第二話 動き出す狂った歯車
ー・ー・ー
走っていると街が見えてきた。この街でも人々は慌ただしくしていて、僕は門番の人に呼び止められる。
「あの村から逃げてきたのか?よく頑張ったな。もう大丈夫だぞ。」
「ウン…」
「大丈夫だ。街の宿に行って事情を話してこい。泊めてくれるぞ。」
「わかった。」
宿に着くとフロントの人が声をかけてくれた。
「あの村から、逃げてきたのね。わかったよ。ちょっと待っててね!」
「…はい、とりあえず毛布とココアね。熱いから気をつけて。」
こんな急に来たのに温かい対応をしてくれるなんて思ってなかった。そんな温かさが心に染みた。心の傷が消えるわけではないけど、ちょっとは癒された気がする。
「部屋に案内するね。……ここが部屋だよ。ゆっくり休んでね。」
僕はベットの上に転がった。
なんで、なんで戦いに行ったんだろう。そんなことしなければ、、、クリスもなんで戦ったんだ、、生き残るのがクリスだったら、、
時計を見ると夜の12時だった。でも、不安で眠れない。
お母さんだって僕のことを庇わなくてもよかったのに。そのまま逃げればよかったのに。
…ごめん、ごめん、僕が悪かったよ。ごめん、ごめん、、、
気づけば泣いていた。ずっとずっと泣いた。………
ー・ー・ー
気づいたら朝になっていた。部屋の中に朝ごはんが置いてあった。急に来たというのにしっかりとしている。
そして、新聞も置いてあった。その新聞には、「ビギニン村 魔物襲来 死亡者出すも撃退完了」と書いてあった。
そっか、仇は取ってくれたのか。すごいなその人は。僕よりはるかに強いクリスでさえ勝てなかったのに倒せたなんて。
ドアのノック音がする。そしてドアが開く。
「あ、起きた?あなたを引き取ってくれる人がいるんだけど、この人だよ。」
そう言われその人に目を向けた。
白髪で猫背。優しそうな目をしているじいさんだった。
「初めましてかのう。ワシの孫が世話になっていたそうじゃのう。」
「この方は、かつて世界の上位にいた剣士だったのよ。今はいろんな子供を弟子にとっているそうなの。」
「いやはや、わしの孫から君の話は聞いていたぞい。君がどんどん強くなっていってるてのう。」
僕のことを知ってる?
「あの、もしかしてその孫というのはクリスさんですか?」
「ん?あぁそうだぞ。クリスは言ってなかったのか。はー、まったくこれだからクリスは〜。」
クリスの祖父だったことは嬉しいけど、これは言わないといけないかもしれない。
「あの、その、、大変言いづらいのですが」
「まあ、ひとまずわしの家に来てゆっくり話そうじゃないか。」
「わ、わかりました。」
僕は木刀と御守りを持ってじいさんの家に向かった。
ー・ー・ー
この街には僕がいた村よりずっと発展していた。いろんな施設があって様々な人が行き来している。
じいさんの家は街の中心から少し離れたところにあった。木造の家だ。
「ほう、それで話とは何かな?」
「あの、その、クリスさんのことなんですが。」
胸がドクドクして、あの光景がフラッシュバックする。
「大丈夫か、ザキ君」
「は、はい。えと、それで…」
昨日起きた魔物襲来のこと、クリスが立ち向かったことなどをありのまま話した。その間じいさんは何も言わずに話を聞いていた。
「そうか…、クリスのやつも勇敢だったんだな。それだけでもう満足じゃ。」
「でも、僕が代わりに死んでたら、」
「バカ言うな。クリスが弱かったのだ。それに今更過去を悔やんでどうする。お前に過去を変えれるのか。違うだろう。クリスが繋いだ命に感謝するんじゃ。そして懸命に生きろ。それしかすることはない。」
じいさんは淡々と諭すように喋った。
「、、そうするよ。」
なんとなく呟くように言った。だけどきっと僕の中で何かが動いたんだと思う。
それからはじいさんに稽古をつけてもらったり、剣士の学校に行かせてもらったりした。その日々は辛い時もあったけど楽しかったし、クリスやお母さんの想いを無駄にしてはいけないと思ってなんとか堪えてきた。
ー・ー・ー
それから7年、僕は魔王を倒しに旅に出ることにした。まずは王様に挨拶して、とりあえず僧侶学校に行ってみれば良い僧侶がいるかも。
ー・ー・ー
王様の城は今まで見てきた中で一番綺麗で大きかった。
照明は魔法で灯されていたり、王様が座っている後ろにはステンドガラスで女神と夕日が描かれていたりしていた。
「王様、私はどんなに強い雨が降っても、どんな困難が襲ってきても決して諦めず人々の勇者になることを誓います。」
「ほう、では勇者試験を受けるのだな?」
ん?
「ヘイカー君、案内してあげなさい。」
勇者試験?
「はい、承りました。」
え、なんか勝手に進んでる。
「では、こちらです。ご案内いたします。」
とりあえずついて行くことにした。
「こちらです。」
着いた先は体育館だった。中には魔法使いっぽい人が2人いる。そのうちの男の人が話し始めた。
「初めてお目にかかります。勇者試験の一次試験を務めさせていただく召喚士です。」
「同じく務めさせていただく僧侶です。」
2人が丁寧に一礼をする。
「お初にお目にかかります。ザキです。」
緊張が辺りを満たす。
「ご職業は剣士でしょうか?」
「はい。」
「では、早速ですが試験の説明をさせていただきます。…
試験の内容は、召喚士が魔物を全部で3回召喚するからそれを全部倒せば良いとのこと。安全のため、結界である程度の大きさの空間を囲んでその中でやるらしい。棄権する場合は結界からでるか宣言すればいいみたい。大怪我などでこれ以上は続行できないと判断された場合も棄権とのことらしい。
「では試験を始めさせていただきます。」
そう男の人が言った瞬間、僧侶の人が大きな結界で空間を囲む。
僕と召喚士はその中に入る。
あと何故か結界の外にいろんな人が集まってきて注目している。
ー・ー・ー
「それでは、一次試験を始める。まずはこれだ。」
召喚士がスライムを5体召喚した。ぴょんぴょん跳んでこっちに近づいてくる。
スライムは弱いが、剣で倒そうとすると剣に張り付いてくるため張り付かないぐらいの速さで切るか、床につけてノコギリのように切断しなければならない。
上から早く振り下ろして切断するか。
特に苦戦することなく5体楽々と倒す。
「クリアだ。次はこれだ。」
今度は植物の魔物で有名なヴァインマンだ。人間の体型だが、腕だけ太いつるになっている。
つるが左右から叩きつけようと迫ってくる。
サッと前に飛んで避ける。太く大きいつるが床に当たって鈍い音が広がる。
ヴァインマンのほうに走って右のつるを切る。
すると、左のつるから網のような細いつるを分岐させて絡めようとしてきた。しかし全部切って左のつるをスパンッと切る。
今だ、隙あり!
ヴァインマンの方へ走って首を切り落とした。
結界の外から見ていた人達からワッと歓声が上がる。
「クリアだ。では最後、心してかかれ。」
なぜか見に来ている人達が固唾を飲んだ。
召喚されたのは1人で1体倒せたら一人前と言われているスライスマンが進化した魔物、ミンスマンを召喚した。
スライスマンもミンスマンも斬撃系の魔法を使う。
さっきのヴァインマンと同じように人型で、頭は兜の様な形状をしている。大きなツノが兜の鍬形の様に金色に輝いている。
視界の中で何か素早い物が飛んできた。
呑気なことを思っている間に斬撃魔法が飛んできたみたいだ。
上位の魔物だとしても僕と同じ斬撃攻撃を扱うからその強みや弱みを知っている。
また攻撃が飛んでくる。
とはいえ攻撃間隔も攻撃の速さも速い。ミンスマンだけ斬撃を飛ばせるから早く間合いを詰めた方が良いな。
僕は走り出し、前に飛んで切り掛かる。
剣とミンスマンの硬い腕がぶつかり合い高音の金属音が響く。腕や足は籠手のようになっているところがあって金属のように硬い。
首を狙いたいけど、硬い腕で防がれてしまう。
しばらくはずっと斬り合いをして金属音が止まない。
今だ!腕の柔らかい部分が切れる!
下から上へと剣を振るとザンっと気持ちよく切れた。
だが、斬撃魔法が飛んでくる。至近距離で避け切るのは難しい。
体を無理やり動かして攻撃を避けようとする。
右腕に傷を負ったが、そのまま距離を詰めてスパッと首も切れた。
「クリアだ。」
また見ていた人達から歓声が上がる。そして結界が消えた。
「これにて第一次試験は終了だ。」
僧侶の方が寄ってきて、傷を瞬く間に治してくれた。
またヘイカーさんが案内してくれるみたい。
ー・ー・ー
次は面接のようだ。部屋の中に長机が1つ、椅子が2つあり、1つは中にいた女性が座る用で豪華な作りをしている。
「お掛けください。」
「失礼します。」
「第二次試験は面接です。質問に正直に答えてください。」
「はい。」
「それでは…
最初は名前とか性別とかを聞かれた。
「では次に何故勇者になりたいと思ったのですか?」
「世界を平和にしたいからです。」
「素晴らしいですね。」
女の人の笑顔がパッと咲いたがそれは一瞬だけだったようだ。すぐに真剣な表情に切り替わる。
「では次に、どんな支援が欲しいですか?」
「え〜とですね。僕が勇者になると公表してほしいのと、世界一の僧侶学校の生徒から僧侶を選びたいというのを伝えて欲しいです。」
「…それだけで良いんですか?」
「はい。十分です。」
「では、第二次試験はこれで終わります。」
また、ヘイカーさんが案内してくれるみたいだ。
ー・ー・ー
案内に着いて行くと最初に王様と会った場所だった。
ヘイカーさんが王様に何かを報告している。
「ザキ君、君の試験の合否を今伝える。」
早すぎでしょと思いながらも緊張してきて胸がよりドクドク鳴っている。
「は、はい。」
王様は真剣な表情をする。
しかし、すぐに笑顔になって
「文句無しの合格じゃ。おめでとう。」
ヘイカーさんと王様が拍手をする。
「ありがとうございます。」
とりあえずなんとかなったみたい?
「従って君の願いどうり支援をしたいと思うのだが、本当にあれだけでいいのかい?」
「はい。お願いします。」
「了解した。今すぐにでも取り掛かろう。あぁそして、これからも我々を頼ってくれて良いからな。」
王様は僕に優しい笑顔を向ける。意外と気さくな人なのかな?
支援とかもっと考えた方がよかったか。
釈然としない気持ちを抱えたまま家に帰った。
ー・ー・ー
「じいさん、王様に挨拶しに行ったら…
勇者試験のことを話した。
「試験の事知ってた?」
「知っておったぞい。あえて言わなかったけどのう。変に緊張せずに済んだじゃろう?」
「そうだけど、ちょっと酷くない?」
「ホッホッホ。ザキ君ならなんとかなると思ってたわい。」
「とは言っても、ミンスマンが出てきたんだよ?死ぬ可能性とかもあった訳なのに。」
「ミンスマンなどワシの修行と比べれば可愛い物じゃろう。」
「そうだけど〜。そういうことじゃないよ。っというか爺さんは何者なの?」
ずっと疑問に思っていた。今まで何回聞いたことか。でも答えはいつも決まっている。
「ホッホッホ。そんな若い頃の事など忘れてしまったわい。歳のせいかのう。」
「う〜ん。そっか。」
そんな感じで後はたわいのない話をした。
あとで知った事だけど勇者試験は予め予約をする必要があるみたい。爺さんに促されて王様のところに行ったし予約をしてくれたのかな?何者なんだろう。
翌日、僕が勇者になると誓うことを公表され僧侶学校からは2週間後学校に来て欲しいと言われた。
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