第12話 とあるエピローグ。か~ら~のプロローグおまけ



(首相視点)


 私は日本国の内閣総理大臣を務めている。名は藤堂剛太郎だ。

 総理大臣といっても好き勝手に国を動かせるわけじゃない。連立政権の場合は特にだ。独裁できないようになっている民主主義も良し悪しだ。

 そんな私のところには連日全国各地から陳情が来る。私に言っても何も出来ないというのに。野党は野党でワケのわからない主張ばかりだ。あれこそ正に税金泥棒というものだ。


 そんな仕事をこなしては疲れて眠る毎日だったが、ある深夜私の部屋に来訪者があった。


 それは不思議な体験だった。

 初めは暗殺者か誘拐犯だと思ったものの、危害を加えられる様子はなかった。そして侵入者は声はすれど姿は見えない。

 私が誰何するとようやく姿を現してくれたが、その姿というのが、とても信じられないことなのだが、光そのものだった。人型はしていたが光としか表現できないナニカだったのだ。


 私は思わず『宇宙人か?』と聞いてしまったが、光るナニカの答は私の質問よりも荒唐無稽だった。光るナニカは自分のことを『神』だというのである。そういえば話し方もそれを意識していたのだろうか。

 だが、私は信じる気にはなれなかった。今は21世紀だぞ? 最近流行りの(?)超能力者とでも言われた方が遥かに納得がいくというものだ。

 私はバカバカしくなり、これは悪質な愉快犯だと思い込んで助けを求めた。だが、いくら叫んでも誰も駆けつけてこない。バカな、ここは日本で最も警戒の厳しい総理大臣公邸だぞ? しかも、電話は通じず、ドアも不思議な力でノブを触ることもできなかった。

 私は閉じ込められてしまったようだ。


 更に不思議なことが起こる。私の身体が宙に浮かび上がったではないか!? そのままソファーに座らせられる。見ると私の秘蔵のブランデーのビンもふわりと浮いて、栓が抜かれた。これは知っている。念力というヤツだ。やはり超能力者だったか。本当にそんな者がいるとは……ああっ、そんな適当に、マグカップにドバドバ注いだらダメだ! もったいない! コイツ、酒の飲み方も知らないのか? 一体何に驚けばいいかわからなくなってきた。


 どうやら気付け薬の代わりらしい。

 これは、自分は酒の価値など気にしないというアピールなのか? それとも本当に価値がわかってないのか? やはりわからん。

 だが、出された物は飲む。元々私の物だしな。


 この歳で一気はきつい。だが、確かに少し落ち着いた。

 落ち着いたところで改めて目の前の不思議な侵入者に問いかける。


 口の利き方に気をつけろと言われてしまった。何様のつもりだ! 私は総理大臣なんだぞ!? 

 そんな反論はできなかった。向こうの口調は静かなものだったが何ともいえない圧力がかかった気がしたのだ。冷や汗が流れる。今すぐ逃げたい気持ちになった。何だこれは!? これも超能力か? それとも宇宙人の秘密兵器か? 


 口の利き方なら直そうではないか。VIP対応すればいいのだろう? 慣れておるわ。

 マウント合戦は負けたものの、韓信の故事もある。話があるなら聞いてやろう。聞いたら解放してくれるんだろうな?


 話は中々進まなかった。どうやら私の状況把握度が足りないと思われているらしい。私が何十年政治家をやってると思ってるんだ!

 光のヒトは一貫して自分が神で人間ではないと主張する。しかし、呼び方が重要なのではなく、人間以上の存在であることが重要なのだと言われた。意味は理解する。東京大学出身だからな。

 だからといって信じるかどうかは別問題だ。

 私は思わずテロには屈しないと言ってしまった。そのことがお気に召さなかったようで、テロリストと一緒にするなと叱られた。ついでに2度目の圧力もかけられた。逃げたい。


 光のヒトの主張は理解した。小さいのはテロ、大きいのは戦争と呼ぶだけで本質は同じだという。正論だ。だから有利不利を判断して降伏するかしないか決めろと言っているのだろう? わかるとも。だが、相手が会って間もない、正体不明の存在なのだ! どうやって判断できるというのだ! 無茶振りにもほどがあるだろう!?


 それでも私が更に卑屈な態度になることによって話がやっと進んだ。

 だが、まだ本題には入れない。

 何と、今回は単なる顔つなぎのためにやってきたそうだ。そして、閣僚を集めろと要求された。確かに、国際常識でテロには屈しないとはあるが、話し合いまで拒否するのは悪手だ。こんな突撃方法は褒められたものじゃないが。


 その要求を呑むと、おかしなものを渡された。

 どう見てもヒトダマである。

 分霊? 呼び方に拘らなければ、謎原理でできたドローンだろう。通信もできるようだ。


 ここでやっと彼の恐ろしさに気付いた。数分前の自分を殴ってやりたい。


 この不思議なドローンがあればどんな情報でも盗み放題。何せ消えるのだからな。

 ようやくわかった。彼が神でも宇宙人でも、もしかしたら只の人間でも、情報戦ではとても敵わない。暗殺者としても超が付く。その上さらに不思議な超能力を持っている!? 私に何ができるというのだ!

 ああ、政府が隠してきたあれやこれが晒されてしまう! ネットが炎上どころではない。クーデター確実だ! そんな隙を見せたら半島が、大陸が攻めてくる!? 終わりだ……


 その心配は神として否定された。こ、これは信じるべきか? 信じる者は本当に救われるのか?


 混乱している私は、何故か突然ベッドに寝かされた。

 魔法とか言っていたが急にね、眠い……





「はっ……ここは……いつもの部屋だな……うん? 身体が軽い? よく寝た気がするし、アレは悪い夢だったのか……」


『おはよう。身体の調子はいいようだな。早速閣僚を集めるのだ』


 朝からヒトダマというありえない光景を目にした私は気が付いた。

 これは夢ではなかったと……




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