第14話 マウントを取ろう!
(首相視点)
「ん? 総理、後ろがどうかしましたか?」
「い、いや、何かチラチラしたものが見えてな。キミは何か見えないかね?」
「……いえ、特に変わったことは……」
「そ、そうか、老眼が進んだのかもしれん、いや、まいったな、ははは……」
くっ、本当に私にしか見えんのか、このヒトダマは。秘書と情報共有したいところだが……
『まずは閣僚からだ。一々説明していたら時間の浪費だ』
くっ、心まで読めるというのか!? 秘書も反応しない!? 私にだけ聞こえるとでもいうのか!? 幻聴ではないだろうな?
『神を舐めるなと言ったはずだ。そなたこそ首相なのだから有無を言わさず部下を集めるがいい』
わ、わかりました。最善をつくします。総理といってもそこまで力はないのだがなあ……
「あー、頼んでいた閣僚たちのスケジュールは? 緊急で会議を開く必要がある。午前は流石に間に合わんだろうが、午後に集まれるように調整してくれたまえ」
「きゅ、急ですね」
「それだけ重要な件だ。難色を示したら『内閣総理大臣の命令だ』といってやれ。疑問やクレームは会議で聞く。とにかく時間が大事なんだ」
「わ、わかりました。手配します」
ふう……これでいいだろう。私も2、3予定をキャンセルする必要がある。相手への謝罪の連絡と次回の予定を決めなくては……権力者といっても自由な時間もないとは、とほほ……
(主人公視点)
分霊3号に首相の尻を叩かせ、半日で会議の準備が整った。
首相官邸の会議室に集められた閣僚たちは皆不満そうだ。そりゃそうだ。この人たちもトップ層の一人一人だ。自分が部下に無茶を言うことはあっても、その逆の経験は、今の立場になってからは皆無だろうしな。
お、首相が説明を求められてる。インパクトが大事だからな。時間まで待たせよう。
・・・よし、時間だ!
『がおー!』
某有名クマのぬいぐるみ姿で実体化する。光にだってなれるんだから神力ってホント出鱈目だよな。
リアルクマをチョイスしなかったのはパニックにならないようにだ。ただ、着ぐるみが真面目な会議の場に現れたものだから怒り出す人が結構いる。まあ、忙しいのに呼びつけられて、何の説明もされずにコレなんだから気持ちはわかる。
じゃあ何でそんなマネするのかって? 俺は神サマなんだから文句があるのかっていう理不尽さを、武力の誇示とは違う方向でアプローチしてみました。これもいわゆるひとつのマウンティングですな。いつまでも人間目線、人間の常識で神を語られても困るからな。ビシッとガツンと躾けてやる。
お、クマのことは教えてなかったが、首相はクマのこと神って認めたぞ。調教の成果が出てるな。歯切れが悪いのは長年の政治家家業の後遺症だということにしておいてやろう。
当然各大臣たちは信じない。首相が吊るし上げられる前に助けてやろう。魔法で声を出せなくしてから着席、はい、こっち向いて。校長先生ネタはウケなかった。それどころじゃないのは無視だ。
ここで豆知識導入。クマ→カムイ→カミ=神という流れだ。同時に自己紹介(本名とは言っていない)、これからは『カムイ様』と呼ばせよう。まあ、気まぐれで変えるかもしれないが。
何故こんなネタを挟んだのか。それはクマ=恐いもの=神という図式が古来あったからだ。人間たちには是非とも神を恐がってほしい。
だが、いっぱいいっぱいの大臣さんたちは俺のメッセージが理解できていないようだ。ネタに走ったのは失敗だったか。
しょうがない、光の神の姿で改めて宣言しよう。ピカー。
『あたしゃ、神サマだよ! あんだってぇ? という返しは要りません』
しまった! またネタに走ってしまった。しかも昨日決めたキャラを間違えてしまった。永久封印で証拠隠滅だ。以降は真面目に、神サマっぽい方向で対応しよう。
『冗談も通じないとは閣僚のくせになっちゃいないな。じゃ、これでどうだ?』
光の神の姿が煙とともに消える。勿論煙は演出。無害だ。
そして現れたのは蛇形の東洋龍。たぶん30メートルくらいあるんじゃないかな?
首相官邸内で一番目立たない部屋をチョイスしたらしいけど、充分な大きさだ。それに傍聴人などがいないため中央のテーブルを除いて目一杯使用できる。
テーブルの周りをぐるっと一周して鎌首を持ち上げて大臣たち一人一人を睥睨する。
あ、まだ声を出せないままだった。
大臣たちは逃げるどころか顔をそらすことすらできない。目を見開いて驚いている。
うんうん、こうでなくっちゃ。
そして俺は、龍らしい(?)厳かな低い声で語りかけるのだ。
『人の子よ。これが我が本性の一つだ(ウソ)。ゆめゆめ侮るではないぞ』
皆さん脂汗が酷いよ? 年嵩の人が多いからね、不摂生してる人もいるようだし、ショックでポックリ逝かないといいんだけど。しょうがない。力のアピールついでに治療してやるか。飴ちゃんお食べ? みたいな?
あ、そろそろ声出せるようにしてやらないと。オン・ステージじゃなくて話し合いだからね。
『ふむ、人の子の寿命は短いが、既にガタが来ているな。どれ、我が治してやろう。戒めも解くが、実感しても騒ぐでないぞ? <$%trffgn*ik>』
呪文は異世界語です。ただのパフォーマンスです。
「う、動ける……なんだ? 本当に身体が軽い?」「わ、私もだ。慢性の肩こりがウソみたいになくなってる」「私も偏頭痛が消えたようだ」「私も……」
「み、皆さん、騒いではなりませんよ」
「「「「「「はっ!?」」」」」
人間、ショッキングな出来事が連続すると、直前のことしか考えられなくなるらしい。ドラゴンに包囲されていることは視覚から外れてしまったようだ。
治癒魔法経験者の首相が大臣たちに騒がないように注意してようやく思い出したらしい。
『よいよい。挨拶代わりだ。これで心置きなく頼みごとができるというものだ』
「「「「「…………」」」」」
治癒魔法の代金、いくらになるかな?
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