第34話 拠点を作ろう! 3

 


(主人公視点)


『では、他に質問はあるか?』


 新規参加どもの態度に関しては一旦置いとくとして、話を続けよう。これも人外アピールの一環だ。


 大臣の一人が手を挙げた。


「あの、例の土地の件ですが、進捗がありましたので、つきましては、パソコンが使えるあの会議室に戻りたいのですが……」


「おお! そうでした。カムイ様、すでにカムイ様のお力の一端は示せたようなものですので、ここは一つ、話し合いにふさわしい場所へ参りませんか?」


 首相が大臣の質問というか提案に乗ってきた。

 それって、海の底に置いていかれるのが恐いからだよな?


『ふむ。残念だな。これから夜になる。真っ暗な海というのも乙なものだがな』


「「「「ひっ……」」」」


『まあ、よい。今後も上下関係を弁えれば個人的感情はとやかく言うまい。では帰還するぞ。立つがよい』


 ちょっと脅かしすぎたかな?

 許容範囲内だといいなと考えつつ、連中がノロノロと立ち上がるのを待って、俺は全ての人間を引き連れ元の会議室に転移した。


「おお……夢じゃ、ないよな?」「ズボンを見ろ。砂だらけだ」「俺、石ころ拾ってきた」「俺もだ。証拠になるかと思って」


「あー、静粛に!」


 会議室に戻ると、床にへたり込む者が続出した。そして、比較的マシな者たちは口々にたった今起きたばかりのことを検証し始めている。

 そこへ首相の声がかかった。


「皆さん、今日は大変な経験をしたことと思います。今日はこれで解散しますが、ゆっくりとカムイ様が仰っられたことを咀嚼してみてください。カムイ様の言によりますと、頻繁に何かを命じることはないようですが、近日中にあなた方の意思確認はさせてもらいます。何か問題があったら、私や大臣方に相談してください。ああ、無論、口外無用ですよ。そうですよね? カムイ様」


『フフフ。そなたらの言葉信じてくれる者がいればよいな。<洗浄>』


 俺は何が何でも秘匿しようとは考えていないので、曖昧な言い方に留めた。ただし、状況証拠となりそうな砂による汚れは魔法できれいにしてやる。神の力のアピールにもなるし、一石二鳥だ。


「え!? 汚れが落ちた!?」「俺もだ!?」「おい! 靴の裏まできれいになってるぞ!?」「バカな……ありえん」


「静粛に! 静粛に! 今更騒がないように! 速やかに解散しなさい!」


 すし詰めの小会議室が騒がしくなったので首相が強引に解散させた。もうちょっと広い部屋にすればよかったかな?


 不満そうな、不信感を隠せないような、興味深げな、混乱真っ只中な、呆然とした、など様々な表情で副大臣以下事務次官たちは部屋を出て行った。

 大臣たちも、半数が俺に挨拶をして出て行く。

 残ったのは首相と官房長官、先日物件探しを頼んだ大臣たちだ。


「では、少々お待ちください。パソコンを用意いたしますので」


 内閣官房長官が自ら準備するようだ。といってもドアの前で部下からノートパソコンを受け取るだけだが。


「都内の土地は目星が付きました。全国の廃村はまだ一部だけとのことです。今日、カムイ様を知る者が増えましたから、一週間以内には全ての情報が集められると思います」


『うむ。よきに計らえ』


 お約束の返事をして画面を覗く。


『ほう? こんなサイトもあるのか。人の子は不思議なものに興味を持つのだな』


 見せられたのは『廃墟探索・東京編』というサイトだった。俺が例を挙げた廃病院、廃校、廃工場の他にもホテル、レジャー施設から個人住宅まで、東京なのに結構な数だった。

 俺が只の社畜だったら、忙しさも相まって縁のないサイトだっただろう。


「このようなサイトがいくつかございまして、小さな物件は多少漏れがあるでしょうが、カムイ様ご希望の広いスペースという条件でしたら、昨日今日経営破綻したのでなければ、どのサイトも網羅されていると思います。この中から更に交通の便と、再開発未定という条件を加えて絞り込んだのがこちらになります」


 画面が切り替えられ、一気に数が減ったリストが表示された。このリストは手作りだよな? よくこの短期間で作ったものだ。いや、調べたのも作ったのも部下かな? ご苦労様です。

 リストを見ると、なるほど、奥多摩の物件が消えている。もうあそこは山だからね。山の物件は別で依頼しているし、東京である必要はない。


『ご苦労。後ほど現地を直接見てから決める。廃村もまだすべてリストアップしたわけではないのだろう?』


「はい。いえ、廃村だけでしたらすぐにわかります。ですが、廃神社があるかどうかや扱いについては別に当たらなければなりません。今日から相談できる人員が増えましたから明日にでも手配いたします」


『そうか。任せる。しかし、人の世の中も変わったものだ。誰でもこのように情報を調べられるとは。この分では、遠からず我の情報も都市伝説やら心霊現象として晒されるかもしれんな。いっそ、我自らブログでも開設してしまうか。神の日常などというタイトルはどうだ?』


「ご冗談を……冗談ですよね?」


『フフ、さてな』


 俺は廃墟のサイトからリンクして心霊スポットのサイトをあちこち巡りながら冗談を飛ばす。いや、本当に冗談よ? 仕事でもない限り毎日ブログの更新なんてそれこそ冗談じゃない。せっかく神になって地球に帰って来れたんだ。妹のこと以外で義務や常識に囚われるなんて御免被るってもんだ。


「えー、何やら不穏ですが、カムイ様、この後少しお話が。かまいませんか?」


『問題ないぞ』


 俺の了承のあと、首相は官房長官を残して大臣たちを帰らせた。休日出勤ご苦労様。ちゃんとお手当てはもらっとけよ?

 会議室は3人だけになり、首相が改めて話し始めた。ちょっと声を潜めた感じだ。


「……実はカムイ様に引き合わせたい者がおりまして。前にご質問のあった『陰陽寮』関連なのですが……」


『ほう?』


 これはおもしろくなってきましたぞ!?


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