第10話 とあるエピローグ。か~ら~のプロローグ9



(主人公視点)


『返事はどうした?』


「また声が……誰だ! どこに隠れている!」


 首相であろう老境に差し掛かっている男は、ガバリとベッドから跳ね起き、辺りを見渡している。当然幽体の俺の姿は見えていない。見えているとしたら首相は有能な魔法使いだ。


『やれやれ、これでは話しにならんな。見えるようにしてやろう』


「な、何だこれは!?」


 俺は姿を現した。といっても三上静也バージョンでも勇者バージョンでもなく、異世界の神たちの真似をして人型の光の姿だ。ルクスというのはいまだにわからんが100ワットの蛍光灯くらいの光量があるだろう。天井の照明より少し明るいくらいだ。しかし、この姿、というより洋間の環境では神秘性に欠けるな。どちらかというと未知との遭遇、ファーストコンタクトっぽいぞ。


「ま、まさか、う、宇宙人か?」


 ほら、首相も勘違いしちゃった。

 あー、異世界の神の空間、真っ白だったのも雰囲気を大事にしてたのかね?

 それより誤解を解かないと。


『そうではない。我は神だ。正真正銘のな』


 実は『人間が過去に畏れ敬い遠ざけた存在、すなわち神と呼ばれる哀れな存在よ』などと回りくどい皮肉的な言い方も考えていたが、今後のキャラ設定を考えてストレートに告げてやる。あ、つい『我』とか言っちゃった。まあいい。光バージョンの一人称ということにしよう。


「な、何をバカなことを。ありえん。誰か! 警備を呼んでくれ!」


 おや? 首相は宇宙人は信じられても神は信じない口か? アメリカから何か聞いているのだろうか? 今度暇があったらエリア51とやらに冒険に行って来よう。勇者でもあるしな。


『無駄だな。この部屋の音は外には聞こえん』


「くっ……」


 俺の言葉を信じたわけではないだろうが、首相がいくら叫んでも誰も来ないのは事実で、首相はすぐに次の行動に移る。

 だが、スマホ、ベッドサイドの室内電話、非常ベル。外部と連絡できる物は全て封じてある。カチャカチャと何度も試しているが使えないものは使えないのだ。

 その後首相は通信を諦め、脱出することを選んだようだ。

 俺が一ヶ所に留まっているのを動きが鈍いと判断したらしく、回り込むようにドアまで移動した。


 だが、結界はドアノブの手前ギリギリに張ってある。首相は結界に遮られ、すぐそこにあるドアノブを掴もうとしても掴めない状態に陥っていた。ホラーテイストだ。やはりちょっと違う。


「そ、そんな、そんな……あ、ありえない……」


『無駄だと言っただろう。少しは我の言うことが信じられたか?』


「うわっ、う、浮いて……」


 恐がらせてばかりでも話しにならないので、神力で念力っぽく首相の身体を持ち上げ、ベッド横のソファーまで連れて行ってやった。さすが国のトップの寝室。家具はベッドだけじゃない。小さなバーカウンターまであるって驚きだ。丁度いいのでブランデーを拝借してテーブルの上に置いてやった。銘柄は俺でも知っている、だが飲んだことなどないブランドだった。なんか25年て書いてあるんですけど? 生前の俺と同年代? 気付けの一杯にはもったいないかな。


『これでも飲んで気を静めるがよい』


 俺は、あえて適当なマグカップに高級ブランデーを注いでやった。専用のグラスを手のひらで温めて香りを楽しむとかいう薀蓄は今は必要ないという判断からだ。だったら安物の酒でいいだろうという批判は認める。適当に選んだらそれだっただけだ。思うにここには高級品しかないのだろう。ちなみにカップも酒を注いだのも念力でだ。イリュージョン。


「……」


 首相は目の前のマグカップをじっと見つめて、しばらくして一気に呷った。

 たぶん毒を警戒していたのだろうが、自分の部屋の酒である上、異常な力の持ち主が害を加えようとするならいつでもできるとでも判断したのだろう。俎板の上ってヤツだな。


「……キミは、一体何者なんだ?」


 強い酒を一気したのでしばらく声が出なかったようだが、ようやく話し合いができるようになった。

 だが、俺はこの世界ではガツンとやることを決めている。まずはそこからだ。


『言葉に気をつけよ。我は神だと言ったはず。人間如きが、思い上がるでないわ』


 俺は軽く、本当に軽く神力を首相に浴びせた。

 首相はせっかくブランデーを飲んで落ち着いたところだったのに、再び恐慌状態に陥ってしまったようだ。いわゆる『殺気』をぶつけるってことだからね。それも歴戦の勇者の。


「も、申し訳ございません。で、ですが、とても信じられないことなので……」


 力関係はわかったようで、首相は口調をすぐに変えてきた。有能である。こちらも鞭だけではダメだ。飴も与えないと。ここは心の広いことを見せてやろう。


『そこは理解してやろう。我が神であることは事実だが、証明は不可能だ。信じるか信じないかは人間次第だ。そもそも我はどう呼ばれようとかまわん。悪魔でも化け物でもな。少なくとも人間扱いはしてくれるなよ? 己の都合のいいように物事を判断していると墓穴を掘るハメになるぞ』


「証明できない……それは人間でないことも、ですか? 宇宙人ではないのでしょうか?」


『定義次第だ。同じ宇宙に住んでいるなら誰だって宇宙人であろう? 呼び方は好きにしろと言ったが、おそらくキサマが想像している宇宙人とは全くの別物だ。そもそもヒトではない』


「そ、そうですか……」


 ハッキリと否定してやったらガッカリされてしまった。

 何かこの首相、宇宙人フリークなのか?




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