第6話 とあるエピローグ。か~ら~のプロローグ5



(主人公視点)


「じゃあ、短い間だったが世話になった。感謝する」


『ホントよ。よくまあこんな短期間で神力を使いこなせるなんてねぇ』


 ふっふっふ。それは元日本人だってことが大きいな。実際記憶が戻ったあとも魔力の使い方がスムーズになっていた。周りの連中は『さすがは勇者だ』って思考停止していたが、やはり知識は力ということだろう。例え主にラノベからの知識でもだ。神力とやらもその応用にすぎなかっただけである。


「チンピラ、邪神に堕ちるんじゃないぞ? もしそうなったら飛んでくるからな」


『勇者様の手は煩わせないッス! 絶対に邪神なんかには堕ちないッス!』


 向こうが俺を指導するという名目で何度も模擬戦をした。その度にボコボコにしてやった。何度も逃げようとしたが、残り二体の神が面白がって逃がさなかったので俺も遠慮なくボコボコにした。そうしたらいつの間にかチンピラが三下になっていた。これなら邪神に堕ちないだろうと二人には感謝もされた。なんだかなあ……


「爺さんも、色々世話になった。感謝する」


『ホッホッホ。まだ神としては認められんが、力に溺れなければそれでよい。達者でな』


 それはそうだ。只でさえ勇者としての力がある。それ以上の神の力。溺れたら邪神コースまっしぐらだ。心しなければ。

 まあ、勇者やってるときも『俺つえー』で調子に乗らなかったんだ。たぶん大丈夫だろう。

 それよりも、どちらかというと燃え尽き症候群のほうが心配だ。小さくてもいいから何か目標を決めてコツコツやっていこう。


 挨拶も済んだのでついに地球への帰還だ。魔王や邪神と戦った時以上にドキドキしやがる。一度ならず諦めた感情だ。


『これでサヨナラね。覚えてる? 次元を超えるのに時間を選べるチャンスは一度だけよ?』


 実はよくわかっていない。神のルールか法則か知らんが、そういうものだと思っていればいいらしい。同空間で過去未来を行き来するのはタブーだし、とんでもないエネルギーが必要なんだそうだ。だが、別次元に移動するなら、初めてのところなら好きな時間を選べるし、一度訪れたところでもその時間帯より未来なら自由だそうだ。俺の場合、死んだ時点以降なら好きに選べる。ただしやり直しは難しい。


「ああ、問題ない。じゃあな」


 それだけ言って俺は次元転移した。

 無愛想? 情緒がない? そうかもしれない。結局連中の名前も覚えられなかった。神の力があるのだからやろうと思えばできたのだろう。だが、特に必要性を感じなかった。その程度の関係だ。


 もしも俺が勇者じゃなく、一般の子供として育って、友達や仲間や家族と楽しく暮らせていたら、あの世界に愛着を感じたかもしれない。

 今となってはどうでもいい話だ。俺はあの修羅の世界で生き残り神の力を得た。それだけである。

 それよりも……


『おおっ! 地球だ……』


 今、地球を宇宙から眺めている。正確には別次元にある地球の『神界』の中から見下ろしている。

 これは、向こうの宇宙から移動するとなるとご当地の神界を経由しなければならないという仕様のためだ。

 すんなりと入り込めたが、門番的なのや警備員的なコッチの神サマに『関係者以外立入り禁止だ!』と怒鳴られるわけでもなく、それどころか人っ子一人いない。神界のはずなんだけどなあ。もしかして居留守かな? 不審者対策で?


 色々気にはなるが、後回しだ。

 神界から地上へ降り立つ。


『日本だ……帰って来れた……』


 あの世界で何十年と夢で見た懐かしの故郷。あの世界とは違い夜でも明るい。今は幽体(?)モードなので涙は出ないが、実体だったら間違いなく俺は泣いている。


 だが、懐かしんでる暇も泣いている暇もない。俺にはやらなければならないことがある。


『この時間なら、まだ会社か』


 俺は帰ってくる時間をギリギリ俺の死亡時近くにした。

 実は俺は死んだときの記憶がない。変な言い方だがそうとしか言えないのだ。単純な記憶の欠落か、睡眠中など意識がない状態で死んだか、それがわからない。


 例えばトラックに撥ねられたり、火災で真っ黒こげになったりして激しく遺体が損傷した状態なのは勘弁してほしい。生き返ったら大騒動間違いなしだ。

 損傷がなくても正式に死亡判定が届け出されているのもアウト。作戦の練り直しだ。


 そうして、俺が移動して来たのは生前勤めていた会社だ。もう深夜だというのに残業している社員がまだいる。生前の俺もそんな一人だ。今は机に突っ伏していて何人かの同僚が心配そうに見ている。居眠りだと思って起こそうとしたら死んでいたのだろう。悪いことをしてしまった。いや、悪いのは連日サビ残をさせる会社だな。

 昔はこんなブラックじゃなかったんだがなあ……


『って、なんじゃこりゃ! 呪いじゃねえか!』


 自分の死体を見て愕然としてしまった。

 俺は向こうの世界で勇者サマなんてやらされていたが、そのおかげか魔法も色々使える。その勇者の目が、今は神の力も合わさって間違いなく呪いの痕跡を捉えていた。


『そっかー……俺、呪われるほど嫌われてたんか……死因は過労と呪い、どっちだろうね……』


 呪い自体は前世の俺の死と同時に既に消えていて、残念ながら詳細までは窺えなかった。神の力をフルに使えばわかるかもだが、今は時間がない。

 おっと、救急車が来た。急がなくては。


『呪いはともかく、願いどおり心臓麻痺っぽいのはラッキーだったな』


 自分が死んでるのを見てラッキーとは何事だとか、神である存在が一体誰に願ったのかという疑問はあるが、事態は考える上で最悪ではない。


『一応向こうではできたけど、うまくいってくれよ。<分霊生成>!』


 俺の幽体(?)からヒトダマのような光の塊が生まれ出る。これが俺の分霊のはずだ。


『よし、意識も繋がってるな。早速俺の身体に入れ』


 分霊は言葉は話せないが了解の意を伝えてきた。そして、人間には見えないだろうが机にうつ伏せになっている俺の元の身体にスッと入っていた。


「「「うわーっ! 動いた!」」」


「う~ん……あっ、寝てしまった! マズイ! 今日中に終わらないぞ!」


「お、お前、大丈夫か?」


「えっ? 滝田さん、どうしたんですか? 皆さんも集まって。もしかして起こしてくれたんですか?」


 分霊は俺自身と全く同じ精神だ。神になったからできる技である。ワザとらしいといえばワザとらしいが、只の居眠りだとアピールしている。神になっても演技力はこんなものだろう。


「いや、だって、死んで……」


「救急です! 患者はどちらですか!」


 同僚が何か言いかけたが、警備員を伴った救急隊員が入ってきた。

 さあ、同僚よ、今度は君が演技する番だ。うまく立ち回ってくれ。



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