンはそのままサポートを。」

ザキが指示をだす。

俺どうしよ。やることないな。

そんなことを考えていたとき、もう一度跳んでくる。

そしてまたドスンと落ちる。着地した衝撃はリーリンが防いでくれた。

「エレード、解析はまだか?」

「…できた!いくぞ!」


ー・ー・ー


 この世界には魔物を倒す方法が大きく分けて2つある。1つ目は、単純に体を切断したり傷をつけることだ。そうすることで魔物の体を構成する魔素を、布の糸がほつれるようにバラバラにして魔素のチリにさせることができる。さっきのスライムの倒し方がそうだ。

2つ目は、魔物の体を構成する魔素を全て解析し、その魔素の反対の種類を同じ量だけぶつけることだ。ぶつけると、


「消滅しろ。【置換:ゼロ】」


その瞬間キングスライムはハッキングされたかのように点滅しだした。しかしそれは一瞬で、気づけばそこには何も無かった。そんなものは最初からなかったかのように、静寂が訪れる。


「エレード、ナイス!」

「どうだ!聞いたかハイド。ザキから褒められたぞ!」

「アーソウダナ。」

「なんでそんな棒読みなんだよ!」

「ザキさん、さっき助けてくれてありがとうございます。」

「あぁ、間に合って良かったよ。みんな怪我してない?」

「全然大丈夫だよ!」

「俺もだ。」

「私もです。」

「じゃあ、引き続き休憩しながら行こう。」

そうしてまた進み出す。


ー・ー・ー


日陰で休憩していたときエレードが喋り出す。

「暑いなー。」

「そうだねー、そんなに動いていないんだけどね。」

「あ、もしかしたらですけど外にいるからじゃないですか?」

「なに当たり前のこと言ってんだ、リーリン。」

「あぁ、いやそういうことじゃなくて、大結界の外にいるからじゃないですか?噂程度ですが、あの大結界の効力は、中のものを守るということですけどその中に太陽光も少し入っているんじゃないかって話です。」

 

「つまりは効力が強すぎて太陽光までも防いでいたってことか?」

「はい。調情団の団員さんからの発言みたいです。」

「じゃあ、俺らも結界を纏えばいいってことなのか!」

「エレード君?話聞いてたのかな?結界が強力だからできたって話だろ?」

「いやもしかしたらできるかもです。」

「できるの⁉︎」


「そもそも、体と太陽光の間に結界があるから物理的に防いでくれているんじゃないかって話もあるんですよ。」

「なるほどな。もしそうでなくても不意打ちを防げるようにはなるのか。」

「たしかに!なんで思いつかなかったんだろ。」


「え、ずっと張るのはいいけどリーリンの魔力は大丈夫なの?」

「ザキさん、、結界には設置型があるんです。設置型なら魔力を吸われ続けません。」

「でも結界の形が変えられなくなって動けなくなっちゃうんじゃ?」

「あー、そこで便利な物があってな。まあ、理屈は置いといて自動的に形を変えてくれるようにできるんだよ。」

「はい。なので可能です。」


ー・ー・ー


「はい。なので可能です。」

そういうものなのか。やっぱり魔法のことはよくわからないな。

「そうなんだ。じゃあ、やってみてくれ!」

「そうですけどハイドさん、どのくらいの強度にすればいいんですか?」

「うーん、一回てきとうに結界出してくれるか?」

「わかりました。【結界:マジックウォール】」


「最低でもそれの10倍くらいは必要かな。」

「そんなにか⁉︎流石に言いすぎだろハイド。」


僕的にはそんなに驚くことなのかどうかもわからない。

「いや普通に考えてみろ。不意打ちをするということはそれで確実に殺しにくるだろ。いつもは攻撃を見てから結界を張れるから合わせれるけどそうじゃない。もし敵が結界を常時纏っていたとしてその結界が弱かったら?俺なら間違いなく不意打ちで結界を壊してからすぐに2段目で殺す。まあ、そこでラグが出るけど殺されるのなら俺ら的にダメだろ?だから強度は、死ぬのは防げるけど致命傷をくらうような脆い奴じゃなくて確実に防げる強度、もしくは不意打ちを諦めさせるほどの強度だ。」


 それなら僕でも理解できる。この結界じゃ僕でも切れるのだからそれの10倍でも足りないくらいかも。

「それに、僕ならその強度の結界なら切れるよ。」

「…なるほど。言われてみればそうですね。」

「じゃあ、それぐらい強いやつを張ってくれ!リーリン。」

「いやそんなすぐには張れないですよ…」

「え、」

はぁ〜〜とは言われてはいないが、ハイドの顔にそう書かれている。そしてリーリンには苦笑いされていた。


「あのですね。魔力の大きさは魔法を練り込む時間によって規則的に増加するんです。だから魔法が強力であればあるほど発動に時間がかかるんです。単純に魔素が増えて魔力が大きくなるからですね。ですので単純に考えればあの10倍以上を出すとなると15秒ほどですが、そういう訳でもないです。比例して強くなりますが、それは理論上可能とされているだけで、その人の技量によって変わるので、想像より多くの時間が必要になります。」


「じゃあ、実際はどれだけかかるの?」

「それはリーリンの変換効率次第だが…」

「えっと〜、10倍なら225秒、20倍なら…」

「450秒?」

「あ、そうですエレードさん。思っていたよりは早いですかね。」

「え、えっと、それって何分くらい?」

「225秒は3.7分くらい?で450秒は7.5分ですかね。」


これで早い部類なのか。やっぱ魔法わかんないや。

「20倍の方がやっぱり良い。そうでなくてもできるだけ強くなるようにしてほしい。あ、俺のは別にてきとうでいいぞ。ステルス行動するし。」

「でもとりあえず20倍目指して頑張ります。」


ー・ー・ー


約30分後

「【結界:マジックウォール】…ふぅ。これで全員分ですかね。」

「ありがとう。お疲れ様。」

ザキがそう言うとハイドは「よう、できたな、」と小さく呟いていた。

俺的には優秀な僧侶がいて助かる。ただまだ解呪が得意という訳ではないからどこかで確かめる必要があるな。普通に聞くか?それとも…


ー・ー・ー


「リーリン、すげえな!あんな集中するなんて俺には無理だ。」

エレードがそう言うとなぜかリーリンは嫌そうだ。顔には出てはいないがそんな感じがする。

「ありがとうございます。」

「エレードにはできるはずがないもんな。」

「はい???」



その後は休憩しながら進んだ。その時は基本的にザキがどんどん倒していくから俺は不意打ちする必要が無かった。やがて夕焼けがきれいな時間になった。


「じゃあ、ここら辺でキャンプしよう。」

ということでみんなでテントを張ってその周りに結界を張って俺が幻影魔法で外から見たら何もないようにしておいた。そして食事をつくって食べた。意外とリーリンは食べるみたい。逆にザキはあんまり食べなかった。


真ん中に焚き火を炊いてみんなで囲んでいる。

「まだ1日なのに疲れた〜。」

「そうだね。体力勝負になりそうだね。」

「エレードは寝たら元気になるだろ。」

「いや流石に疲れてると思うけど!」


「……あの、今までずっと思ってたんですけど、」

リーリンが手を小さく挙げている。

「なんでそんなに仲が良いんですか?私達一応初めましてですよね?」

う〜ん確かにそうかもしれないしそうでもないかも。


「俺とハイドは会ったことあるけどな。一回だけ。」

「一回ですよね。」

「まあ、あのときからなんか馬が合ったからな。」

「でもザキさんとは初対面ですよね?」

「そうだよ。でもなんか仲良しになっちゃった。」

「うん。」

リーリンは納得いかない様子。

「まあまあ男同士だもんな。そんなもんだよ。」

「そうですか…?」

「それにもう旅のパーティでしょ?そんなに気にしなくて良いんじゃない?」

「まあ、そうですか。あ、あと皆さんはなんでパーティに入ったんですか?」


「ん、面白そうだったから。(呪いを解くためだけど。)」

「俺も、面白そうだったから。(嘘ではないけどそれより逃げないといけなかったから)」

「え、そんなことあります?命がかかってますけど。」

「まあ、そんなもんだよな?エレード。」

「ウンウン。それよりリーリンは?」

「私は普通に平和にしたかったからですけど。(まあこれなら嘘にはならないよね。たぶん。)というかなんで私達に声をかけたんですか?ザキさん。」

「ん?うん。」

「いや、回答になってませんけど。」


「え、だってじいさんがこやつらを説得してこい。なんていうからそれ通りに…」

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