第15話 マウントを取ろう! 2
(主人公視点)
『さて、少しは落ち着いたな。では早速話し合いとまいろうか。今日ここにそなたらを呼んだのは他でもない、顔つなぎのためだ』
「顔つなぎ?」
大臣の一人が訝しげに呟く。
いや、大臣ではなく官房長官だな。俺の登場前も冷静に首相を庇っていた男だ。
『うむ。まずはそなたら国の代表といえる者共に我のような人智を超えた存在が実在するということを知らしめるのが眼目だな。宗教として祀り上げよとは言わん。そんな面倒、こちらから願い下げだ』
「いまだに自分の目が信じられませんが……」
『信じずとも、そなたの心に畏れが一片でもあればそれでかまわん。そうだ、首相よ』
「は、はい」
『次は役人のトップ、事務次官だったか? そやつらとも顔合わせしておこう。そなたらも下の者に指示しやすくなるであろう? 近日中に手配しておけ。ああ、今度は明日などとは言わんよ」
「わ、わかりました。近日中ですな」
『うむ。そのとき他にも我に引き合わせておいたほうが便利そうな者を呼んでもよいぞ。ただし、日本人以外と報道関係者は許さん』
「わ、わかりました。留意いたします」
『ところで、この国にはまだ陰陽寮が存在しているのか?』
「「「「陰陽寮?」」」」
「えー、それにつきましては、何と答えたらいいものやら……」
呪いの件もあったので、軽い気持ちで訪ねたら、大臣たちの反応が二つに分かれた。
というより、首相と官房長官の二人を除いて各大臣たちは不思議そうな、或いは、あるわけがないという表情だった。
これは……
『わかった。後日に改めよう。そうだな、そなたらが我の威光に打たれ無闇に騒がなかったことへの褒美として、もう一つ二つ飴を与えてやろう』
「随分ハッキリ仰いますな……」
『我は政治屋などではないからな。我とそなたらは対等ではないが、満足のいく働きを求めるなら見返りが必要だろう。効率を求めれば悪くはない。だが、与えられることを当然と思うでないぞ?』
「は、はい。それは勿論……」
『うむ。それで、飴に関してだが、国防の手助けをしてやろう』
「「「「国防!?」」」」
強く反応したのは4人。首相と官房長官はさもありなんだが、他は外務大臣と防衛大臣か。
『あくまでも手助けだ。我がいれば本土上陸のような最悪の負け戦にはならないのは当然だが、諸外国に我の存在をアピールするつもりはないぞ? そんな気があったらこの姿を100倍大きくして北から南まで飛び回っていたわ。そなたらも無闇に吹聴するでないぞ?』
「「「「「「決してしません!」」」」」
ちょっと威圧したら皆さん素直に了解してくれた。やはり鞭も必要だな。
『うむ。それで国防だが、この国は海に囲まれている。巡視船が何隻あっても隙だらけだ。その隙を少しは埋めてやろうというのだ。甘やかす気はないからな。時折散歩のついでに見回ってやろう。そなたらは巡視船が何隻か増えたと思えばいい』
「……もしそれで密入国者が少しでも減れば確かに助かります」
『まあ、焼け石に水だろうがな。あとは人間たちの手で何とかするがよい』
「はい。精進いたします」
『うむ。その素直さに免じて、もう一つ褒美をやろう。といっても先ほどそなたらにかけた術だが、この部屋にはそのときの神気がまだ残っている。それをこのままにしておいてやろう。どこぞの温泉の効能と同じで万病に効く。その効果はそなたらが体感したように比べ物にならんだろう。病状によって必要な時間は変わるがな』
「ちょっと待ってください! ということは、この部屋に入るだけでどんな病気も治るということですか!? 大問題ですよ!」
興奮しているのは、なるほど、厚生労働省の大臣か。医学界とか製薬業とか幅を利かせてるんだろうな。宗教界と並んで人間社会の闇だ。必要悪というヤツか。
『神の業だ。体感したであろう? 問題になるかならないかはそなたら次第だ。金儲けに利用しようとするでないぞ? 恩を売る人間の人選に気をつけよ。これも日本人以外と報道関係者への情報漏洩は厳禁だ』
「くっ……わ、わかりました……」
「佐川君、仕方のないことだ。そういうものとして受け止めるしかない」
「総理……」
文字通り一日の長がある首相は、納得の行かない表情の厚労大臣を宥める。老年二人の絡みなんて誰得? 枯れ専か?
『さて、どうやら我の提示した飴に満足してくれたようだな。顔合わせの目的は達成されたといっていい。では、ここからは我の頼みを聞いてもらおうか』
「え!? お、お言葉ですが、今日は顔合わせだけでは……」
『案ずるな。我は政治に首を突っ込むつもりはない。首相よ、半ばそなたの要請も含んでおるのだ』
「わ、私のですか?」
出席者の視線が首相に集まる。皆、何を余計なこと言ったんだ、という顔つきだ。
『うむ。昨夜そなたは我の連絡先が知りたいと申したな。その件についてだ』
「ああ、確かにお聞きしました」
首相はホッとしながら認める。大臣たちもなるほどという表情だ。
『連絡先といっても、我は雲の上でも海の底でも宇宙でですら住むことができる。だが、そなたら、そこまで来られるのか?』
「いえ、難しいと言わざるを得ません」
『そういうわけで、東京近郊に土地がほしい』
「「「「土地!?」」」
「と、土地ですか……まさか街中に住むおつもりで?」
「無理だ! パニックが起きる!」
『そなたら、この姿は本性の一つと言ったことをもう忘れたのか? クマにも変じることができるのだぞ?』
「「「「「「ああ、そういえば……」」」」」
『では、人化の術を見せてやろう』
俺は再び煙幕とともに変身した。
ドラゴンサイズの煙幕は思ったより多かったようだ。大臣たちの視界はしばらく煙に覆われた。
その煙が晴れると、現れたのは……
「総理?」「藤堂さん? 二人いる!?」
内閣総理大臣が二人に増えていた。
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