第八話 人々の変化
ー・ー・ー
俺は何故今まで疑問に思わなかったんだ。
7年前のあの日、ザキを殺す依頼を引き受けなかったが、そうなれば他の方法で殺しに行くだろう。
それが魔王からの依頼となればなおさらだ。
俺はとりあえずあの日起きたことをみんなに話した。
「ごめんな。」
「…ハイドは悪くないよ。どちらにしろ襲われてただろうから。」
ザキが本当にそう思ってるのかはわからない。
リーリンが話し出す。
「…ですがそうなると、ザキさんは魔王と関わりがあるのでしょうか?」
「たしかに。何か心当たりは?」
「いや、無いね。むしろあの時初めて魔物と関わったよ。」
「エレードならよく関わってるか?」
「………」
腕を組んで難しそうに考えている。
「…心当たりがないとなると魔人が影で観察してたのか?だとしてもただの村人なんだからわざわざ殺す必要がないよなぁ。」
俺は考えながら呟く。
「………」
「そうですね。もうちょっと情報を集めた方が良さそうです。」
「うん、思ったより裏で魔人が動いてるみたいだしこれから調査したら何か見えてきそうだね。」
この話が今になって繋がるとはな。
あのときの俺は思いもしなかっただろう。
「……う〜ん、……」
エレードは本当に考えてんのか?
さっきからずっと黙ってるだけなんだけど。
まさか、いやそんなことはないか。
「じいさんはなにか知ってることあった?」
「フム、7年前のことか。う〜ん、何かあったような気がするのう。」
「ほんとか、じいさん!」
「う〜ん、なんじゃったかのぉ〜。7年前…7年前…」
「…う〜〜ん、美味しいケーキ、、たくさん、……」
エレードやっぱ寝てたか。
「美味しいケーキ…美味しいケーキ……そうそう、美味しいケーキといえば、」
まじかこのじいさん。
「東にある“シャレーゼン”というスイーツ屋が美味しくてね。それで面白いのが、スイーツの名前が独特でね。」
確かにあそこは美味しいから俺もよく行ってけど。
「ワシがよく頼んでいたのはたしか…“サンタの帽子とヒゲの集会”というのでのう。これがまた絶品で、クリームは甘すぎず主役の苺の甘さを引き立てていてクリームとスポンジだけでも無限に食べられるバランスの良さ、」
「いや、爺さん7年前の話じゃないの?」
ザキナイス!
「ああ、そうじゃったの。7年前…7年前…」
「……お日様、、…」
「お日様、お日様、ああ、そうそう夕日が綺麗に見えるところがあってね。ワシも若い頃に何回か行ったことがあってのぅ。」
エレード、頼むから一旦黙ってくれ。
「西にあるどこの街だったかのう、…忘れてしまったわい。でもあの綺麗な夕日は今もしっかり覚えておる。綺麗に見えるときは限られているからのう、、。たしか、、前回は7年前だったそうじゃのう。」
エレード、お前天才だな。
「あの夕日は別名“女神の微笑み”と言われておってのう。どこかの宗教ではあの夕日が見られるときに女神がこの地に舞い降りるとされているそうじゃのう。」
「あ、それは私の家系も信仰している、祈真教の聖典に載っているものですね。」
そうか、リーリンは僧侶だったか。
「そうそう、祈真教じゃったな。ワシは7年前は見れなかったからのう。死ぬ前にもう一度でもいいから見てみたいものじゃ。」
「そうですね。私はそれをたまたま見れたのでよかったですが、あれが最初で最後の夕日だったのかなと思います。もう一度見たいですけど。」
「そんなに言うくらいなら見てみたかったな。」
「ザキ君達はまだ若いんだからみれるじゃろうよ。」
俺も見たいなぁ。
「そうだといいね。…というか今は7年前に何か起こってなかったかっていう話をしてるんだよ。夕日の話はあまり関係が無さそうだけど、何かあったの?」
「いや、七年前といえばこの事がふと頭に浮かんだだけじゃ。特にそれ以外何かあった訳ではなかったのう。」
「そっかー。それじゃあ特に手掛かりはないみたいだね。」
ザキは溜め息混じりにそう言う。
その後解散してまた旅支度を進めた。
十日後の夕方。
「じゃあ、ビギニン村に出発しよう。」
俺達はジニアリディタウンを南下して街の南門に着く。
そこには兵隊が数人いて見張りをしている。
「あ、ザキ君。俺のこと覚えてるかな?」
兵隊の1人がザキに話しかけてくる。
「ザキ君がまだ小さい頃にここに逃げてきて街案内をちょっとしたんだけど。」
「あー!あの時の兵隊さんですね。覚えてます。あの時は本当に助かりました。」
まさか、あの話がここでも繋がるとは。
「いやいや、そんなに大したことはやってないのだけどね。で、その後大丈夫か心配してたんだよ。でもまさかザキ君が勇者試験を合格するとはね。本当におめでとう!」
「ありがとうございます。」
ザキは少しお辞儀をしながらそう言う。
ザキはこの辺に住んでたからザキを知っている人が多いし、勇者試験のことも相まって有名なのか。
「それで、今から魔人を倒しに行くのかい?」
「はい。そうですね。」
「気をつけてね。敵は魔人だけじゃなくて他の魔物とかもいるから周りを警戒するんだよ。」
「わかりました。頑張ります。」
そして南門をくぐる。
森や田園が広がるその間を通るように道がある。
依頼としてビギニン村に行ったことがあるけどそのときは雑草とかが抜いてあるだけだった。
だが、今は道にレンガが敷かれている。
そして暗くなると灯りがつく街灯が等間隔に設置されている。
「ザキ〜。こっからその村までどれくらい?」
エレードがだるそうな感じで聞く。
「20分くらいかな。すぐだよ。」
「いや、それはすぐじゃないでしょ。」
「は?そんくらい我慢しろよ。それともいつも馬車に乗せてもらってるからなまってるのか?」
俺がそう言うと、エレードよりリーリンが反応した。
「え、エレードさんってそんなすごい人なんですか…?」
「いや〜、でも徒歩20分は遠いよ。」
「えぇ…。」
「ほら、リーリンが絶句しちゃうだろ。というかエレードはほんとどっかのガキと一緒だな。」
ザキが反応する。
「いやハイド言い過ぎじゃない?どっかの子供の方が体力あるよ。」
「え、ザキもそっち?助けてよ。」
「まあまあ、落ち着いてください、エレードさん。あ、あと、私南の魔人について調べてきたんですよ。それを皆さんに共有しておこうかと思いまして。」
エレードの慰めはそっちのけなんだな。
リーリンによると情報源が2つあるとのこと。
1つ目は長年継承してきた書物。2つ目は調情団という兵隊の中でもさらに優れた人達が魔王の領土の情報を命懸けでとってきた物らしい。
まず書物の情報。
南の魔人がいる都市の名前はポーキュパインタウで、その中のシッディーキャッスルという建物があるらしい。
そこに行くまでに街を1つと村を6つ通らないと行けないらしい。
ポーキュパインタウンを中心に南の街では資源に恵まれ、広大な土地があったため武具や建築物の素材などとにかく物の生産が盛んだったみたいだ。
次に調情団の情報。
今の南の魔人は炎魔法の使い手。
先代が爆発魔法の使い手だったため爆発魔法にも警戒する必要があるかもらしい。
歴代2代目以降の勇者は南の魔人を倒しに行ったきりで帰ってこなかったが、勇者が行った後に毎回調情団が捜査すると南の魔人が変わっていた。
そのため南の魔人は倒せているのではないかと言われている。
おそらくその部下に殺されたのではないかとも推測されているらしい。
その場合年々弱くなっているため4大魔人の中では1番弱いとされているみたいだ。
「ありがとう。僕も前に調べたんだけど最新の情報が入ってたみたいだね。」
「はい、そうみたいですね。というか皆さんは逆になんの準備をしてたのですか?」
リーリンの顔はいつも通りではあるが絶対内心で怒っている。
俺の勘がそう言っているのだから間違いない。
「俺はハイドと一緒にずっと模擬戦してたからなんも準備してないよ!」
エレード、お前って奴は…
「いや、それはエレードだけで、俺はちゃんと隙間時間とかに準備してるし、旅出る前にもうある程度準備してるから、ちゃんとしてるよ。」
「そうですか?」
「嘘つけ、ハイド。絶対してなかっただろ。」
「いやいやどこぞのガキの魔法使いじゃないんだから、ちゃんとやってるにきまってるだろ。」
「なんか、ハイドさんもそんな感じなんですね。暗殺者として有名なのに準備もしないで適当にやってるんですね。」
そんなんだから有名になったんだけどな。
「いや、ちゃんと準備してるから。信じてよ〜。」
リーリンから冷たい視線を送られる。
そんな視線は求めてないんだけどなぁ。
「エレードさんも模擬戦ばかりしてないで情報を集めてください。まあ、普段から頭を使わなかったから使えなくなってるかもですね。」
リーリンは何事もないかのような顔で言い放つ。
「んなッ」
エレードは固まってしまっている。
それが驚愕しているのか怒っているのかはわからない。
そういえばザキはなんかやってたのか?
「まったく2人ともちゃんとしてください。」
あれ、ザキは?
そんなこんなしていた時に村が見えてくる。
「あれがビギニン村だよ。」
村は俺が思っていたよりも発展していた。
7年前に襲われて一部の建物が壊れたのだろう。
そこに新しくできた宿だったりちょっとした商店街があったりした。
「今日はもう遅いから僕の家に泊まって明日の朝出発しよう。」
「ですが、せっかくならあそこの宿に留まりません?お金はたっぷりありますし!」
と悪魔リーリンが提案する。
そのお金は全部俺が出してるんだけどな。
てか、前の請求書を見た時にびっくりしたよ。
準備だけでも10万コインかかったってどういう事?
ずっとこの調子じゃ流石に無くなるぞ。
「いや流石にお金は貯めておこう。いざという時に使えなくなったら困るだろ。ザキの家もそんな悪いわけじゃないだろ?な、ザキ。」
ザキはうーんと考え込んでいる。
「そ、そうだよな、ザキ。」
「いや、せっかくなら宿に泊まろう。」
「なんでだよ。どう考えてもって、あ、エレードはどうだ?」
「ん?」
まずい予感がする。
「あぁ、宿泊まれるんだろ?嬉しいな。」
俺の貯金が無くなっていくのが頭の中で想像できた。
翌日の朝。
俺たちは今ビギニン村の南門に向かっている最中だ。
「おーい、ザキ君達〜!」
後ろから声が聞こえてくる。
さっきのジニアリディタウンの兵隊だ。
忘れ物でも届けにきたのか?
「どうしたんですか。」
「はあ、はあ、良かった間に合って。ちょっと頼みたいことがあってね。
私はビギニン村の警備もしているんだけど、最近この付近までサンダードラゴンが飛んでいるんだ。流石に襲ってきたり大結界を壊そうとしたりはしてこないんだけど、もしあんなのが襲ってきたらとんでもない被害が出るに決まってるだろう?」
興奮しているのか敬語が崩れてしまっている。
というか、まさかこいつ…
「この村の近くにサンダードラゴンの巣があると思うんだ。だからそれを倒してきて欲しい。」
やっぱか。
「いや、倒せそうならで良いんだよ。そんな、無理になんてことじゃないんだ。でもちょっと様子を見るだけでも…」
「良いですよ。」
あぁ…そうなるよねー。
「ほ、本当かい?ザキ君。」
「本当ですよ。ただまあ、倒せるかどうかは見てみないと分からないですけどね。」
「全然いいよ!ありがとう。気をつけてね。」
そう言って嵐のような人が去っていった。
やっぱザキは受けちゃうんだな。
少し歩いて、俺たちは南門の前に着く。
この門を潜った先には魔王の領土が広がっている。
俺達の周りに人が集まりざわつき始めた。
そんな中ザキが村の人達を見ながら静かにつぶやく。
「僕は昔いた友達や村の人達全員知ってたんだ。何しろ小さな村だったからね。でも今では昔から知っている人の方がずいぶん少なくなってしまった。時間が流れてこの村も変わってしまったんだね。」
ザキは、変わってしまったことを残念に思っているみたいだ。
「でも仕方ないだろ。」
そうだね、とザキが言う。
「目まぐるしく日々変化していくからこそ、その一瞬一瞬を大切にしないといけない。今になってから子供の頃のこの村が恋しいよ。」
「まあまあ、過去に縛られすぎるのも良くないでしょ。」
エレードが慰めるように言う。
「そうか。あれはもう過去の物になってしまったんだね。」
その慰めの言葉は響いた。
良い意味でも悪い意味でも。
そこでリーリンが伝える。
「ザキさん、そんな落ち込まないでください。変わってしまってもいい思い出が作れますよ。」
ザキはその言葉にうん、と言って一度目を瞑る。
そしてまた目を開ける。
その目には確かな決意が灯っていた。
「そうだね。過去に囚われないでこれからは未来に目を向けよう。今から僕達が新たな時代を作るんだ。」
自分に言い聞かせるようにそう宣言した。
俺たち3人も覚悟はできている。
「よし、行こうみんな。」
大きな壁の様な南門が開く。
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