新年スペシャル! 神界で宴会をしよう! (なお本編との時系列は考慮しないものとする)


 



「明けましておめでとう」


「「「「「おめでとうございます」」」」」」」」」


 神の代表が新年を寿ぐと集まっていた神々が唱和する。


「目出度いことはほかにもある。皆もわかっているだろうが、長らく眠りに付いていた我らがこうして目覚めることができた。こうして新年を祝うことができるのも、とある新神のおかげである。改めて皆の前で讃えようではないか」


「「「おー! 感謝しとるぞ!」」」

「「「ありがとー!」」」


「それ、前に出てくるが良い。新神なのだから何か気の利いたことでも言ってくれ」


「無茶振りしやがって……あー、俺自身は何かしたつもりはないんだが、目覚めてよかったな。俺は生まれも育ちもこの世界の日本だったが、何の因果か死んで異世界に生まれ変わってしまった。その異世界でもワケのわからんことに勇者なんてさせられて魔王を倒した。ついでに邪神とかいうのもな。そしたら、これまたワケのわからんことが起こって神格とかいうのを得たらしくって、神になっちまった。向こうの世界じゃイレギュラーだったみたいで色々制限があるらしい。追放も出来ないって言うし、神の力でコッチに帰れるって言うもんだからこうして帰ってきたわけだ。魂は地球生まれのままらしいから一応出戻りってことになるのかな。まあ、これからよろしくな。ああ、コッチではカムイって名乗ってるが、かまわんか?」


「「「「かまわんぞー!」」」」」

「「「「いよっ! カムイ様!」」」」


 ウケたようだ。

 そう、我らが主人公、カムイ様こと元社畜三上静也に宿る魂の本体である。


 静也が人知れず生き返り、日本の政府中枢でカムイ様が暗躍してしばらく、神気は極力抑えていたものの微かな神気も積もり積もればそれなりになり、とうとう神界で感知されることとなった。

 静也としては大事な妹が無事に社会に出るまで波風を立てたくはなく、カムイ様としての政府上層部への接触も、今後超常現象が起こったとしても無闇に慌てないようにと、ましてや大っぴらな犯人探しのような真似はしないようにと釘を刺すのが主目的なのだ。

 だから超常現象を引き起こしそうな地元の神にはなるべく会いたくなかったのである。


 ところがというべきか、それとも天網恢恢疎にして漏らさずで当たり前の結果なのか、静也は神界からお呼びがかかってしまった。

 そのとき静也はちょっとばかり、いや、かなーり、焦ったものである。何しろ人間からワケのわからないまま神にジョブチェンジしたばかりだ。神々のルールなど全くわからない。人間でいえば不法入国みたいなことをしている自覚はある。しかも既に地上で神と名乗ってしまっている。

 外なる神の侵略だ、邪神の侵攻だ、などと一方的に敵視されるのは復活した三上静也としては非常に困るのだ。せっかく異世界から帰還して妹と再会できたのに、上げてから下げられたようなのもので絶望の落差が倍増である。


 だが、あにはからんや。無視するのは悪手だと、色々覚悟して出頭した静也は歓迎されたのだった。


 拍子抜けした静也が質問してみると、なるほどという答が返ってきた。

 簡単に言うと、所変われば品変わる。世界によって神の方針が違うのだ。あたかもラノベごとに設定が違っているようなものである。


 ここ地球を含む世界の方針は、言うなれば『放任主義』だ。『剣と魔法の世界』のように魔物の脅威に立ち向かわせるため神が『ステータス』やら『レベル』やら『スキル』を大盤振舞して人間から感謝されるという、はっきり言えばマッチポンプは敢えて行わない方針なのだとか。

 そもそも、神が『人間』だけを贔屓しなければならない理由はない。世界によっては微生物ファースト、猫様至上主義があってもおかしくはない。地上生物が神の創造物ならどれかに思い入れがあっても当然だろう。

 その点地球世界は地上の生き物に好き勝手にさせている。三葉虫にアノマロカリス、シダ植物に昆虫、そして恐竜。繁栄と衰退、絶滅が繰返される。人間が繁栄しているように見えるのはミクロ視点だけで、地球の歴史から見るとほんの一瞬である。これで人間のみが神に愛されているなどと思えるのは傲慢なのか頭お花畑なのか。


 仮に人類が自業自得で地球を滅ぼすことになっても神は手を出さない方針のようだ。その場合一から世界のやり直しになるそうだ。


 ただ、地球の神にも手を出さざるをえないラインはあるという。

 それは、外的要因で生態系に影響が出そうな場合である。隕石の衝突などではない。どう聞いてもラノベでしかないが、邪神や異世界の神による干渉には断固排除の方針だそうだ。

 これも聞いてみれば納得であった。

 今の地球は神の時間感覚からしても長い間見守ってきた、いわば盆栽のような作品だ。自然に任せてはいるが部外者が勝手に枝を折ろうとしたら、それは頭に来るだろう。


 実際、地球の神々が眠りについていたのも、その方針が原因だそうだ。

 なんでも、数百年前に地球の神で邪神に落ちた者たちがいたそうで、その邪神たちが人間世界に干渉しようとしたため、全面戦争となったそうだ。新米神である静也にとって胡散臭いことこの上ない話だったが、神本人(?)が言うのだから事実らしい。

 その人類には知られていない神界大戦争の結果は両者ノックアウトであったという。

 邪神たちを消滅させることは叶わず、封印に留まった上、神々も力を使い果たし眠りに付くほかなかったのだという。

 一応人間から信仰という名の神力が補給されるシステムらしいが、それは全て邪神の封印に回されているので中々復活できなかったらしい。


 そこに出戻りの神、静也の登場だ。

 異世界からの帰還は地球の神界を経由したため、地上とのパスが繋がり、微々たる量とはいえ神界の保有神力がプラスに転じ、そのおかげで神の代表者が静也にコンタクトできるぐらいの力を取り戻せたそうだ。

 後はトントン拍子である。静也が神界に出頭し、要求どおり神力全開にしたところほとんどの神が復活したのである。


 その後静也は地球の神々に感謝され、元日本人の魂ということで外敵認定もされず色々な疑問にも答えてもらえたというわけである。

 更に望外の役得というべきか、地上生物としての寿命が残っているため、現人神として人間界での活動も好きにしていいとのお墨付きをもらえたのだ。ただし、邪神や異世界からの干渉には地球の神として防衛を義務付けられたのは勇者として異世界の教会に飼われていたことを思い出させるので痛し痒しだったが。


 そんなこんなで地球の神々とも交流を持ち、静也が地球に帰還してから始めての新年、元人間の静也の習慣に合わせて神界で新年会が催される運びとなったのである。

 大先輩である神々の前で挨拶をさせられるというサプライズもあったが、カムイ様モードにも慣れた静也は適当にこなすのだった。


「仲間に入れてくれてありがとう。おかげで前世の身体も妹も安泰だ。お礼に、料理を振舞いたい。食事の必要はないんだろうが、人間式の宴会しか知らんのでな。まあ、お供えだ。酒もあるぞ」


 地上に合わせての新年会自体が余興である。

 静也はそれならばと取っておきを出した。


「「「「おーっ!?」」」」

「「「「恐竜か!?」」」」

「「「「いや! これはドラゴンだ!」」」」


 そう。静也がアイテムボックスから取り出したのは、異世界産のドラゴンの死体である。

 転生後の静也は異世界で勇者をさせられていた。その期間倒した魔物は数知れず。ただし、換金性の高い獲物は国や教会によって取り上げられていたが。

 最後の戦いになる魔王・邪神戦では、教会のお膝元を出発してから神になってしまうまでの間の獲物は取り上げられることもなくアイテムボックスに入ったままであったので、こうして地球にも持ってこれたのだ。

 その他にも、換金性があまり高くはないが食用になって数が多い魔物に関しては、教会も一々全数検査などはしなかったのでヘソクリ出来ていた。勇者仕様のアイテムボックス様様である。


「ついでにこれも。人型だが、肉は美味いぞ」


「「「「おー! これがオークか!」」」」

「ここ最近、人の子の文化を覗き見たが、まさか本物が見られるとは」

「まさに。人の子の想像力とは恐ろしいな」


 ファンタジー小説など、神話も含めて紀元前から存在するが、神々が休眠している間に流行したラノベ文化が現実となったことに、おかしな表現だが、何か神懸り的なものを感じる神々であった。


 宴会料理は神々が協力して作ることに。これも余興だ。

 料理に造詣のある者は凝った料理を、そうでない者もバーベキュー程度のお手伝いをする。

 異世界の魔王討伐軍の荷物持ちも請け負っていた静也は他にも兵士たち向けの酒も持っていたのでこの際大放出した。地上で売れるとも思えないし、使い道がない。御神酒代わりだ。


「では、改めて新年を寿ごう。乾杯!」

「「「「「乾杯!」」」」」


 一応まだ人間でもある静也に合わせて人間形態になった神たちが、銘々に作り出した杯やコップ、ワイングラスを高々と掲げる。

 大宴会の始まりだ。


「おお!? このドラゴンの肉、霊力が篭っておるぞ!?」

「まことか!? おお! 漲る!」

「うむ! これほどの霊力を取り込めば神力の回復も早まるわ!」

「「「「なに! それは是非食べなくては!」」」」


 ドラゴンの肉、大人気だ。オーク肉はまあ、そこそこ。


「のう、新入りの神よ。このドラゴンとやら、まだ持っておらんか?」


 巨大なドラゴンだったが、霊力目当ての神々によって既にスケルトンと化している。

 食い足りない神が厚かましくも静也の太っ腹なところに期待した。


「いや、この一頭だけだな。他の魔物ならあるが……」


「残念じゃのう……」

「ああ、このドラゴン、地上にもおれば、今後も食べれるのにな……」

「「「「確かに……」」」」


「そうじゃ。新入りが現人神なら地上にドラゴンを生み出しても問題ないのでは……」

「それなら、密かにダンジョンとやらを創れば地上にも影響はなのではないか?」

「「「「それだ!」」」」


 宴も酣となり、異世界産の安酒に酔ったのか、一部の神が不穏なことを言い出した。にわかのラノベ知識か!


「えーい! 何をバカなことを! 邪神に堕ちたいのか!」


 代表らしき神に怒られ、一旦は大人しくなるが、その神たちは骨となったドラゴンを名残惜しそうに眺めていた。


 その後神々の宴は酒が尽きるまで続くのだった。


 一抹の不安を残して……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る