第33話 マウントを取ろう! 6
(主人公視点)
「キミ達もバカなことを言うんじゃないよ。ここがどこだか、どうやってここに来たのか、忘れているんじゃないかね? ここに置いていかれるだけで我々はお仕舞いだ。カムイ様が我々を害そうという気があればとっくに命はなかったんですよ」
「総理、しかしですね、秩序というものが……」
「我々の知らない世界があったということですよ。受け入れることが平和への道です」
「……」
『フハハハ。首相よ、よく言ってくれた。だが、そなたが悪者になる必要はないのだぞ?』
「いえ、これでも国政の長ですので」
『フハハハハ。聞いたか? 今日初めての顔合わせでもあるし、首相に免じてそなたらの不敬は見逃してやろう。仏の顔は三度までだそうだが、我は神であっても仏ではない。次はないからな。努々忘れるでないぞ』
首相のおかげでそれ以上不服をいう者は出なくなった。まあ、気持ちは普通に理解する。俺もいきなり神になったって言われた時は、何言ってんだコイツ、殺してやろうかって混乱したからなあ。
『では話を戻すが、我はこの国を滅ぼしたいわけでも世界を混沌の渦に陥れたいのでもない。只そこに存在しているだけだ。世情に鑑み、多少の情報を与えたほうが双方にとってメリットがあると判断したからこその接触だと理解してほしい。こちらからの要求は大したものではないことが多かろう。逆にその方らが裏があるかと邪推するようなつまらないことを頼むかもしれん。例えばコンビニでの買い物は我一人でもできるが、ネット通販をしたい場合どうしたらいい? まず家を借りてネットに繋がる端末を手に入れなければ不可能だろう。そのために我に不動産屋を訪れろと言うのか? 市役所で住民票を申請しろとでも言うのか? よくて不法入国者扱い、悪ければバケモノとして自衛隊を呼ばれるだろうな。そなたらはその騒動を解決するのと、我の代わりにネット通販で買い物をするのと、どちらを選ぶかという問題だ』
「……」
『何度も言うが、我を神と認めないのは問題ない。だが首相は半ば認めてVIP扱いだぞ? 国政のトップがだ。その首相が便宜を図ってやれと命じたというのに、そなたらは秩序がどうのを言い訳に逆らうのか? それでよくその地位まで登れたものだ』
「くっ……」
『清廉潔白の政治家、官僚など、それこそ御伽噺の存在だ。我が神を名乗るように、そなたらも清廉潔白の国士を名乗ってみるか?』
「……」
「まあまあ、カムイ様、それぐらいで勘弁してください。私も耳が痛いですから」
『そうか。大臣たちよりも頑固なものでな。つい本音が出た。ああ、勘違いするなよ。何も清廉潔白になれと言っているわけではない。特に融通の利かない石頭には用はない。我が求めているのはスムーズに我に協力してくれる者たちだ。できない道理はないであろう?』
「……もし、出来ないと言ったら?」
事務次官たちの中から、そんな発言が出た。
『ほう? まだ折れぬか。ではわかりやすく行こう。これで本日の顔合わせは終了だ。元の場所に帰還する。我に協力する気はないという者は立て。この場に置いていく』
「そんな! それでは脅迫ではないか!」
『それがどうした。恫喝から始まるのが政治であろう? ましてや神に逆らったのだ。今すぐ死を与えぬのを慈悲と思うがよい。もしそなたらの考えているようにこの状況がトリックであったら、どこかに元の場所に通じているドアがあるかもしれんぞ?』
俺が強気で言うと、首相が慌てて立ち上がった。
なんだ? 置いてけ堀希望か?
「お待ちください! 次官クラスが突然行方不明というのは困ります!」
立ち上がったのは俺に意見するためだったらしい。そらそうか。
『よきに計らえ。そのための顔合わせだ。それが初仕事となるだけだ』
「お腹立ちはわかりますが、そこを何とか。わたくしの、内閣総理大臣の顔に免じて!」
『たかが人間ごときが支配者ヅラしおって。神を舐めるのもいい加減にするのだな』
思わず頑なな態度を取ってしまった。だって、コンセプトは『初っ端からガツンとやる!』だったから。しかし、何とか軟着陸したいものだ。首相の話術に期待しよう。
「いえいえ。仕方のないことなのです。私も、大臣たちも、はじめは混乱して失礼な態度を取ってしまいましたが、時間を置いて冷静に考えると震える思いでした。彼らも元々優秀な者たちです。一日、一日猶予をください。自分がどれだけ矮小な存在か、どれだけ愚かなことをしたか、じわじわと理解することでしょう」
『ふむ……』
「そ、それに、カムイ様は仰いました。鞭だけでは効率が悪いから飴も与えると。何卒寛容なご判断を……」
ナイス首相! 言質を取られた形だが、約束は守るってアピールにもなるな。
『……飴と鞭か。バランスが難しいな。洗脳した方が早いのはわかってはいるが、アレも始末に困るからな……』
「せっ、洗脳!?」
『ああ、気にするな。神の力、神威というのを強く浴びせれば、人の子は自然に我を神と認めるようになる。だが、それは宗教的な信者を作り出してしまう。洗脳と同じだ。我は好かん。恐怖で縛ったほうがマシというものよ』
「……洗脳できないとは言わないのですね……」
『人の子にできて神にできぬ道理はないだろう。それとも、そなたらは国民を洗脳していないと胸を張って言えるのか?』
「い、一概には何とも……個人の感想と言いますか、表現の問題と言いますか……」
『何でもかまわん。単なる手段の一つに過ぎん。だが、まあ、我が迂遠な方法を選んだのは確かだ。長い目で見てやろう』
首相をはじめ全員がホッとして椅子にへたり込んだ。
俺も軟着陸できてホッとしたね。
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