第16話 マウントを取ろう! 3
(主人公視点)
「わ、私がいる!?」「座ってた方が本物だとは思うが、区別できん」
俺が首相の姿に化けると大臣たちは騒ぎ始めた。
光魔法でも似たような幻影を作り出すことはできるが、神力は破格だ。たぶんがんばれば指紋や遺伝子までコピーできるんじゃないかね。
『どうだ? これなら街中にいても騒ぎにはならんだろう?』
声紋もコピーできるが、あえて龍と同じにしてやった。少しは安心できるだろう。
「わ、私の姿で出歩かれると困るのですが……」
『一例に過ぎん。東京に我の拠点を置くことはそなたらにとっても便利だろう? それとも一生我の分霊を側に置いておきたいのか?』
「そ、それも困ります!」
「分霊?」
『ああ、それはこういうことだ』
大臣の一人が気になったようなので、分霊3号を可視化させる。
「ひ、火の玉!?」「ヒトダマ!?」
『それも間違いではないが、分霊だ。目には映らんが我とは繋がっておる。我そのものと同じ存在だ』
「総理はずっと見張られて……」
「遺憾ながらそうなんだ。だから指示には逆らえず、こうして皆を集めさせられてしまった……」
「何ということだ。総理は公人だが、機密も何もあったものではない!」
「佐々木君、やめたまえ」
「総理!? ですが」
飴だけでなく鞭も与えたつもりだったが、まだ力関係を理解していない者がいるようだ。
また殺気でも放ってやろうと考えたが、首相がその大臣を諌めたので、少し様子を見ることにしよう。
「気持ちはうれしいが、堪えてくれたまえ。我々では太刀打ちできない。この方が本当に神かどうかはわからない。だが、この場で起こったことが幻だとしても我々には理解できない力を持っているのは確かだ。暗殺でも情報でも、我々の負けなんだ」
「そんなテロに屈するようなマネは! 何か対策を講じれば……」
「テロか。実は私も昨夜そう宣言したんだ。見事論破されたがね」
「……」
「見たまえ。あの私の姿で不祥事を起こされたらどうなると思う? 政治生命どころか私は社会的に死んでしまうだろう。内閣を解散して逃げ出すこともできないというわけだ」
首相の説明を聞いてその大臣だけでなく皆が顔を青褪めさせた。
俺はイタズラ半分で首相の姿に変身しただけなんだが。そんな悪どいことはこれっぽっちも考えていなかったんだがなあ……
でも、これもチャンスだ。首相の顔でニヤリと笑ってやろう。
おお、皆恐がってる。龍よりも首相の顔が恐いのか?
『首相よ、説明ご苦労。皆のもの、聞いたとおりだ。客観的にそなたらの気持ちは理解できる。ぽっと出の人間にいきなり下につけと言われても反抗したくなる気持ちはな。だが、我は人間ではない。遥かに格上の存在だ。それを無視すると身を滅ぼすぞ』
とは言ったものの、やはり『神』という存在は信じられないようだ。
その雰囲気を察した首相が更に大臣たちを説得しようとする。
「皆さん、こう考えましょう。韓信の股潜りや臥薪嘗胆の故事は知っているでしょう? 屈するのは一時的なことです。幸いあの方の要求は国民を皆殺しにするなど非道なものではありません。このまま伏して時期を待つのです」
「そ、総理、時期とは?」
「あの方が本当に神なのか、それとも只の人間なのか、それがわかるまでです。もし人間だったとしたら対策を取ればいいのです。その対策のためにも我々にも時間が必要でしょう。そして、もし神だと納得できたら……その時は五体投地で今までの無礼を謝りましょう。そして感謝すればいいのです。何しろ本当の神国日本になるのですから」
「「「「なるほど……」」」」
おー。首相はようやく俺の言いたいことがわかってくれたようだな。そうなんだよ。俺は別に神として崇めてほしいわけじゃないんだよ。フリでもいいから便利にコネを使わせてくれればそれでいいんだよ。
『フフフ。首相よ、再度ご苦労だった。一皮剥けたようだな』
「いえ。政治家の保身ですな。話が大きすぎて取り乱しましたが、機密情報を握られていると考えたら反抗する気が失せました。すると不思議と気持ちが楽になりましたよ。長いものには巻かれよ、とはよくいったもので」
『フハハハ。長いものとは龍の姿にかけたのか。見事だ。その方らも首相を見習うがいい。これこそ清濁併せ呑むの鏡だ。褒めて遣わすぞ』
「ははーっ。いや、これでは時代劇ではないですか……私の顔で止めてください」
『む。そうだな。ではこれでどうだ』
三度の変化。『へんか』ではなく『へんげ』だ。
煙の中から現れたのは、異世界人。つまり勇者時代の俺本人だ。どうせ日本ではこの顔を知っている人間はいないし、金髪で彫りも深いから日本人にも見えないということで神の正体として使うことにした。格好は平安貴族のような衣装。束帯に冠という、わかりやすく言うとお雛様のお内裏様だ。ただし白を基調として神主っぽさも強調している。斎服ともいうらしいがよくは知らん。手には聖徳太子が持っているような笏ではなく、何となく扇子にした。
こういう場面では烏帽子と狩衣が定番だが、敢えて外した。狩衣はその字の通りハンティングのためのスポーティーな服だ。相手は国のトップたち、ビシッと正装でハッタリをかましてやる。冠だって後ろの尻尾を気持ち長めにして特別感を出してるぞ。
極めつけは、勇者時代の顔といったが、目だけは変えた。瞳孔が龍の、爬虫類のように縦に裂けていて、金色に輝いている。これで人外感が出ただろう。
「それが本当のお姿で?」
『その一つに過ぎんがな。姿などどうでもよい。話を進めるぞ』
ここでようやく俺は大臣たちとともに席に座った。今まではパフォーマンスのため立ったままだったからな。
ま、神の身体は疲れないけどね。一人たったままじゃ落ち着かないし。
さあ、土地をもらうぞ!
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