第11話 とあるエピローグ。か~ら~のプロローグ10


(主人公視点)


 う~む。正体をバラすのって逆に難しいな。隠そうとすると簡単にバレるのに。これもマーフィーの法則か? 現代人は捻くれてるよな。ウソじゃないって言えば言うほどウソだと思われる。そんな現代人に魔法や神の奇跡を見せても『トリックだ、インチキだ』としか思われないようだ。たぶん大規模な破壊魔法を見せても同じ反応だろう。自分の身に降りかかったらとか考えずに胡散臭さしか感じないのではないだろうか。


 それに現代は情報が溢れている。『新世界の神になる』みたいなイタイ台詞の少年とか、新興宗教の教祖サマとか、自称神サマが一杯なところにもう一人アタオカが増えたとでも思われているのかもしれない。


 地球に帰還して初日で計画が頓挫したか?


 いや、慌てる時間じゃない。まだ根回しの段階だ。


『首相よ、半信半疑でかまわん。まずは我の話を聞くがよい。損はさせん』


「……わかりました。ですが、いくら不思議な力を使おうとテロには屈するつもりはありませんので」


『ふふ、テロか。甘く見られたものだ。その姿勢は正しくもあり間違いでもある。テロも極まれば旧政権を打ち倒して新たな政府を立ち上げることもあるのだぞ? 古今東西よくあることだ。この国も明治維新で血を流しただろう? 太平洋戦争は? 降伏しただろう? 進め一億火の玉じゃなかったのか? 何故徹底抗戦して玉砕しなかったんだ? 要は力関係が判断できるかできないかだ』


「き、詭弁だ。テロと戦争は違う」


『本質は同じであろう? 力をもって要求を突きつける。個人レベルか国家レベルかの違いでしかない。我は言ったはずだ。我を人と思うなと。バケモノ扱いならいざ知らず、テロリスト如きと一緒にされるとは不愉快だな』


「ひっ……も、申し訳ありませんでした。て、撤回いたします。で、ですが、私にもできることとできないことがございまして……」


 再び殺気をぶつけたら簡単に態度を変えた。まあ、こんな光人間モドキと二人っきりじゃ恐いだろうね。でも、魔法で『洗脳』しないだけマシだと思ってもらおう。そのうち。


『なに、難しいことは言わんよ。国のトップのコネを利用させてもらおうと思ってるだけだ。木戸御免というヤツよ。我が市役所のカウンターに並ぶわけにはいくまい?』


「はは……それは騒ぎになるでしょうな……それで、何をお望みで?」


『とりあえずは顔つなぎだな。我という存在が日本に降臨した。そのことを上層部に周知させておきたい。本意ではないが先ほどの例のように騒ぎが起こることもあるだろう。その時上の人間まで慌てていてはマズかろう?』


「なるほど。ですが、こちらからあなた様に確認を取りたい時はどうすれば……」


『それも含めて相談したい。近日中に大臣たちを全員集めてくれ。まずは少数でだ。有象無象は要らん』


「わかりました。では近日中に……」


『ああ、早ければ早いほどいい。騒ぎが起こる前にな。明日なんかどうだ?』


「う……わ、わかりました。善処します……」


『ふふ。本当に政治家はそう答えるのだな。まあいい。そなたにはこれを付けておこう』


 俺は三つ目になる分霊を作り出して首相の目の前に浮かべてやった。見た目はヒトダマそのものなので首相もビックリしている。


「な、何ですか、これは……」


『ヒトダマではないぞ。それは我の分霊だ』


「ぶ、分霊?」


『仕事の邪魔はせん。背後霊ぐらいに思っておけばよかろう。人間の目に移らないようにもできるし、そなた一人にしか見えないようにもできる。どれがよい?』


「背後霊って、困りますよ! プライベートが、いや、機密情報が見られてしまうじゃありませんか!?」


『ふふふ。まだ我を神だと信じられぬようだな。愚か者、我がその気になればホワイトハウスだろうがペンタゴンだろうが忍び込み放題だ。望みとあらば今すぐそなたを連れて行ってやってもよいぞ?』


「え、遠慮いたします……し、しかし、これは困ります」


『ふむ。だが、もう手遅れではないか?』


「ど、どういう意味でしょう?」


『仮に、我がもう分霊は憑いていないと口にしても、そなたはそれを信じるのか? 我が神だと言っても信じなかったそなたが。我は自由に姿を消せるのだぞ?』


 ここで分霊を消したり出したり、本体も幽体と実体を切り替えたりというパフォーマンスを行なう。首相は真っ青になった。ようやく俺の言ってることを理解し始めたようだ。


『まあ、そもそも神とはこういう存在だ。プライベートはともかく、日頃お天道様に顔向けできないような真似をしていなければ何も恐れることはなかろう?』


「は、はい。その通りでございます。で、ですが、政治家は綺麗ごとばかりではやっていけず、清濁合わせ飲むといいますか、その、国民には知られないほうが平和が保てるといいますか……」


『フハハハ。首相よ、安心せよ。何度も言うが、我は神だ。直接我に不敬を働いたならともかく、人の子の粗をわざわざ探す趣味はない。まあ、偶然目に付いたり、それが目に余るようなら神罰を下すがな』


「あ、安心できるようなできないような……」


『まあ、我はどこぞの磔台をシンボルとした宗教の神と違って慈愛の精神を売り物にしているわけではないからな。どちらかというとギリシャとか北欧の神話の神に近い。気まぐれで身勝手なものだ。疫病神とでも意思を持った災害とでも思うがいい』


「疫病神……言い得て妙ですな。実感いたしました」


 おお、コヤツ、言いおるわ。


『実感できたところで、もう寝ろ。明日は人を集めてもらうのだからな』


「え? そんな強引な……うわ!?」


 首相を念力でベッドに放り込む。


『サービスだ。ぐっすり眠れる魔法と健康になる魔法をかけてやる』


「え? それはどう……」


 これで朝起きれば神の奇跡を信じやすくなるだろう。

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