第三話 有名な暗殺者
「暗殺者ハイドってやつ知ってる?」
横を通り過ぎた女性がそう言った。
俺の名は、暗殺者ハイドとしてすっかり有名になったな。
指名手配までされている。
あの日がなければそうはならなかっただろうけど。
たしかあれは“七年前”だったかな…
ー・ー・ー
プルルルルと電話が鳴る。
「もしもし」
「お前が暗殺者ハイドだな?」
「あの〜人違いです。切りますね。」
ガチャ。
本当は合っている。
だが会話するのは何でも屋としての依頼を頼まれる時だけだ。
例えば、
プルルルル
「もしもし」
「明日の10時〇〇通り」
「了解」
ガチャ。
こんな感じで時間と待ち合わせ場所を言って電話を切るっていうのが暗黙の了解だ。
会話ではないかも知れないけどな。
もう夜遅いし10時のアラームかけて寝るか。
次の日。
ピロロンパロランとアラームが鳴る。
辺りはすっかり明るくなって太陽からの視線が熱い。そんなに見られても何も出てこないぜ?
そんなことを思いながら〇〇通りに着くとまた同じ番号から電話がかかってきた。
「どうした?」
「〇〇通りのカフェの前にいる。」
「ああ、あれか。」
ガチャ。
俺は依頼主の方へ歩いていった。
「それで、要件は。」
「ビギニン村にいる“ザキ”という少年を殺せ。100でどうだ。」
何故、人1人にそんな額かけるんだ?
「なぜ殺す必要がある。」
「それは私の都合だ。お前が知る必要はない。」
「流石の俺も理由がない殺しはしねぇ。嘘でもなんか言っとけよ。」
「あぁ、受けないなら他の者に頼むよ。」
たしかに1人暗殺するだけで100なのはデカすぎる。
受けた方がいいに決まってる。
だけど、なんとなく怪しいと思う。
まあ、それはただの勘だが、ちゃんとした理由もある。
暗殺する理由が隠されている以上、迂闊に受けれない。
俺が誘き寄せられている可能性があるからだ。
だからとりあえずは断ろう。
「そうしても良いが、口止め料が必要だなぁ。」
「まったく、君が素直に受けてくれたら良かったのに。」
「理由を話せばすぐだけど?」
そのとき俺の電話がプルルルと鳴った。
見慣れた番号だ。
「わりぃ。」
「構わん」
俺は少し離れて電話に出た。
「もしもし」
「そいつからいくらもらった?」
「100だ」
「200あとで出す。そいつを殺せ。」
「なぜ殺す?」
「おい、気づいてないのかよ。…いや、お前ならそうか。そいつは魔人だ。」
こいつは意外とそういうの気にするんだな。
「わかった。ちゃんと払えよ。」
「殺したらな。」
ガチャ。
「わりい、依頼が入った。」
「そうか。」
「それで、理由を話すのか?」
「口止め料、10だ。」
「いや50だ。本当に頼んでいたとしたのと比べれば半分で済むぜ?」
こちら側から提案するなんておかしな話だし、ぼったくりではあるが、殺すからそのいい口実になるかもしれない。
「チッ、抜かりないな。ほら、50だ。」
小さなケースの中に札束が入ってるのを確認した。
そしてそれを受け取る。
「たしかに受けとった。広めないでおくよ。」
「頼んだ。」
依頼主-魔人は歩いていった。
しかし、人間の街に入れるということは相当のやり手だな。
さっきの依頼は魔人が理由を話さなかったことから魔王からの命令だろう。
それならお前が殺せよって感じではあるけど。
え、なんで魔王からって断言できるのかって?
簡単な話だ。
魔人とは魔王に付き従った魔物のことをいう。魔物っていうのは体のほとんどが魔素からできた生物のことの総称、または魔人以外の魔物のことをいう。
あの依頼主が魔人と言ったから断言できた訳だ。
ん?その情報が嘘かもって?
それはないな。
俺がアイツに【探解:ディテクティブズアイ】を使用して魔物であることがわかっているし、頭が回るのは魔人くらいだろう。
それにあいつは信頼出来る奴だ。
そんなことを思いながら俺は反対側に歩いて、角を曲がって薄暗い路地に入る。
それから【透明:トランズミット】を使って魔人のあとを追った。
魔人はそのまま街を出て森の方へ向かっていく。
森の中でテレポートして戻るのか?
まあ、殺すにはちょうど良い。
そのまま付いていって森の中に入ったら殺そう。
俺の予想通り魔人は森の中へ入った。
俺は静かに背後に回った。
今だ。
首に狙いを定め、切り掛かった。
「【攻撃:キャウレスライツ】後をつけ回すとは。さっきの依頼か?ハイド。」
バレてたのか?
「それは私の都合だ。お前が知ることではないってねw」
「…その言葉を返されるとはな。【攻撃:キャウレスライツ】」
複数の光線は俺に迫ってくる。
数が多いけど防ぐのは楽勝だな。
魔法を捌きつつ様子を伺う。
今ナイフを投げれば、、
「さらばだ。【転移:ポイントテレポート】」
俺が投げたナイフは空を切った。
「チッ。逃がしちまうとはな。」
とりあえず依頼主に電話するか。
プルルル。
「終わったか?」
「いや、逃げられた。なかなかのやりてでね。」
「ほう、君が失敗するなんてね。珍しい。」
「ああ、だがテレポート先がどうもおかしい。だいぶ北の方に行ったんだ。」
俺はアイツに口止め料をもらうときにふれて【呪い:パラシディック】をうっすらかけて位置がわかるようにしていた。
といってもさすがに離れすぎてきれてしまったが、だいたいの方角はわかった。
「ん?それならもしかしたら魔王に報告して適当に噂を流すかもな。ハイドの名が売れちゃうな。」
まじか。それはやばい。
暗殺者の世界では、名が売れるのはよくないとされている。
それこそが任務に失敗したという証だからだ。
当然そうなれば依頼は来づらくなる。
しかしそれよりも、世間に名が売れるということは世界中のやつらがそいつを調べ、そいつの住所、性格、今までしてきたこと、今何をしているか、どんな見た目か、どんな服を持っているか、何を食べるのかなど隅々までバレることになる。
たしかにやばいやつとは関わりたくはないだろうからそのために調べる気持ちもわかるが、調べられる側からすればものすごく辛い。
それに本当はそこまでヤバいやつではないかもしれない。
ただ、噂を流す側が事実を改変し強調しているだけなのだ。
そんなかわいそうやつを嫌というほど見てきたし、そいつのその後は孤独か指名手配で殺されるかだった。
どっちの方が辛いのかはわからない。
だが、俺も今からそうなるだろう。
「まあ、そうだよな。」
「でもまだ俺はお前を頼らせてもらうよ。」
「まあ、それはありがと。でも基本的に外には出ないでおくよ。…あぁ…やらかしたな。」
「ドンマイwそれじゃあな。」
ガチャ。
はあ、失敗してしまったものは仕方がない。
くよくよしてたってどうにもならない。
とりあえず必要なもん買いだめるか。
あ、
プルルル。
「おい、お代寄越せ。」
「ん?俺は殺したらなって確かに言ったぞ。覚えてないのか?」
さっきの電話内容を思いだす。
最後の最後で言われたことを思い出す。
「チッ。そうだったな。」
「wやっぱり動揺してる?」
「うるさい。」
ガチャ。
あいつも抜かりないな。
まあ、たまたまそうなっただけだろうけど。
今回は許してやらんこともない。
ー・ー・ー
…そういえばこんな感じで指名手配されたんだよな。
まあ、対策をしたから家も俺の姿もバレてはいない。
え?家は戸籍とかがあるから国の役所からバレる?
おいおい、俺が本名で登録すると思ったのか?
まったく、その辺は暗殺者や何でも屋の基本だぞ?
でもそんな生活をしてるからだんだんキツくなってきている。
だから何でも屋をやめて家に引きこもるだけになろうかなと考えていた。
お金は今までたくさん稼いだし。
プルルル。
依頼か?
「もしもし。」
「今日の15時〇〇通りのカフェの前で待っているよ。」
「了解。」
ガチャ。
知らない番号だったな。
まずはどんなやつかを探らないと。
…というか今14:55じゃねえか。
ちょっと早いけど家出て待ってるか。
家から出ると太陽からの視線が熱い。
あのときを思い出させる視線だ。
そんなに求められてもファンサはしないよ。
ちょっと早く着いたが、明らかにカフェの前で待っている人がいた。
茶髪とは珍しい。
一応電話してみる。
プルルル。
すると電話に出たのでアイツみたいだ。
「はじめまして。今日はなんの要だ?」
「あぁ、君か。依頼をしたくてね。まだ何でも屋をやってるんだろう?」
「あぁ、そうだが。」
俺のことを知った上での依頼か?
不思議なやつだな。
「よかった。間に合ったみたいだね。それで本題なんだけど、
僕と一緒に魔王を倒してほしい。」
一瞬理解ができなかった。
「お前、何言ってんだ?流石の俺にも限度があってな?そんな無茶なことはできないぜ?」
「だから僕と一緒にって言ってるじゃん。あぁ、言ってなかったね。僕はザキだ。勇者になるって王様に誓った。」
コイツが最近有名なザキか。
ってまてよ。ずっと聞いたことあると思っていたけど、、
俺の頭の中に7年前のあの日が浮かんだ。
「そうか、お前がザキか。お前のことは知っている。まさかアンタとは思わなかったが。」
「それは僕も思ったよ。それで、君はそろそろ何でも屋を辞めるだろ?それなら僕と旅に出ない?」
なるほど。
どうせ最後なら、と誘ったのか。
「俺のメリットは?何でも屋は損得で動くもんだぜ?」
「楽しい旅ができる。それに4大魔人や魔王を倒したら有名になれるよ。どうだ?」
「楽しい旅ができるとかなんとかの気持ちはわかる。そこはメリットがありそうだ。」
それに旅をするなら転々と移動できるから指名手配犯的にも良い。
「しかし、有名になるというのはデメリットだぜ?」
ザキは、少し首を傾げる。
「なんで?有名になればみんな僕に注目する。みんなの憧れの存在になれるし、みんなに希望を持たせることができる。良いことじゃないか。」
…やっぱりそう思うよな。
「あのなぁ、注目の意味を履き違えているぞ。注目されるということはお前の何もかもを調べられるんだ。見た目、性格、住所、今までしてきたこと、いまどこにいるか、どんな服を持っているか、何を食べるのか。いろいろ、隅々まで、徹底的に調べられる。そしてそこから恨みを持たれて殺されることだってあるんだぞ。わかってるのか?」
「それは君が見ている世界が狭いからじゃない?」
今度は俺が首を傾げた。
「もしくは悪い行いをしてきたからそう思うんだよ。まあ、たしかに、君が言ったことも合っていると思うよ。僕達が有名になれば調べられる。だけど、それでいいじゃないか。むしろ今から伝説をつくるのだからそれをみんなに知って欲しい。」
コイツなんなんだ?
「もし俺らが有名になったとき、それで俺がそのパーティにいたらどうするんだ。俺だけでなく、お前も被害を受けるだろ。」
まあ、俺が犯罪してるのが悪いかも知らないけどな。
「そうだとしても、君に頼みたいんだ。」
ザキは真っ直ぐこちらを見てそう語る。
「本気で言ってんのか?」
思わず声に出た。
「僕は最初から本気だ。」
はぁ〜、とため息が出る。
でも、その熱意は伝わった。
「まあ、、わかった、わかったよ。有名になるどうこうの話は理解した。だけど、魔王を倒せるかどうかは別の話だ。」
「じゃあ君は旅をしたくないの?指名手配で殺されるより、よっぽど良いと思うけと。」
痛いところを突くな。
「たしかにな。でもわざわざ俺を誘う理由は?」
俺にした理由はまだ聞いてない。
「君は何でも屋だから世界のいろいろなことを知っていると思ってね。それに魔人とかの攻略には暗殺者が向いていると思った。…それでそこにちょうど説得できそうな暗殺者がいてね。」
ザキは、笑顔を咲かせながら言った。
「お前、俺じゃなきゃ死んでたぞ。」
少しだけ威圧して言う。
一瞬びっくりしたようだが、すぐに元通りになる。
「…まあ、それに僕は君のことを本当は優しい人だと思っている。なかなか表には出さないけどね。」
「そうか。」
俺の何を知ってるのかは知らないが、思ったよりは面白そうなヤツだな。
それに俺もあんな生活から逃げれるし、暇だったのは事実だし。
「わかったよ。その話を受けてやる。」
「ほんと、
「ただし、、…途中で諦めるなよ。」
ザキは口角を上げて宣言する。
「…当たり前だ。」
その言葉聞けて良かった。
「それじゃあ、とりあえず僕の家に案内するよ。」
「いや、俺は準備してから行くからお前も準備ができたらまた電話しろ。」
「わかったよ。あと僕のことはザキと呼んでくれ。」
「了解。」
「それと、あともう1人パーティーに誘いたいんだけど、良い人知らない?」
まだ決めてなかったのか。
「今どんなやつがいるか次第だな。」
「僕とハイドと、まだ声はかけてないけど、僧侶のリーリンにする予定だよ。」
「じゃあ、魔法使いが良いかもな。……」
「誰か良い人いない?」
記憶を遡って考える。
…思いつかないな。
「まあ、考えておくよ。」
「ありがとう。僕も準備を進めておくよ。じゃあね。」
「またな。」
そう言ってザキは去っていった。
俺も考えながら準備するか。
魔法使い、、そういえば魔法使いといえばエレン・カインというやつがおったな。
その子孫とかか?
んー、でもいきなりそんなところに行って「一緒に魔王倒しましょう!」なんて言ったら殺されそうだな。
それになんか貴族って扱いづらそうだからいっしょに旅したくないな。
んー。
結局思い浮かばないまま準備だけが進んだ。
ええと、武器はある。
食料もこれくらいあれば良いか。
回復薬とかもあるね。
あとは、大きいバッグと小さいバッグがあればいっか。
あ、折りたたみ傘を忘れてた。
折り畳み傘…あった!
やっぱレインコートにした方がいいか。
⁉︎
…ん?そういえばエレードっていう魔法使いがいたな。
レインコートのおかげで思い出したわ。
ちょっと名前似てるし。あいつなら頼めるな。
プルルル。
「ザキ?良い魔法使いいたぞ。」
「お、誰?」
「エレードって奴だ。前に一緒に任務にあたったんだが、なかなか良いやつだしいろんな魔法が使えて頼りになるぞ?」
確かその時、雨が土砂降りで【透明:トランズミット】が外だとバレるから苦労したんだったな。
必死に屋根の下に入ったり、水溜まりを踏まないようにしたりして大変だったけど面白かったから印象に残っている。
あのとき神父の守護をしてたから、宗教戦争が盛んな時期だったかな。
あれから“七年”か。
そういや今も変わらず戦争は続いているな。
「わかった。今どこにいるかわかる?」
「たぶん、ドリッピングタウンにカイン一族が創った魔法学校があるだろ。そこにいる。」
「ありがとう。じゃあ行ってみることにするよ。」
「気をつけてな。」
「おう。」
ガチャ。
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