こうして俺が勇者になったって訳
しあわせ たぬき
序章 真実を知る者の過去
第一話 勇者ザキ
「勇者ザキよ、よくぞ魔王を倒してきた。」
「勇者エレン・カイン以来の伝説だ。人間の時代が再びやってきた。君の伝説を讃え、今夜は祭りといこうじゃないか。」
一斉に湧き上がる歓声。国民達はお祭りムードだ。
街が華やかに飾り付けられ、数々の屋台が出ている。そして、出発前に建てられた勇者ザキの銅像には綺麗な花冠が乗せられている。
夜空にドーンと大きな花火が打ち上げられた。その後もドーン、ドドーンと夜空を彩っていく。
とりあえずお腹が空いたし店で何か食べよう。
さっき王様からたっぷりとお金をもらったし。
そう思い、店がある方へ歩き出す。
街の様子は以前と変わっておらず懐かしく感じる。
とりあえず焼き鳥屋のぴーちゃんに入っていく。
ここの店主に会うのは久しぶりだな。
「今日はタダで食ってけ。お疲れさん。」
「ありがと。じゃあ、いつもの。」
「あいよ。」
店主のぴーちゃんはいつも通りでなんか安心した。
本当に帰って来れたんだな。
そんなことを思いながら待っていると、いつものお酒と焼き鳥5本枝豆付きのセットが出てきた。
いつもの味だけど今日は感動する。
「ザキが7代目の勇者になるなんてな。ぴーちゃん感激だよ。」
6代勇者は約500年前の話。もう御伽話じゃないかと噂されることもあった。
「いやいや、それほどでもないよ。仲間に恵まれてね。」
「それはよかったね、、……」
こんなにめでたい日のはずなのに、何故か店主のぴーちゃんは浮かない表情をしている。
「どうしたの?そんなに暗い顔をするのはらしくないじゃないか。」
「……ぴーちゃん失礼かもしれんけど、」
「パーティーの仲間はどうしたの?」
あぁ、やっぱりそこに気づくよね、、
「あぁ、、彼らは今別で祭りを楽しんでいるよ。“天国”でね。」
心配させないように普通に話す感じで言った。
そして酒をゴクゴクと飲む。
「ぴーちゃん、もう一杯。」
「わかったよ。」
お酒がもう一杯出てくる。
それもゴクゴクと飲む。
「ところでザキ。ザキ達は、この世界のいろんなところに行ったんだろう?」
ぴーちゃんは何も聞いていないかのように次の質問をしてくる。
「どこが一番綺麗だった?…ぴーちゃんの人生はほぼずっとここだから、何も知らなくてね。」
“この世界に綺麗な場所などない。”
約二年前、それを知った。
この世界を知ってしまった。
真実を知ってしまった。
世界の平和を求めたがあまり、知らなくて良いものを知った。
変わりに魔王が死んで、人間の時代にはなったが。
ぴーちゃんは、何も知らないままでいい。
無闇に広めなくていい。
また誰かが絶望するだけだ。
「う〜ん、いろんな景色を見たけど、結局は夕日が綺麗かな。毎日見れるけど、それこそが生きてる証になってる気がするんだ。だから場所がどうこう、っていう感じじゃないかな。」
ぴーちゃんが驚く。
「それは意外。過酷な旅をした人ならではの意見だからかな?」
「そうかもね。」
自然と笑みが溢れる。
過酷な旅、ね。
そんな言葉では言い表せないほどだったよ。
「ぴーちゃんは、世界のどこかには想像もできないような綺麗な場所があると思ってたよ。」
「うん。僕も旅に出る前だったらそう思ってたよ。でも旅に出てみて思ったんだ。今生きていることが当たり前じゃないんだって。それに、旅のときは夕陽が見えてきたらキャンプの準備をしだすから、そのときの思い出もあるかな。」
ぴーちゃんが感嘆の声を漏らす。
「どこでも見える夕日から、過去の自分を重ねて見てるんだね。…なんともエモい…それができるのも旅の醍醐味だね。」
「うん、特に何かを成し遂げたときは、苦しみながらも頑張ってきた過去の自分が輝いて見えるよ。」
あのときの自分は何も知らなかったからこそ、輝いている。
きっともうあんな輝きを放つことはないだろうけど。
それからもぴーちゃんといろんな話をした。
もちろん真実のことは隠したけど、酔ってちょっと言ったかもしれない。
自信ないけど、まあぴーちゃんならいいか。
きっとそれでも上手いこと生きているよ。
「ご馳走様。」
「あいよ。ゆっくり休めよ?」
そうしてぴーちゃんを出た。
そのあとは王様が用意してくれた旅館に行って一泊した。
次の日。
「今日はもう家に帰るか。」
そう小さく呟く。
外に出ると今日もお祭りムードだった。
人の行き来が昨日よりも活発な気がする。
今日は朝から花火が上がって、屋台も出ている。
歩いていると、いろんな人から「ありがとう」や「お疲れ様」の声が飛んできた。
中には「一緒に写真撮って」や「握手してください」があった。
そんなに求められたってアイドルじゃないんだから。
そうやって魔王討伐を喜んでくれる国民達を見ると、純粋な子供のように感じる。
子供の元気は輝いていて、その輝きが失われることはないだろう。
もし失われるとしたら、それは真実を知って大人になるとき。
それまでは純粋無垢で気ままに生きている。
それが、周りの闇によって無くならなければいいのにね。
そんなことを心の中で思いながら、親切に対応する。
それから家に向かおうとして門の方を見てみると、門の方から続々と人が入ってきている。
思えば、出発のときもこの門から出たんだっけ?
そして入ってすぐの勇者ザキ像を見て感動している。
出発前に像を建てるなんて早いと思うよね、普通は。でもこの勇者ザキは普通じゃなかったのさ。
何しろ魔王を倒したわけだし。
⁉︎
ってか今銅像を見て思い出したけど、行かないといけない場所があったな。
最後にそこに向かおう。
カランカラン。
そこは、こじんまりとした彫刻のお店だった。
「いらっしゃい、って、ザキ君じゃないか。会いたかったぞ。」
白髪の生えたじいちゃんが出迎えてくれた。
この人が勇者ザキの銅像を作ってくれたのだ。
「8年前に会ったの覚えてます?」
「もちろん、覚えておる。魔王を倒すから作ってくれっと言ってくれた瞬間も思い出せる。あの時は衝撃的だったが、今思えばあの目は希望に満ちていたのう。」
そんなに覚えてくれていたのか。
「そう言ってくれるのは嬉しいです。あ、それでここに来た理由なんですけど、」
「ほう、お代のことかな?」
「あ、そうです。あのとき魔王を倒したら絶対払いに来ますって後払いになってしまって…。あのときは信用してくれてありがとうございました。」
気持ちを込めて頭を下げる。
めちゃくちゃ申し訳ないと思う。
「いやいや、そんな頭を下げなくたっていいぞ。それに、その時ワシは、この依頼を受けなければザキ君は旅に出ないかもしれないと思ってな。無限大の可能性を秘めている青年の夢を、お金で諦めさせてしまうのも悲しいことだと思ったのじゃよ。だからワシがその時後払いに応じたのだから感謝してもらうことでもないわ。そういう契約だからのう。」
じいちゃんは、そう言って顎髭を触る。
なんて素敵な心を持ったじいちゃんなんだ。
歳をとればこうなれるのだろうか。
「あぁ、なんか、すみません。それでお代を払いにきたんですけど、どれくらいでしたっけ?」
「ほんとは、もうお代が払われることはないと思いながら作ったからのう。払おうとしてくれた気持ちだけで十分じゃ。」
「え、それは良くないんじゃ……。」
「…あの銅像を作った人として有名になれば、依頼がじゃんじゃん来て儲かるからのう。」
と、じいちゃんは悪い笑みを浮かべる。
コイツ流石だな、と思いながらも悪い笑みにならないように微笑んだ。
が、悪い笑みになってしまったかもしれない。
「ザキ君も立派になったもんじゃのう。これからは豊かな暮らしをしてくれ。」
「ありがとうございます。」
深々と頭を下げる。
「いつまでも元気でおるのだぞ。」
その声を聞き届けてから店を出た。
今度こそ家に向かう。
南の門から出て南下していく。
せっかくだから歩いていく。
道中にある街で歓迎されるが、それもほどほどにして家に向かう。
やがて夕日が見える時間になった。
やっぱりこの夕日を見ると旅を思い出すなぁ。
そう言えばこんな感じから始まったんだっけ……
ー・ー・ー
ザキはビギニン村で生まれた。
小さい村だったが、とても楽しく過ごしていた。
ある日、お母さんがザキに勇者エレン・カインと魔王の話をしてくれた。
かつてこの世界の大半は人間が支配していた。
様々な国が栄え、科学分野と魔法分野が融合した美しい都市が作られていた。
しかし、約5万年前に魔王が誕生し、魔王は人々を殺して、この世界の半分以上を支配した。
人間達も魔法は使える。
しかし、魔人が使う魔法の方がはるかに強かった。
それゆえに、人間が滅ぶのも時間の問題だとされていた。
そこで立ち上がったのは、最初の勇者、勇者エレン・カイン。
人間の都市全体に大規模で強力な結界を張ったり、単独で魔王の目の前まで行ったりした灰魔法使いだ。数々の魔人を倒し、人間の領域を広げた。
人々はエレンの話題で持ちきりだった。
そして魔王とエレンが対峙した。
そのときエレンは1人だったが、魔王は幹部を入れて5人。
流石の勇者エレンも人数差を覆せれなかった。
そのため一度逃げて準備をしてからもう一度行こうとしたが、魔王が彼女に呪いをかけた。
彼女はその呪いを見たことがなかった。
しかし、なんの影響も無かったから魔王城から出ることができたのだか、それは良かったのか悪かったのか。
そして彼女は、優秀な者を集めて欲しいと王様に会いに行った。
その後はエレンの家族に会いに行った。
両親は僧侶だったので呪いを解除できるかもしれないと思ったからだ。
しかし、症状は無く解除の妨害がされていたため解除はできなかった。
それから数ヶ月経ったときに仲間が集まって再び魔王に挑みに行った。
再び魔王に会ったときは魔王達は4人で、エレン達は5人だったと推測されている。
その後どうなったかは、不明だがエレン達が死んだことは確実だった。
実は再び魔王と戦っている時に人間の都市に、1人の強大な魔人が現れた。
その魔人はカイン一族に呪いをかけ去っていった。
その呪いは子にも受け継ぎ、今でも呪いが残っている。
彼女が張った結界も残っている。
彼女が残したものは大きく、人々に希望を持たせた。
それ以来魔王は、強い魔人4人を4大魔人とし、東西南北に配置した。
その後5回、4大魔人の1人を倒した勇者が現れたが大きく動くことはなかった。
「この話は代々受け継がれているものよ。この話から魔王は頭が良いことが分かっているの。そしてカイン一族が強いから警戒されていたこともわかっているの。ちゃんと覚えておきなさいね。」
この話を聞いてから僕は剣術を学ぶようになり、このビギニン村の中で1番強い剣士に挑みに行った。
「僕はザキ・ウィリアム。お前がこの村で1番強い剣士だな?」
「そうだよ。俺の名はクリス。どうかしたのか?」
クリスは僕よりもずっと年上に見える。
「剣で勝負だ!先に相手の身体に木刀を当てた方が勝ち。どうだ!」
「いいだろう。かかってこい!」
僕はタタタタッと速く走って一気に間合いに入った。
…つもりだった。
「今だ!」
剣を上げて思いっきり振り下ろす。
当てたと思ったが、気づいた時には僕の首に木刀があった。
「君の負けだね。隙がありすぎだよ。」
「…もういっかい!」
「はいはい。」
今度は剣を上げるんじゃなくて横にもっていって横に振ってみた。
木刀で受け止められ、そのまま反撃されてしまった。
「もういっかい!」
ダンッと木刀で叩かれる。
「もういっかい!」
気づけば夕方になっていた。長いことやっていたのにいっこうに勝てない。
「もういっかい!」
「今日はもうやめよう。おそくなってきたし明日から稽古もつけてやる。どうだ?」
「わかった!楽しみにしてるよ。じゃあね!」
僕はルンルンで家に帰ったんだけどお母さんに「遅くまでどこ行ってたの?」と怒られてしまった。
でも今日はあんまり気にならなかった。
次の日はクリスに稽古をつけてもらった。
「剣は真っ直ぐに速く振る。でも下まで振りすぎない。次すぐに振れるようにピタって止めるんだ。」
「こんな風にね。」
木刀が複数あるように見えるくらい早く振り下ろした、と思えばいつのまにか止まっていた。
「真似して。」
「フンっ」
「ダメ、もっと速く」
「そいや!」
「もっと!」
「おりやー!」
「よし、じゃあ、あとは足のステップと間合いの感覚だ。」
「それは慣れるしかない!だから俺と勝負だ。剣は1回振るだけじゃない。何回も振るんだ。」
「わかった。いくぞ!」
果敢にせまるも簡単に打ち負ける。
「ちょっと上手くなってるな!」
「もういっかい!」
カンカンと木刀の音が鳴り響く。
「剣の振り方はだいぶ良くなったな。まあ、元が下手だったけどw」
「なんだと〜言ってくれるなぁ!もういっかいだ!」
「もういっかい!」
今日も勝てなかった。
「また明日な。」
「うん。また明日。」
今日もクリスに稽古をつけてもらった。
でも、何故僕に敬語をつけてくれるのか純粋に疑問に思った。
だから聞いてみた。
「う〜ん、一眼見た時に、なんか鍛えがいがあると思ったからかなぁ。それに他の人の戦いを見て自分も学びになるからってのもあるかな。」
「じゃあ、剣を教える人なの?」
「いやいや、そんな訳ないよ。…あ、でもそのうちそうなると思うよ。」
「じゃあ、凄い人だ!」
「そうだそ!実は王国の騎士団から誘われてるんだから。」
「おおー!」
「それに、木刀で魔物を倒せるからな!フフン!」
「すげー!僕にも出来るかな?」
「今のままじゃ無理だな。」
「ええ〜。」
僕が落胆すると、クリスは言葉を付け足す。
「でもいづれできるようになるよ。」
「わかった、じゃあ頑張る!」
「うん。今日も俺と勝負だ!」
頑張ったけど、やっぱり今日も勝てなかった。
今日も勝てなかった。
今日も勝てなかった。
今日も勝てなかった。
…………
今日も勝てなかった。
けど、楽しかった。クリスと戦うのが楽しかった。
今日も勝てなかった。
「また明日な、クリス。」
「またな。」
“また”はいつものように来ると思っていた。
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