第30話 久しぶりの連休・マウントの続き



(主人公視点)


 課長に殴られ病院に搬送されたあと警察が来て事情聴取された。まるで刑事ドラマのような出来事だった。

 本来の予定では、辞表と有給休暇申請書を出して、更にサービス残業の未払い分を請求する。もしそれが問題なく受理されたのなら、規定どおり2ヶ月後に退職するつもりだった。突っぱねられた時点で弁護士さんを呼んで訴訟を視野に入れた交渉をしてもらう手筈だった。


 しかし、課長の暴挙のおかげでいろいろ前倒しになってしまった。弁護士さんはもう警察に被害届と刑事告訴を申請しただろう。

 会社の方も、向こうに瑕疵があるので規定上の2ヶ月を待つ必要はない。そもそも告訴した側とされた側が同じ職場で働けるわけがないのだ。その辺も弁護士さんが上手くやってくれるだろう。


 つまり、俺はもう会社に行かなくてもいいのだ! ヒャッフウウウ!!!!


 そんなわけで俺(三上静也)は病室で一日過ごした。本体の俺は自由に飛び回れるので暇ということもない。

 午後9時、俺は無事(?)退院した。実は神の力を使ってのズルだ。医者に自宅療養を認めるよう意識誘導したのである。病院なんて訴訟用の診断書をもらえれば用はない。もう寝ているかもしれない愛しの妹の下へ帰らねばならないのだ!


 ルーチンどおり夜遅くアパートに戻り、やはり既に寝ていた妹を起こさないように俺(静也)も妹の隣の布団に横になる。神は眠らないが、妹に怪しまれないように肉体を強制睡眠させる。これで朝までぐっすりだ。

 ちなみに顔のケガは治癒魔法で完治させた。痕すら残っていないので妹や近所の人にバレることはない。会社関係者の前に出るときは魔法で傷跡を再現すればいいだけだ。


 翌日は全国的に土曜日。学生とホワイトな職場は休日である。


「え? お兄ちゃん、今日休みなの!?」


「おう! しかも、聞いて驚け、なんと、明日の日曜も休みだ。2連休だぞ!」


「すごーい! お正月みたーい!」


 週休二日がそんなにも珍しいか、妹よ。前世の俺に毒されてしまったか。哀れな……

 今日はたっぷり付き合ってやろう。

 といっても、急に贅沢をするつもりはない。何かのお祝いでもない只の休日なのだから。

 そんなわけで朝からホットケーキパーティーした! 一昨日の余りでな。

 そして母の実家に突撃した。(直前に連絡はした)


 母の実家には伯父一家が住んでいる。

 もし祖父母だけだったら、そもそもあの母が居座って俺の子供時代も平凡なものだったろうし、母が亡くなった後も済し崩しに世話になっていたことだろう。そんな話はよく聞く。単に俺たちは違ったってだけだ。ままならないものである。


 実家でも特にこれといったイベントもなく、俺はゆっくりさせてもらった。妹はどちらからも歳の離れた従兄弟(高校生)に任せた。なにやら最新のゲームで場を持たせているようだ。ウチには10年前のゲーム機しかないからな……スマン、従兄弟よ。


 その後お昼をご馳走になって、夕方までまたのんびりさせてもらう。流石に夕食は断った。伯父たちも『遠慮するな、これからもちょくちょく顔を出せ』と言ってくれたが、まあ、社交辞令だろう。また休みが取れたらお邪魔させてもらうと言ってその日は帰った。


 途中で買い物し、夜はホットプレートで焼肉パーティーだ! 豚コマ野菜大目だが、妹は喜んでくれた。俺にはもったいない妹だ。妹こそ女神ではないだろうか。




 そんな兄バカを炸裂させていると、本体のほう、正確には分霊3号のほうに動きがあった。


「カムイ様、事務次官たちとの顔合わせですが、明日午後ではどうでしょうか?」


『ほう? 思ったより早かったな』


「はい。大臣たちもがんばりました。それに休日のほうが都合を付けやすいですし。正直申しますと、皆早く秘密を共有する道連れがほしいと思ってますから」


『フフフ。首相よ、言うではないか。卑屈になったと見せかけてこれか。やはり一国の首脳は侮れんな』


「いえいえ。小人には小人のやり方があるというだけでございます。それよりご相談が。今回は事務次官に加えて副大臣や庁の長官クラスも集まります。大臣を含めますと100にはなりませんが、それなりの人数になります。この会議室では少々手狭かと」


『我に考えがある。とりあえずどこでもよいので集まるがよい。全員揃ったら我を呼ぶがいい』


「えー、そのお考えとは一体どのようなもので?」


『サプライズだ。そなたも驚くがよいぞ』


「……わかりました。明日を楽しみにしております」


 首相、悟りきった顔してるなあ。前回もサプライズで何も教えずクマとか龍に変身したからそれを思い出したんだろう。


 公私ともに、ではなく、神としても人としても順調にことが運んでいる。異世界で苦労した甲斐があったというものだ。


 明けて日曜日。

 この日も世間的に普通の休日を過ごす。普段一緒にいられない妹と、できるだけ金のかからないお出かけを楽しもう。


 そして午後。

 本体である俺は首相に呼ばれ、官邸に来ていた。

 結局集まるだけならと、同じ会議室を使うことに。椅子も足りていないので立ったまま小さなグループになってあちこちでこれから何が始まるか話し合ったりしている。特務大臣など女性もグループができるぐらいは参加していた。

 今回の新規参加者は大臣たちより若干平均年齢が低く、健康状態も悪くない者が多いため、常時治癒効果のあるこの部屋に入ってきても実感できない者が大半だが、中には慢性疲労や持病のある人間もいたため、首を傾げている者もいた。

 また、呼び出した側の大臣たちに主旨を問い詰める者もいたが、大臣たちは経験上言葉にしても信じてもらえないと考え、時間になるのを待てと逃げ回っている。それを見て首相は満足げだ。


「静粛に!」


 首相が声をかけると、国会の野党ではないので、事務次官、長官たちはすぐに静かになり、首相の次の言葉を待った。


「では、今日集まってもらったわけを説明します。カムイ様、お願いします」


『うむ。皆の者、場所を変える。パニックになるではないぞ?』


 俺はまだ姿を現さず、声だけかけると一同を転移させた。


「は?」「一体何が!」「周りを見ろ!」


「は? 魚?」「ここは、海の中か?」


 そう、俺は海底に転移したのだ。


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