第26話 俺は会社を辞めるぞー! 4
(主人公視点)
レースの結果は……
優勝弁護士さん、2着警察。ビリがウチの会社だった。
まあ、わかりきってたけどね。
病院搬送までは読めなかっただろうけど、今日動くことは予定してたからな。電話の後タクシーで駆けつけてくれたよ。
僅差で2位の警察も、さすが先進国でも治安がいいとされている日本だ。通報から現場到着RTAは世界有数である。KOUBANがあるのとないのとでは大違いだね。
遅れに遅れたウチの会社は体質がアレだからね。病院に来たのも社員を心配してなんかではなく、余計なことをしゃべらせないように口止めしに、だろう。神にとって意味はないのだが。
結局、弁護士さんに『今後は弁護士を通すように。追って連絡します』と体よく追い出されていた。
俺にはそのセリフが『法廷で会おう』とか『首を洗って待っていろ』というふうに聞こえた気がした。
ウチの会社については後にして、弁護士さんは病室に入ってくると俺の身体をまず心配してくれた。出来る人間は違うね。その後は想定以上の進行具合にニンマリしてたけど。
その後担当してくれた先生が警察の人を連れてきてくれた。忙しいだろうに、証言とかするそうだ。
警察は二人組で制服を着た、いわゆる『お巡りさん』だ。内容次第で刑事さんが出てくるのだろう。彼らは俺が点滴を打たれているのを見て少し表情が真剣なものになり、弁護士さんを紹介すると更にギョッとしていた。
「えー、それでは事情を聞かせてもらいますが、まさか弁護士の方がいるとは思いませんでした」
「ええ。彼からは労働環境について相談を受けていまして、今日、退職することを伝える手筈だったのです。円満に済めばよかったのですが、こんなことになって残念です」
「そうですか。会社とトラブルになりそうだったのですね? 暴行を受けたと通報があったのですが、経緯を教えてくれますか?」
「はい。ですが、それよりこれを見てもらえれば……」
俺は弁護士さんの話を引き継ぎ、スマホを見せる。
「実は、あとで言った言わないと揉めないように録画モードにしてたんです」
「そんな物まで……わかりました」
警察の許可が出たので、映像を病室のテレビに映し出した。
実は警察が来る前に病院側に頼んで機材などをセッティングしてもらっていたのだ。この用意周到さ。ドラマでも中々お目にかかれないだろう。逆に変な疑いをかけられる恐れもあるが、それは考えすぎなだけ。神の力で素直になってもらう。
映像は机の上の大量の資料から始まる。
「これは……」
お巡りさんたちがビックリしていた。それでも管轄外だからか言及はなかった。
コメントがあったのはお医者さん。
「この患者のケガは大したことはなかったが、入院が必要なほどの過労状態です。この映像を見たら納得ですな」
「なるほど……」
資料整理を延々と見てもしょうがないので、課長の登場まで早送り。
「これは酷い……」
課長が登場してからは暴言のオンパレード。ウチの同僚二人以外から同じような感想が得られました。
そして問題のシーン。
「……これは間違いないね」
残念ながら映っていたのは課長が殴りかかる瞬間までで、拳が俺の顔面にヒットする瞬間は角度的に映っていなかった。
幸い、警察はこれでも十分だと判断したようだ。
後はスマホが飛び出したため映像が乱れて真っ暗になった。カメラが床を向いたためだ。
だが、まだ声は聞こえるし、実際、映像の続きもある。
「おや、また映りましたね。これは誰が撮影を?」
「は、はい。わたしです」
白川さんはおずおずと手を挙げた。
「えっと、三上君のスマホが転がってきて、拾ったら録画になってて、あ、映さなきゃって思って……」
「いえ、責めているのではありませんよ。大助かりです。被害者の三上さんが映ってますね。気絶しているとわかります。おや、救急車を呼ぼうとしたのは、こちらの方ですね?」
映像には滝田さんが声を上げて課長と言い合いになった場面が映っている。
「あ、はい。誰も動こうとしなかったので……二回目ですし……」
「二回目、ですか?」
「はい、実は、一昨日も三上が会社で倒れて……」
「そうでしたか。え? 水をかけろって、正気ですか、この人……通報の妨害まで……」
映像は佳境に入り、課長の駄々っ子ぶりがクローズアップされている。
そういえば適宜俺の気絶しているショットを入れたり、発言者に寄ったり、時にはズームアウトして社員たちの困惑している様子なんかを映している。
そして救急隊員の到着とともにうなだれる課長。
救急隊員が俺が意識がないことを確認してストレッチャーに載せられ、同行者を求められたところで映像は終わった。
何このカメラワーク。これ、シナリオも編集もないんだぜ? 白川さんは何者?
「いや、見ごたえがありましたな。病院と弁護士の先生方の立会いがなければ映画か何かだと思ってしまうところでしたよ」
ほら、お巡りさんも絶賛している。
「本来は調書を取りに来たんですが、この映像があれば十分ですな。最後に調書にサインはしてもらうことになりますが、この映像、お借りしてもよろしいですか?」
「えーと、先生にお任せします」
俺は弁護士さんに丸投げする。あくまでも俺はヨワヨワの被害者だからね。
「そうですな。肖像権の問題や流出の恐れもありますから、データを私の携帯に送ってもらって、私の事務所か警察署で私の立会いの下確認するというのはどうでしょう? コピーが必要なら正式な書類が必要です。昨今厳しいですからな」
「わかりました。そのように報告しておきます。では、調書もできたようなので確認の上サインをお願いします」
警察二人のうち一人はずっと調書を作成していたらしい。時折映像を止めて課長の発言なんかを一字一句確認してたからな。
まず弁護士さんに確認してもらい、OKが出た後、俺も確認する。少し時間をかけて読んだ後サインした。
「これで結構です。最後に確認になりますが、訴えるつもりはありますか?」
警察が重要な質問をしてくる。
コンコン。
おや、誰か来たようだ……
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