第25話 俺は会社を辞めるぞー! 3
(主人公視点)
フフフ。プランCは上手く進行しているようだな。
あ? プランCって何だって? ねえよ!そんなもん! と言いたいところだが、実は弁護士さんと色々パターンを想定していたのだ。その中の一つ、課長が切れて暴力を振るうパターン。今回はこれが当て嵌まった。中にはヤクザが介入するパターンもある。実際他のブラック企業であった話だそうだ。
ちなみに、俺こと三上静也は本当に気絶している。演技などではない。今偉そうに語ってるのは誰だって? そりゃ幽体化してる本体に決まってるだろ。
分霊1号が憑依というか魂として定着していて普通に神の力を使えるが、急に元気になっても怪しまれるし、なにより妹に別人だと思われたら邪神に堕ちる自信がある。だから最低限の生命維持だけに留め、身体はボロボロのままにしておいた。
結果、課長のへなちょこパンチでも一発KOされたってわけだ。まさか流血するとまでは思わなかったが、文字通り色を添えた程度の誤差だ。計画に支障はない。
搬送されたのは一昨日と同じ病院。
救急隊員が救急車の中で俺の呼吸や脈拍を調べながら、何故か乗り込んできた同僚の滝田に俺に主治医がいるか確認し、滝田が一昨日も俺が救急車で運ばれたことを告げたので本部かどこかに問い合わせた結果、この病院になったのだ。この辺は魔法で思考を誘導させてもらった。時間の節約程度だ。
病院ではCTスキャンやら脳波検査をされ、脳に問題がないことがわかって一般処置室に戻された。検査まではかなり慎重に扱われたが、脳に問題がないと判断されてからは傍目にも雑にベッドへと移動させられた。
丁度いいので、その衝撃で目覚めたことにする。
「ここは?」
「気が付きましたか? 先生、患者さんが目を覚ましました」
ドラマや小説では『あなたは三日も寝てたんですよ』とか『三年も意識がなかったんですよ』などと後ろに付きそうな看護師さんのセリフだ。何故か『3』縛りが多い気がする。そして、俺は『看護師さん』より『看護婦さん』のほうが親近感があると思う。これは数の力ではない。全国アンケートを取ってもいないくせに、さも自分が正しいと主張する声だけ大きい輩たちの仕業だ。いずれ神の力で駆逐してやろう。
……神になってから妄想と脱線が多くなった気がする。いろんな柵から解放された影響だろうか。
「そうか。付き添いがいるって言ってたな。呼んでくれ」
「はい」
「あの……俺はどうしてここに……」
形式的に事情を尋ねようとすると同僚の滝田と、その同期で俺(本体)がスマホの撮影を
「三上! 起きたんだな、大丈夫か?」
「よくわかりませんが、ご心配をお掛けしまして……」
「まずはケガの治療をしよう。話は後だ。座って待ってなさい」
医者に言われて二人は椅子に座る。
医者が俺の治療を始めた。
「きれいに切れてるな。深くもない。縫うまでもないな。目の上は切れやすいんだ。ボクサーがよくやる。一週間もあれば塞がるよ」
まあ、治癒魔法で一瞬だがな。
看護婦さんがアルコール綿で傷周りの血拭いてくれて、傷に薬を塗る。その上にガーゼを当ててテープで止めた。ケガとしては軽症も軽症だ。
「ケガよりも、あなたの場合、過労のほうが問題だね。一昨日の簡易検査、報告書があるよ。入院して根本から治したほうがいいよ」
「いや、入院はちょっと……自宅療養で何とか……」
「事情は聞かない……とは言えないな。知ってるかもしれないが、暴行事件が疑われる場合、医者には通報義務があるんだ。ケガそのものは大したことがないとはいえ、見過ごすことはできない。救急からもその可能性があると報告されたからね。そちらの付き添いの二人は事情を知ってるならこのあと警察が来ると思うから説明してほしい」
「「わかりました」」
二人は声を揃えて承諾した。
俺も頷く。
「あ、すみません、弁護士さんに連絡したいので電話使ってもいいですか?」
「用意がいいね。それぐらいならかまわないよ」
「あ、三上君、カバンだけだけど持ってきたよ。それから、これ……」
白川さんは気の利くことに俺のデスクからいつも通勤時に持ち歩いているカバンを持ってきてくれたようだ。そしてちょっと自慢げに、カバンとは別に差し出したのは俺のスマホだ。
「倒れた時落としたみたいだから拾っておいたの。感謝してよね」
「ありがとうございます……」
俺はスマホを受け取ると登録してある弁護士事務所に電話をかけた。
そして状況を簡単に説明して病院の名前を伝える。この後警察が来ると言ったらなるべく早く向かうとの返答をもらえた。
その後、普通なら大部屋に入院するところを、警察の事情聴取があるため個室に移動させられてしまった。以前の俺だったら、入院費が~! と元々青い顔を更に青くしていたかもしれないが、ニュー静也は落ち着いたものだ。いくら費用がかかろうとも、会社への慰謝料に上乗せするだけだ。ここがホテルならルームサービスでも頼んだのに。
同僚二人も警察が来るまではと、ついて来ている。
こういう場合、真っ先に上司にホウレンソウするのが社会人の常識だが、上司というのが、あのパワハラ課長で、事件の当事者、いや、加害者だ。連絡の必要性がない。警察に指示を仰がねば、という免罪符を手に入れた二人は完全無視を決め込んでいる。
その代わりなのか、課長以外の同僚たちには片っ端からメールを送っている。
「おい、会社で緊急会議だってよ。部長クラスがここに来るそうだ。ただ、課長を同行させるかどうかで揉めてるって」
滝田さんが会社の内部情報を手に入れたようだ。まあ、神の力でそれは知ってたけど。
「そうですか。弁護士さんが早く来るといいんですがね……」
弁護士vs警察vs会社の上司。
最終的な結末は変わらないが、このレースで騒ぎが大きくなるかどうか……
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