第22話 久しぶりの・・・ 4
(主人公視点)
「わー! たくさんあるー!」
ファミレスで問題なく席を確保し、メニューをもらう。
奈津美はさっそくメニューを広げていた。大人でも迷うのだ。子供にしたら究極の選択に等しいだろう。
とりあえずドリンクバーを注文して二人分の飲み物を取ってきた。
奈津美はまだ迷ってるようなので俺も探すフリをする。時間がかかっても精々10分足らずだろう。慌てることはない。
「お兄ちゃん、コレ!」
「……キッズプレート? ああ、お子様ランチみたいなヤツか。ランチじゃないから呼び方が変わったんだな。最近多いよな、そういうパターン。いいんじゃないか? 色々食べられて」
「ねー? ねこちゃんもついてるって!」
どうやらオマケのマスコットに惹かれたらしい。子供らしくていいことだ。俺のときはどうだっけか?
……完全記憶術によると、ませてるっていうか、遠慮しいなガキだったらしい。可愛げはないな……
そこへいくと奈津美は母親似だ。爺ちゃん、婆ちゃんも、歳相応の孫娘だからか俺のときより可愛がってるらしいし、変な男に捕まらないように監視を強めるか……
いかんな。思考があさってへ向かってしまった。
注文もしたし、話題を変えよう。
「なあ、奈津美、さっきも聞いたが学校は楽しいか?」
「うん、たのしいよ」
「そうか、じゃあ、引越しして友達とさよならするのは嫌だよな?」
「え? ひっこし? お兄ちゃん、どっか行っちゃうの?」
「いや? 奈津美と一緒にだぞ? 実は今度新しい仕事をするかもしれなくてな。遠くになるかもしれない。でも、もし奈津美が嫌なら、引越ししないようにがんばってみるがな」
「んー……」
「お、料理が来たぞ? 考えるのは後にしような」
「うん……」
しまったな。食事の前にする話じゃなかったか。だが、いつかは話し合わなければならなかった。突然引越しと転校の話をされるより前以って心の準備があったほうがいいはずだ。俺も小さい頃転々と住むところを変えられた。奈津美だって今のアパートに落ち着くまでは母の実家やら叔母の家などたらい回しにされたんだ。そろそろ自分の意見を出せる場を作ってやるべきだ。
「奈津美の、美味そうだな」
「うん! 美味しいよ! お兄ちゃんのは?」
「美味いぞ。家じゃ作れないからな」
少し悩んでいた奈津美だったが、流石はキッズ。美味しいご飯であっという間にご機嫌だ。
俺も、体感で35、6年ぶりの揚げ物を懐かしく食べた。異世界では、テンプレのように食文化は発達してなかったからな。たぶん俺以外の転生者がいなかったんだろう。俺も言われるがままの戦闘マシーンだったしな。
「美味かったな。また来れるといいな」
「うん!」
ファミレスでの食事を終え、帰路につく。途中コンビニによって明日の朝食と、約束のホットケーキの材料を購入する。
そしてアパートまでの帰り道、俺は再び引越しの話題を振った。
「なあ、奈津美、引越しの件だけどな」
「え? うん……」
「転校しても今のお友達とは手紙の遣り取りをすればいい。それに、転校先で新しいお友達がたくさんできるぞ?」
環境が変わることに期待と不安を感じるのは子供も大人も同じである。そしてその不安にブーストをかけるのが今までの環境に対する未練だ。
俺は異世界という全く別の環境に放り込まれて、前世への、妹を一人残してきたという未練が肥大化してしまったため、いわば生きた亡霊のような人生を送ってしまった。
期待と不安が半々なら流れに身を任せるしかない。期待が不安を上回れば人生バラ色だ。だが、不安が未練で増幅され期待を押し潰してしまえば、かつての俺のように夢も希望も抱かなくなってしまうだろう。
奈津美の場合はどうだろうか?
魔法で意識を誘導するような真似はしたくないが、実は、問題ないんじゃないかと思っている。
今日一日だけだが、分霊2号で奈津美の学校での様子を見守った結果、何となくクラスに溶け込めていないような気がしたのだ。
ちなみに今は6月で、クラス替えがあったとしても既に仲良しグループが形になっていてもおかしくない時期である。奈津美は母親似の持ち前の明るさでクラスメイトと話したり給食を食べていたりはしていたが、不自然に話が途切れたりする。たぶん保護者の間で奈津美は『家庭環境に問題有り』と周知されていて子供たちも何か感じているのだろう。
顕著だったのは放課後になってからだ。他の子供たちは遊びの話をしているところに、奈津美は『お留守番があるから』と一人で先に帰ってしまったのだ。おそらく今日一日だけのことではなく毎日の行動だと思われる。
俺は、胸が痛くなった。
すまん。兄である俺が至らないばかりに。
過ぎたことは、いくら俺が神になったところで覆せない。だが、妹は死んでいないし、三上静也の死も回避できた。これから挽回すればいい。そのための転職、引越しと転校だ。
「んー……お兄ちゃん。新しい会社でも、また夜遅くなる? もっと忙しくなるの?」
「うっ……」
奈津美が不安だったのはコッチだったか!?
重ねてすまん。『妹は俺が育てる!』なんて啖呵切っておきながら、なんて体たらくだ!
「そんなことないぞ! 毎日早く帰ってこれて、土日も休みの仕事を探すんだからな」
「ホント!? 毎日一緒にご飯食べれる? 一緒にお休みできるの?」
「お兄ちゃんはウソつかないぞ? 絶対そういう仕事見つけるからな」
「わーい! やったー!」
うれしさのあまりピョンピョン飛び跳ねる奈津美。
俺はこの喜ぶ妹を失望させないために絶対ホワイトな転職を成し遂げて見せよう。例え神の力でズルしたとしてもだ!
その後アパートに帰り着き、興奮冷めやらぬ奈津美にせかされてホットケーキを作った。夜も遅いので一枚だけではあるが。
そして奈津美にとっては10日ほどぶりの兄と一緒の就寝である。
「お兄ちゃん、おやすみなさーい。エヘヘへ」
「ああ、お休み、奈津美。ちゃんと寝るんだぞ?」
「まだ眠くないもーん。キャハハハ」
俺たちは布団の中でじゃれあった。奈津美が眠くなるまで。
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