前のエピソード――第12話　とあるエピローグ。か～ら～のプロローグおまけ

（主人公視点）

『おはよう。身体の調子はいいようだな。早速閣僚を集めるのだ』

　俺は分霊３号を通じて起きたばかりの総理大臣に挨拶をした。

　ふむ。やはり神力での治療は効果があったようだな。蓄積されていた疲労をはじめとする身体の悪い部分がすっかりなくなっている。これなら俺のために馬車馬のように働いてくれるだろう。

　何だ、その絶望したような顔は。

　俺は総理の尻を叩いて行動に移させた。

　総理は渋面になりながらも指示に従ってくれた。まあ、まだ朝も早いからな。しばらくは様子見でいいだろう。

「ただいまー。奈津美ー、起きてるかー？　朝だぞー」

　おっと、アパートの方に分霊１号が帰ってきたようだ。

「う～～ん……お兄ちゃん……」

「奈津美、起きろ。朝だぞ」

「……お兄ちゃんだ。おやすみなさい……」

「こらこら。朝はおはようだろう。起きろったら」

　俺、勇者こと三上静也にとっては今日という日は本来失われていたもので、妹と再会できた特別な日だ。だが、妹の奈津美にとっては毎日繰返される日常でしかない。

　だがら俺は不自然にならないように、生前の記憶を頼りに、いつものように振舞った。

　奈津美を起こして顔を洗わせ、その間に俺は朝食の準備をする。布団を押入れにしまってローテーブルを出す。この点が和室のいいところだ。プライバシーはないがな。

　メニューは、ご馳走などと暴走せず、いつも通りトーストと牛乳だ。

　うう……育ち盛りなのに、なんて寂しいメニューだ。勇者時代は味はともかく腹一杯食えたものだ。保存食は最悪だったがな。

「さあ、食べようか」

「うん、いただきます！　って、あれ？　お兄ちゃん、会社は？」

「行くともさ。ただ今日はちょっと遅くてもいいんだ。特別だな」

「ふ～ん？　特別なんだ？」

「そう！　そして、実は夜も特別早く帰れます！」

「ホントー？　いーっつも遅いのに～」

「ごめんごめん。でも本当だぞ。お兄ちゃんは遅くなって謝ることは多いけど、奈津美にウソはついたことないだろ？」

「ん～、そういえばそうかも」

「な？　だから今日は夜ご飯、どっかに食べに行こう」

「ホント！？　それホント？」

「だからホントだってば」

「やったー！」

　うう……たかが外食でこの歓びよう……妹よ、これからはもっと楽しいことたくさんさせてやるからな！

　その後二人一緒に家を出て、妹は小学校へ、俺は、建前上、会社へ向かった。

「お兄ちゃん！　約束だよ！」

　別れ際奈津美は飛び切りの笑顔で念押ししてきた。久しぶりのお出かけが楽しみでしょうがないらしい。

「おう。奈津美も転んでケガしないようにな」

「しないもん！　いってきまーす！」

　そう元気に挨拶し、奈津美は集団登校の集合場所へ走っていった。

　俺は俺で、三上静也のほうだが、やることが山のようにあるので、奈津美の護衛は昨夜から引き続き分霊２号が担当する。ストーカー？　過保護？　知らない子ですねえ。

　いや、冗談はともかく、今の俺は神なんだぞ？　つまり奈津美は神の妹になるわけだ。こんな重要人物、警護なしで一人にさせられるわけがない！

　それに、この世界で三上静也は一度死んでいる。俺が異世界に転生したのだからそれは間違いない。じゃあ、静也が死んだ後の世界はどうなっていたのか。当然前世の記憶にそれ以降はないし、俺は神としては新米も新米、時空がどうたらタイムパラドックスがどうたらは理解できていないので、未来のことはわからない。

　だから、今後奈津美が病気や事故、犯罪に巻き込まれる可能性はゼロではないのだ。現に三上静也は呪われていたではないか。一度死んだことで呪いは消えていたが、奈津美が次の標的になっているかもしれない。

　そんな可能性があるのなら、俺はお兄ちゃんとして持てる力を全て使って妹を守る！　そう、神の力を私的に使ってもだ！

　ただ、異世界の神々は事あるごとに『ルールが～』と口にして地上に手を出さなかった。干渉しすぎて邪神に落ちるのを恐れていた。

　俺ももしかしたら神力を私的に使いすぎて邪神に堕ちる可能性もあるが、妹の幸せファーストだ。せめて奈津美が社会人になるまでは邪神にならないようにその点は注意するつもりだ。そりゃそうだ。邪神になって妹と一緒にいられなくなったら本末転倒だからな。

　さて、妹を見送った俺はやるべきことをしよう。退職に向けての準備だ。

　勿論、神の力があれば金の心配はしなくともいいので、単純に辞表を叩きつけるだけでもいいが、そこはそれ、三上静也個人の権利を最大限利用し、もらえる物はもらっておくつもりだ。

　呪いの件？　優先度は低いな。前世の凡人静也ならともかく、今の俺に並の呪いが通用するワケがない。勇者時代も魔王の手下に即死の呪い攻撃してくるヤツもいて、パーティーが壊滅したこともあるが俺には通じなかった。その上神の力も手に入れたんだ。邪神クラスが暗躍してないかぎり受身に回っても十分対処可能だろう。奈津美にも分霊が憑いてるしな。

　そういうことで呪いの件は後回しにして、まずはプロである弁護士に相談し、何ができるか、どんな手続きが必要かレクチャーしてもらう。裁判となる可能性も視野に入れて行動する予定だ。コイツは忙しくなってきたぜ！

　あ、会社には、同僚と上司にメールで入院の手続きやら準備で今日は休むと連絡した。向こうからのメールや電話はスルーだ。電源切ってて気が付きませんでした！　

　あとは、ウチの会社の前社長に会いに行くつもりだ。

　本当にお世話になったからな。あの人がいなかったらどうなっていたか、今考えてもゾッとする。それくらい恩を感じているのだ。

　その恩を返せないまま退職することになる。しかも裁判で争う可能性を持ってだ。

　仁義を切っておこう。