第17話 拠点をつくろう!



(主人公視点)


『まずはこれを渡しておこう』


 俺はテーブルの上に手のひらを翳した。そして勇者特典のおかげで生まれつき持っていて、神になって更にパワーアップした『アイテムボックス』からとあるモノを取り出した。


 粒上のソレはまるで手のひらから湧き出るようにテーブルの上に落ち、ザラザラと音を立てる。高さが20センチほどの小山になったところで放出を止めた。


「ま、まさか、砂金!?」「一体どこから!?」「本物か!?」


 そう、俺が出したのは砂金だ。キラキラとした輝きは正に金色。

 もちろん、俺を胡散臭い詐欺師と看做している人間は疑ってかかるようだが、こっちは調べれば簡単に証明できるので発言はスルーしてやる。話が進まないからね。


『先ほどの飴は顔合わせの挨拶や褒美だ。これは単純に土地の代金やら面倒な手続きの費用だ。我は気まぐれで自分勝手な神だが、吝嗇ではない。そなたらに無理難題は言わんぞ?』


 そう、俺は能力上不可能なことを命令しているわけじゃない。今ぶつかっているのは上下関係の構築だ。例えて言えば、大会社の社長にトイレ掃除をさせるようなものだ。能力的にできないはずがない。だが社長にしてみれば『こんなのワシの仕事ではない!』と反抗するだろう。だが、会社を乗っ取って社長を平社員に降格させてトイレ掃除当番に任命したら、どう反応するだろうか? 過去の栄光が忘れられず反抗するか、諦めて平社員の仕事を全うするか、要はプライドの問題だ。


 今いる閣僚たちは、首相はすでに心が折れているようだが、まだまだ格下の実感がないようだ。

 俺としては面従腹背でも俺の要求を通してくれればそれでいいんだが……


「こ、これは本物ですか? 一体どこで手に入れたのですか? まさか勝手に国内の金山から……」


 大臣の中で一番反応が大きいのは、大蔵省、いや、今は財務省だったか、そこの大臣だった。どうやら盗掘を疑われているらしい。それとも新しい金山の情報がほしいのかな?


『残念だが金山ではないな。これは海水から取り出したものだ』


「海水ですと!? 確かに理論的には証明されていますが、こんなに大量に……」


 俺が答えると次に食いついてきたのは文部科学大臣だった。皆さん自分の専門に精力的ですな。大臣ってそうなんだっけ? 議員から選ばれるんだよな?


 そう。三度目のそう。俺は異世界で勇者なんてやってたけど、実は財産はほとんどない。国や教会に管理されてたからね。向こうから持ってきた物は、武具色々と野営道具、携帯食料ぐらいだ。魔王の城の財宝? ちょっとジャンルが違ったんだ。あの世界の魔王は魔物の親玉で知性はあるけどほぼ野生。人間から奪った武器とかは集めてたようだけどお金とか宝石には興味がなかったらしく、倉庫の武器を回収したくらいだ。まあ、あとはその魔物の素材やお馴染みの魔石は山ほどあるが、地球じゃ換金できないだろうな。

 それで考えたのが地球での錬金術。大臣が指摘したように金山を探してもいいけど海水なら探す手間が省けるというものだ。含有率何パーセントかは詳しくは知らんが、神力でゴリ押しすれば会議前の空き時間でこれだけの金が採集できた。もちろん砂金状にしたのも錬金魔法だ。微粒子のままじゃ吹けば飛ぶからね。延べ棒? そっちがいいなら目の前で錬金術を使って形状変化させるだけだ。それもまたパフォーマンスになっていいかも。


『神にとっては造作もないことよ。そもそも金の出自など詮索してどうしようというのだ? 我に人間の法を当て嵌めるでない。不愉快だ。その煩わしさを避けるための顔合わせだとまだわからんのか? 些事はそなたらが処理せよ』


「「「「ひっ……」」」」


 つい殺気を放ってしまったぜ。俺も精進が足らんな。


「ま、まあまあ、皆さん、先ほども言ったではないですか。今は受け入れるのです」


 首相が真っ先に立ち直って大臣たちをフォローしている。何だか首相というよりも宗教家に見えてくる。まあ、俺は神だから強ち間違いじゃないがな。


『ふむ。ここは首相に免じて許してやろう。我への不信はわかるが、頑固や意固地は美徳ではないぞ。それで成功する者はよほどの幸運の持ち主だけだ。ハッキリ言っておこう。我が求めるのは敬虔な信者などではない。腹に一物、面従腹背の輩でもかわまん。我の頼みを黙ってこなす者だ』


「わ、わかりました。皆もいずれ納得するでしょう。寛大なお心で長い目で見てやってください」


『よかろう。こちらも強引なのはわかっている。人の子との付き合いは加減が難しくていかんな』


「それで、神様……えー、何とお呼びしたら……」


 おや? 俺の黒歴史が……ついさっきのことだけど。


『ショックで忘れたか。まあ、仕方がない。神と同義だがゴロがよいのでな、今後はカムイと名乗るつもりだ。カムイ様と呼ぶことを許そう』


「も、申し訳ありませんでした。これからはカムイ様と呼ばせていただきます。つきましてはカムイ様。そちらの砂金ですが、品質検査に回してもよろしいでしょうか? いえ、決してカムイ様を疑っているわけではなく、換金するにはどうしても必要なことでして、はい」


『代金として渡したものだ。好きにするがよい。そうだな、もう少しそなたらの得になる話をしてやろう。海水に溶けているのは金だけではない。この国ではレアメタルが不足していたな。サンプルを持ってくれば次からはレアメタルで支払ってやることもできるぞ?』


「「「「それは本当ですか!?」」」」


 経済産業大臣をはじめ、何人かの大臣が食いついた。そりゃ外国に握られていたらね?


 やはり飴は本人がほしがってるモノだと効果抜群だな。

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