第四話 弱い僧侶

「リーリン・スミス」

「はい」

先生からテストの結果が返される。

また70点。いつもそうだ。

私はずっと成績が上がらない。


 ここは世界一の僧侶学校。かの有名なカイン一族が創った僧侶専門の学校だ。

ここから勇者の仲間となる僧侶を数々輩出している。


今日、王様に勇者になると誓った人がいた。

その名は、ザキ。


ザキの仲間になりたいと思った。

“7年前”お母さんと結んだ約束があるからだ。


具体的に言えば、今も陰で続いている宗教戦争を終わらせて、世界を平和にしたいからだ。


それで私が死ぬことになっても、私はその約束を果たさなければならない。

そんなことを胸に秘めていたときに、こんなチャンスが訪れたのだ。

もしかしたら、ワンチャン、何かの偶然で選んでくれるかもしれない。

私でもそんなことはないと思っていなかったが、体は勝手に動くもんだ。



「みなさん、既に聞いたかもしれないですが勇者になると誓った人がいたそうです。ですので、仲間になりたい人は、先生に言ってください。期限は1週間です。それを過ぎたら受け付けませんからね。」


「今日はこれで終わりです。」

先生がそう告げる。

その後すぐに、生徒達は一斉に先生に群がって次々と希望を示している。

私も行きたいけどこれじゃあ無理かも。やっぱりやめようかな。

 まあ、まだ1週間あるし今じゃなくていいや。次の授業に行こう。次は実技か。




「はい、それじゃあ実技の授業をするよ。今回は結界魔法について。どうすればより強い結界を作れるんだっけ?」

「はーい、MPを多く注いで魔力の量を増やすことです。」

生徒の誰かが元気よく答える。

恐らく一年の子だろう。

二年、三年の人達はつまらなさそうに聞いている。


まあもう習ったものだからね。


私がボーっとしている間にも授業は進んでいく。

どこまで聞いててどこを聞いてなかったかなんて覚えてない。

「…そうだね、魔法は魔力の量の多さによって消滅するか、打ち勝つのかが別れるんだったよね。」

魔力の量が同じだとどちらも消滅し、魔力の量が異なる時は、多い方が多い分の魔力を残して打ち勝つ。

つまり100と80だったとしたら100の方が20残して打ち勝つということだ。


「でも、同じMP量を魔力にしたのに魔力の量が異なる時もあるよね。なんでかな?」

「魔力の変換効率が違ったからです!」

また一年が元気よく答える。

「正解!そうだったね。それじゃあ、今回は変換効率を高める練習をしようか。」

ようやく実技練習の時間となる。


そうやってどんどん授業が進んでいく。

でも、今日はあまり頭に入ってこなかった。

やっぱりザキのことが頭にチラつく。


「はい、今日はこれで終わりです。解散。」


もうそんなに気になっているのなら、やってみればいいか。

そう思い、意を決して話しかける。

「あ、あの先生。」

「どうしましたか?」

「私、ザキの仲間になりたいです。」

周囲がざわつき始める。

なんだ、みんな聞いていたのか。最悪だ。

誰を見ても「リーリンが立候補しても無理だよ。」というのが顔に書いてある。

でも、

「わかりました。リーリンさんは強いですから、頑張ってくださいね。」

と先生だけは笑顔で対応してくれた。


ー・ー・ー


あれから1週間が経ち募集期間が終わった。

「ザキパーティーの募集期間が終わりました。今回もたくさんの人が立候補してくれました。

 ですが勇者の仲間になれるのはおそらく1人です。どんなに頑張ってもみんななれるわけではありません。そのことを頭の中に入れといてくださいね。」

先生が優しく忠告する。


「今回の立候補者は126人。なので試験を行ってある程度の人数に絞ります。」

多すぎる。

その数を聞いて、やっぱりやめておけばよかったかもと後悔した。

いや、でももう立候補してしまったのだ。

どうやっても過去は変えられない。


……なら、ちょっとは、やってみよう。

やってみればいいんでしょ!


私は、私が思ったよりワクワクしていた。


「1次試験は2日後に行います。…」


先生が言ったことをざっくりまとめるとこんな感じ。

2日後の1次試験は、筆記試験。魔法の知識や魔物知識を試される。

これは魔法のテストと魔物のテストで合計150点を取れたら合格だ。


4日後の2次試験は、実技試験。

その中でも【探知】、【結界】、【回復】魔法が試される。

ここで上位30人に絞られる。


6日後の最終試験も、実技試験。

その中でも魔力量が測られる。


2次試験と最終試験は結果や順位によってポイントが振り分けられ合計ポイントで競う。

合格ラインは、400満点中350点だ。


実技はまだいいとして、筆記が問題だ。

1週間前にやった魔法のテストで70点だった。

だから魔物のテストで80点は取らないといけない。

じゃあ今からでも勉強しよう。


…あれ、思ったより本気だ、私。


ー・ー・ー

 

とうとう1次試験の日がやってきた。

私の苦手な筆記テストだ。

もはや、ここが一番難しいまである。


「みなさん、席についてください。今から筆記試験を行います。もちろん不正をした場合は退学です。」

周りの人に聞かれちゃいそうなくらい、ドキドキしてきた。


「それでは、始め!」

そう言った途端、4枚の紙が皆の机の上に現れる。

そして鉛筆を走らせていく音が聞こえてくる。

私も負けじと鉛筆を走らせる。



魔法の方はとりあえずできたから次は、


「残り15分」


あと半分もない!

私は急いで魔物のテストを解いた。


「残り5分」

まだあと10問あるんですけど、


「残り1分」

 

「残り30秒」

 

「29、28、27、26、25、24、23、」

私は必死に考えた。

 

「22、21、20、19、18、」

刻々とタイムリミットに近づいていく。


「17、16、15、14、13、12、11、10、」

よし、終わった。見直しをしとこう。


「9、8、」

待って、ここの問題飛ばしてる。

 

「7、6、5、4、3、2、」

 

「1、」

終わった!


「そこまで。」


そう言われるのと同時に目の前の紙が消えた。

でも私のドキドキはまだ残っていた。

いくらなんでもギリギリすぎる。

全部解けた人は少ないんじゃないかな。


周りを見渡すと、最後まで解けなくて悔しがっている人や、「全然わからんかったw」とすでに諦めの境地にいる人もいた。

勉強しておいて良かったかも。

「今日はとりあえずこれで終わりです。結果は明日出ます。」



そして次の日。

「テストを返します。スーザン・ウィル、、…」

「リーリン・スミス」

「はい。」

この紙を裏返すだけなのになかなかできない。

ドキドキしてきた。

もしかしたら、、、


いや、私に期待しすぎだ。どうせいつものような点数で不合格だ。

やっぱ結果みたくないな。


私は意を決して魔法のテストを裏返す。

 

《75》

 

ちょっと上がってる。

私は魔物のテストもみる。

 

《76》

 

え、え?

ほんとに、、じゃあ、じゃあ、合格だよね!

思わず小さくガッツポーズをした。


「合格者は、スーザン・ウィル、…リーリン・スミス……合計30人だ。なので2次試験では上位20人にまで絞ることになった。以上で今日は終わり。」


その後浮かれた気持ちで家に帰った。

そして試験のことを両親に報告すると、とても喜んでくれた。


ー・ー・ー


今日は2次試験。

実技ならたぶんいける。

「今から、実技試験を始める。まずは【探知】からだ。」

そう言った途端、床に将棋の盤みたいな網目模様が現れた。

そして1人1枚、床と同じ網目が書かれた紙が配られた。


「今から私が透明になって隠れる。探知できたらどこにいるかを紙に書いて提出してくれ。早ければ早いほど得点が上がる。」


「それでは、よーい、はじめ!」

その瞬間先生の姿が消えた。

そして一斉に【探知】し始める。


私も、この辺り一帯に【探知:ハーツアイ】を使う。

んー、わからないな。もう少し範囲を限定して魔力を集中させよう。

左半分に狭める。


こっちじゃないかも。

『正解者:1』

え、もう終わってる人いる。

右半分に使うとうっすらだが先生のシルエットが見えた。

あそこか、5,4だ。

私は紙を提出した。

ちょっと遅かったかな。


今の段階では順位は出ない。

最後にまとめて結果が出るようだ。


今どんくらいなんだろう。

ドキドキする。

どうせなら小出しにしてくれてもいいのに!

…いやそれはそれでドキドキしそう。


しばらくして「10秒経過」とアナウンスされた。



先生が話し出す。

「では、全員提出したな。次は【結界】だ。

 今から2秒で結界を張ってもらう。そしてその結界に私が解析をして強度を見る。強い方が得点が上がる。張れなかったら、得点は無しだ。」


え、2秒でなんて短い。

「では、始めるぞ、」

まって、まって、


「はじめ!」

私は【結界:マジックウォール】を使用した。

目の前に透明な壁ができる。


「2秒経過!」


とりあえずできたみたいだけど、ちょっとブレたかも。

「では強度を確かめる。」

先生が【解析】した。



その後数分で解析が全員分終わり、試験が進む。

「では最後に【回復】だ。」

突然みんなの前に壊れている人形が出てきた。

「その人形は普通の傷と同様、回復魔法で治せるようになっている。それの治す速さを計測する。速く治した方が得点が上がる。」

「それでは、用意、」


私は、緊張で震えている手を人形の前に持っていく。

「はじめ!」


「【回復:セルアクティベーション】」

するとみるみる人形が治っていく。



…治った!

そう思い顔を上げるとほとんどの人はまだ終わっていなかった。


これはよかったんじゃない?

私は思わず笑顔になる。


小さな自信を抱きながら、結果に期待する。


しばらくしてから全員終わった。


ー・ー・ー


「2次試験の合格条件は総合順位が20位以内であることだ。それでは総合順位を発表する。」

みんなが一斉に見上げて掲示板をみる。


『1位 スーザン・ウィル 289点』

『2位 〇〇 270点』

『3位 △△ 268点』






『9位 リーリン・スミス 254点』


やった!合格だ。

ここまで残るとは思ってなかったな。

結果を見る前より胸がドクドク鳴っている。


緊張の糸が緩んで安心したせいか、こうなるとは思っていなかったからかフラフラな歩き方になってしまった。

その後家に帰って、早めにベットに入ったけど、なかなか眠ることが出来なかった。




 次の日、学校に着くと辺りは候補者試験の話で持ちきりだった。その中でもスーザン・ウィルは注目されまくっている。

 試験で上位にいたから、私もその名前を見ている。

私がザキのパーティーに入るにはスーザンに勝たないと。

できるかな。

不安に思いながらも私自身に少し期待をしていた。


ー・ー・ー


 今日は最終試験。いまだにスーザンに勝てるか頭の中でぐるぐるしている。

「今から最終試験を始めます。今回は、魔力の量を測ります。私が攻撃をするのでそれを防いでください。長い方が得点が高くなります。」

先生が淡々と話す。

「それでは、ようい、」


【結界:マジックウォール】を発動させる。


「はじめ!」

その瞬間、先生が【攻撃:キャウレスライツ】を発動した。

その魔法は象牙色に輝いて結界を破壊しようと迫ってくる。


…容赦ない。

 割と強く張ったつもりなのに結界にどんどんヒビが入る。

私は魔力を結界に集中させた。


『5秒経過』とアナウンスが入る。

まだ5秒か。

いつもよりずっと長く感じる。


『10秒経過』

 

『15秒経過』

もうこの時点で脱落している人がたくさんいる。

 

『20秒経過』

MPがあと半分くらいしかない、、

無情にも攻撃が強くなった。

さらに早いスピードでMPが削れてく。

 

『25秒経過』

さらに脱落者が多くなった。

私も必死に維持しているが、もう手が震えてきている。

 

『30秒経過』

MPは4分の1もない。

足も震えてきたけど、歯を食いしばる。

 

『35秒経過』

MPはあとわずか。残り数名だが、他のみんなは余裕そう。


うわ、MP切れだ。


『40秒経過』

と、アナウンスされる。

恐らく先生がアナウンスしているのだろうけど、機械のような無機質な声。

今の私には人の温かみを感じない、無慈悲な声だ。


辺りを見渡すとスーザンを入れて3人立っていた。

やっぱりスーザンには勝てなかった。


私は座ってスーザンを見る。

結界を張る姿は美しく感じる。

これで同い年とは思えない。

こんなに差があるなんて、思わなかった。


結局1位はスーザン。私は4位。

よかった方ではある。




「みんな、お疲れ様。それでは2次試験の得点と総合した結果を出すよ。合格ラインは350点だ。」

私は2次試験で254点だから、満点近く取ってないといけない。


『1位 スーザン・ウィル 389点』

  ・

  ・

『5位 リーリン・スミス 350点』



ギリギリで合格だ。

でも一位ではないからきっとザキには選ばれない。

合格した嬉しさと、選ばれない悲しみが混ざってなんともいえない気持ちになる。

 せっかく、苦手な筆記試験に合格できてかつ二時試験にも合格して、気分が舞い上がっていたというのに、この仕打ち。

だからこそ余計に悔しく感じる。


「合格者は5人だ。明日ザキがくるので5人は必ず来るように。」

先生が話す。


明日は行くしかないだろうけど、こんなの恥晒しじゃないか。


今日は、家に帰ってすぐにベットに寝転んだ。


ー・ー・ー


次の日、私含め5人はザキの前で並んでいた。

初めてザキを見たけどかっこよかった。

まあ本人を見れただけ、いい経験になったとは思う。


ザキには試験の結果やどんな人柄かが伝えられているらしい。


それじゃあ、やっぱり無理だな。

試験で結構頑張ったつもりだったんだけど、

やっぱり勝てない人には勝てない。


どんなに私が努力しようと、才能で簡単に覆される。

そもそも、才能がある人とはスタートラインが違うのだ。

なんなら走る速さだって違う。


理不尽な競争。

始まった瞬間から不平等だ。


ザキが私の前まで来る。

「君は、リーリン?だっかな。いきなりだけど、君は僕との旅はどんな旅にしたい?」

え、私に言った?


「え、えと私はみんなで成長しながら楽しく旅をして、最終的には魔王を倒す旅にしたいと思っています。」

突然振られたから、頭の中で当たり障りのない文を作ってそのまま話した。


周りの4人が困惑してる。

「普通1位の私に聞くんじゃ…」

スーザンが呟く。

ザキはそれに反応して話す。

「いや、僕はこの中で1番強いのはリーリンだと思う。僧侶はみんなの様子を見ながら戦うから、1番優しいリーリンが1番強い。それに、他の人は“僕と旅をすること”を重視しているように思えた。そうじゃなくて魔王を倒すために旅をするんだ。」


私が一番優しいって、、一体私の何を知ってるんだ…?


「でも魔王を倒しに行くのなら、結局強い私の方がいいんじゃないんでしょうか…?強さは試験の結果に出てます。その、…性格で覆るほどの差じゃないと思います。」

とスーザンが返す。

たしかにそれはそうだ。

…自分でいうのもなんだけど。


ザキは余裕をもってそれに答える。

「スーザン、それに他の人達も。君達は確かに僧侶として、リーリンより強い。スーザンに限れば、二年生でありながら三年生を出し抜いて一位をとった。たしかにそれは凄いよ。」

ザキは、「もちろん、リーリンも二年生で5位なんだから、凄いよ?」と付け足す。


「だけど、僕との相性もあるんだ。僕以外にも、パーティみんなと上手く付き合えるとは思えない。きっと別の人達と一緒に旅をした方がいいだろう。」

「ッ…」

な、何が起こってるんだ?

裏で何かが起こってる?

そうじゃなきゃ、おかしいよ。


「僕はリーリンを選ぶよ。これからよろしくね。」

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