第31話 マウントを取ろう! 4
(主人公視点)
「はっ、し、静かに! 静粛に!」「そ、そうだ! 静かにしろ!」
驚きはしたものの、真っ先に首相が正気を取り戻し、大臣がそれに続いた。何が起こったかは理解していないが俺が関わってるのはわかっているのだからリカバリーは早いのだろう。
だが、今度は首相、大臣の言葉も通じない。事務次官、長官たちはまるで野党がヤジを飛ばすように騒ぎ、首相たちに説明を求めた。
『黙れ』
俺は声に神力を乗せ、騒ぐ人間を威圧した。
ピタリと静まり返る。
畳み掛けるように俺は姿を現した。
『平伏すがいい』
ははーっ、とは口に出さなかったが、集まった首相をはじめとした国のトップの面々が膝と両手を着き頭を下げた。
何せ今の俺は、会議室のときより大きい、18両編成の新幹線クラスの龍の姿だ。そんなのが周りをぐるりと囲み、頭の上から睥睨してくるのだ。恐くない人間はいないだろう。地面は海底の砂だが、魔法で乾かしているので問題ない。帰りに改めてきれいにしてやろう。腰を抜かして引っくり返ったヤツもいたが、念力で平伏スタイルにしてやったので、一見奉行所のお白州だ。なら次のセリフは決まりだ。
『面を上げい』
冗談みたいなセリフだが、恐る恐る顔を上げて俺の姿を再確認した者で笑う人間はいなかった。そりゃ目だけでも人間より大きいんだ。そんなのに見つめられて平気な人間は中々いないだろう。
前回はユーモアを交えたが、その分信じてもらえず、説明に時間がかかったので、今回は初っ端から威圧するスタイルで行くことにする。
『まずは座るがよい』
話をスムーズに進めるため、念力で一度参加者を持ち上げ、錬金魔法で砂から石製の椅子を作り出し、そこに彼らを座らせた。
念力で持ち上げた時は若干悲鳴が漏れたが、概ね静かなので説明に移る。
『そこの首相と大臣どもには先日顔を合わせた。今日はそなたらの番というわけだ。まずは名乗ろう。我は、神だ』
何度目のセリフか数えてはいないが、毎度反応が悪い。当たり前といえば当たり前だな。こりゃ方針間違えたかな? ウソじゃないから悲しいものがある。
『フフフ。信じられないというより、認めたくないようだな。顔に書いてあるぞ。だが、許そう。気持ちはわかるからな。首相よ』
「は、はい」
『そなたは我が神だと信じておるか?』
「はっ、その、いまだ結論は出ませんが、人智の及ばぬ存在だとだけは……」
『フフフ、それでよい。いや、逆にそれがよい。人間の勝手な理想像を押し付けられても癪に触るというものだ。聞いたか、皆の者。我は呼ばれ方に執着はない。神と呼びたくなければ悪魔でもバケモノでもかまわんぞ』
うーむ。やはり反応が悪い。中には『龍は龍じゃないのか』って痛いところを付いてくる者もいる。ドラゴンとは全く関係ないからな。
『そうだな、顔合わせであるから、少し身近な話をしよう。そなたら、RPGゲームは知っておるな?』
龍の口からドラゴンブレスではなく『RPG』なんて言葉が出てきたせいか皆呆気に取られていた。いや、別に戦国時代に逆行転生したわけじゃないから、普通に横文字は使ってるんだけどなあ。『我』とか『そなたら』とかはキャラ作りだけど。
『ではステータスもわかるな? そのステータスの職業やらジョブが剣士や神官になっていた場合、実際の職業として剣士や神官をするのか? 答はノーだ。実際は好きな仕事をすればいい。ゲームなら冒険者だな。商人でも盗賊でも勝手になればいい』
テレビゲームなんて流行して何十年も経つ。今はネットゲームもある。官僚のトップとはいえ、子供の頃、学生の頃遊んだことのない人間は少ないだろう。ゲームに全く興味がなくとも、情報は氾濫しているので耳にもしたことがないというのは逆に社会人として致命的ではないだろうか。
だが、予想に反して反応はまだ薄い。巨大龍の姿のせいか?
『もう一つ聞こう。この中に弁護士の資格を持つ者は手を挙げよ』
最近お世話になってるから例に出してしまった。まあ、これだけ政治家と上級公務員がいれば何人かはいるだろう。
思ったとおり、恐々とだが、何人かの手が挙がる。
『そこの者、答よ。そなたは実際の職業は弁護士か?』
サイズが半端ないので指は差せず、龍の髭をウネウネと動かして指名する。
「ひっ、あ、あの、私は裁判官です……」
官僚ではなく、司法のトップも呼んだらしい。
『そうであろう。弁護士の資格を持っていようと必ずしも弁護士という職業に就かなければならないことはないのだ。わかるか? 我はステータスのジョブが神となっているだけで、そなたらが望んでいるような神ではないということだ』
うーむ。大臣たちの時もそうだったが、言葉ではいまいち俺の言いたいことが伝わらない。やっぱり神の力を見せつけて、徐々に認めさせるしかないのかなあ。
『神として崇めなくてもかまわんが、力の差だけは認めることだな。それがそなたらのためでもある。今日ここに連れてきたのは、我の力を誇示するためでもある。しばらく考える時間を与えよう。好きにドームの中を見て回るがよい。首相よ、任せた』
「はい。畏まりました。さあ、皆さん、お言葉どおり、見て回りましょう。各大臣たちはそれぞれケアしてください」
かなり俺との付き合い方に慣れた首相が呆然としている新規参加者に声をかけて、行動に移させる。
まあ、ドームといっても小さな体育館くらいだ。見て驚くのは海水が壁になっていることぐらいだろう。
おっと、龍のままだと恐くて壁に寄れないか。
ドロンとこの前と同じ龍人貴族神主(?)の姿に変化した。
なんだ? コッチの方がウケがいいのか? ままならないねえ。
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これまで読んでくださってありがとうございます。
来年も引き続きよろしくお願いいたします。
よいお年を。
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