第18話 拠点をつくろう! 2
(主人公視点)
『支払いに関しては納得したな? では我の欲する土地についてだ。とりあえず2箇所要求する。一つは都内、或いはここからの交通の便がよい近郊の土地だ。これは首相と我の望みが一致した形だな。日参の必要はないが、いざ我に連絡したい場合遠すぎても不便だろう。ここまではよいか?』
俺はようやく土地に関して話をすることができた。まるで不動産屋だな。
「あのう、広さはどれぐらいお求めで?」
『広ければ広いほどよい』
「東京ではそんなよい条件ではなかなか……地価もかなりしますし……まさか無理矢理買い上げるわけにも……」
『わかっておる。無辜の民を苦しめるつもりはない。よい条件と言ったが、広くても誰もほしがらない、いわくつきの物件があろう? 廃病院やら廃校やら廃工場やら売るに売れない、持て余している土地がな』
「それでしたら、見つかるかもしれませんが、問題ないのでしょうか?」
『我は神ぞ? どんないわくか知らんが、神気で上書きすれば気にもならん。ああ、その土地の名義は国でかまわん。我が勝手に住みついた形だな。税やら何やらの手続きで我を煩わせなければそれでよい』
「わ、わかりました。こちらで処理させていただきます」
『うむ。では二つ目だが、こちらは全国のどこでもよい。廃村がいくつかあるだろう? そこに廃神社があれば村ごと手に入れてくれ』
「神社ですか? 系統はご希望がお有りですか?」
『そちらも気にしない。復元して建物だけ使う。我は神だからな。住むなら神社であろう?』
「「「「あー、なるほど……」」」」
皆納得したみたいだけど、俺は冗談半分、ロマン半分のつもりだったんだが。
『とりあえず我の要望は伝えた。そなたらの働きを期待する。ところで首相よ』
「は、はい」
『拠点が手に入るまでは分霊を憑けておくことになるが、解放されたければなるべく早く土地を手に入れることだな。まあ、解放したかしていないかはそなたが我の言葉を信じるかどうかでしかないがな』
「い、今は信じております。我が国は八百万の神がおわしますからな。それが800万飛んで一柱になったと考えればおかしなことではないと気付いた次第でございます。皆さんも難しく考えることはありません。断りにくい相手からちょっとした頼まれごとをされただけです。負担といえば予定が狂ったことくらいです。致命的な損害が出たわけでもないどころかかなりの利益があったんですよ?」
「「「そういわれれば……」」」
首相は開き直ったのか、急に好意的になったな。
大臣たちもテーブルの上の砂金の山に目が釘付けだ。
『フフフ。正に現金だな。よかろう。その殊勝さに免じて分霊は外してこの部屋に残しておこう。人の目には映らないゆえ、我に用があるときはそなたらの誰かがここに来て呼ぶがいい』
「あああ、ありがとうございます!」
砂金と現金、首相と殊勝。ダジャレに気付かないほど歓ばれてしまった。やっぱりプライベートって大事なんだな。
「さあ! みなさん! カムイ様のご要望に答えるべく、仕事を割り振りましょう! まずは官房長官! あなたにはこの部屋の管理を任せます。次の事務次官たちの顔合わせまで決して誰も立ち入らせないように!」
「はい、お任せください」
「この部屋での治療に関しては事が事だけに慎重を期す必要があります。事務次官の顔合わせの後、じっくり相談しましょう」
「「「「はい!」」」」
「次は都内の土地ですが、手続きは次官たちの顔合わせの後でいいとして候補を探すくらいは我々にもできるでしょう。内務省と経産省でしてもらえますか?」
「「はい。わかりました」」
「廃村と廃神社は、地方にツテのありそうな、国交省と環境省、農林水産省で大丈夫でしょうか?」
「まあ、方々に聞いてみるだけなら……」
「「まあ、そうですね」」
「あとは砂金の査定と換金ですが、官房長と財務省でしょうか? 機密費ということで何とかなりませんか?」
「事務次官にも今日の話が信じてもらえたら問題ないでしょうな」
「そうですね。事務次官たちもカムイ様の洗礼を受ければ否が応でも認めるでしょう」
「そうですか。それはよかった。今呼ばれなかった大臣たちもフォローをよろしくお願いします。カムイ様、これでよろしいでしょうか?」
おうふ。首相がやる気を出したらとんでもなかった。大臣たちも息が合ってる。これ、各省庁が連携したら何でもできるんじゃないか? どうして今までその力を発揮しなかったんだ? それとも、発揮してなお今の日本の状況なのか? それほど政治とは難しいのか?
『う、うむ。天晴れな采配である。これなら遠からず我が拠点を得られよう。褒めて遣わす』
「ははーっ。ありがたき幸せ」
『では今日はここまでとしよう。皆の働きに期待する』
何かどんどんキャラが時代劇っぽくなっていくな。疲れたから愛する妹のところに帰ろう。
「……消えた?」
「変身ではなさそうだな。煙がないし」
「瞬間移動というヤツかもしれん」
「あの、皆さんはあの人が神だって信じてるんですか?」
「また答えにくいことを……」
「信じなくても逆らうなってことだろう、要は」
「矛盾してないか?」
「しててもかまわんのだろう。結果を出せば」
「そうだな。砂金は置いたままだから夢や幻ではなさそうだ。誰か、触ってみてくれ。ネコババするなよ」
「そんな恐いことできるわけない。あ、触れる。本物の金かどうかはわからんが、少なくても幻じゃないな」
「それにしても、総理、あの『ははーっ』って、まるっきり時代劇じゃないですか。最後のほうは結構ノリノリだったんじゃないですか?」
「ははは、吹っ切れたら楽になったんだよ。陛下も物腰の柔らかいお方だからあんなふうに接することはありえないけど、大昔の上下の関係はあんなものじゃないかねえ」
「でもそれってキャラ作ってますよね?」
「え?」
「いや、だって、クマの中の人と同じだったらどっちかがキャラ作ってるってことじゃないですか? あるいはどっちもキャラかも」
「そういえばクマだったな。いろいろ有りすぎて忘れていた」
「本当はどんな人なんでしょうね?」
「お、おい、詮索は……」
『おい、本体は出て行ったが、分霊がここにいるのを忘れたのか。そういう話はよそでやれ』
「「「「「「すみませんでしたーっ!」」」」」」
大臣たちは逃げるように会議室を出て行った。
やれやれだぜぇ……
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