第5話 とあるエピローグ。か~ら~のプロローグ4



「えー? じゃない。俺は神にはならん。断固拒否する」


 神になることを打診された勇者は、その条件に難色を示した。確かに何百年も不自由な環境で戦い続けろといわれて歓ぶ者は少ないだろう。特にこの勇者は社畜精神のまま惰性で戦ってきただけなのだから。


『ふむ。じゃが、若いの、それではどうするのじゃ? このままではお主は野良の神、地上に混乱を招けば邪神と同じように討伐されるぞ?』


『ちょ、%&*$、やめてよ、挑発するのは。わたしたちじゃ負けなくても勝てないんだよ!?』


『ワシは事実を告げただけなんじゃが』


『この子を越える新たな勇者の誕生がいつになるかわかったものじゃないでしょ!? それまで地上は滅んでるわよ! だから私が差し障りのないように修行ルートを勧めてたんじゃない』


『その修行が嫌じゃって断られたじゃろうに……』


 光の塊、女性っぽいのと年寄りっぽいのが勇者そっちのけで口論を始めてしまった。


「……討伐できるもんならやってみろってイキリたいところだが、なんか過大に評価されてるようだな。演技か駆け引きかわからんが、そんな風に出られると萎えてくる」


『お姉さん信じてた! 勇者君は邪神には堕ちないわよね? ね? ね?』


「うざい……マジで神になるのも邪神になるのも御免だ。どうにかならないか? お前ら、仮にも神だろ? 何か方法はないのか? 一番手っ取り早いのは俺から神格を外してくれることなんだが……」


『マジで無理ね。神も我が身が可愛いの。自分が邪神に堕ちるかもしれないリスクは選べないわ』


 できないとは言っていない。デメリットがメリットを越えているということだ。


「じゃあ、何か代案は? スローライフならともかく、何百年も社畜やらされたらブチぎれる自信がある」


『ふむ。○×△よ、この様子なら即邪神堕ちということもあるまい。本人に確かめてみたらどうじゃ?』


「代案があるんだな? 何故言わなかった」


『えーと、ふざけるなって暴れられたら困るから……』


「心外な。提案だけで暴れたりはしない。言うだけ言ってみろ。判断はそれからだ」


『……じゃあ、言うわよ? あのね、この世界で神になりたくないのなら、この世界から出て行ってもらうしかないの』


「……なるほど、追放か。テンプレだな」


『違うわよ!? そう受け取ってほしくなかったから言い出せなかったの!』


「別に怒ってない。だが、実質同じことだろう? むしろ歓迎なんだが?」


『だから違うんだってば。そもそも勇者君は罪を犯してないでしょ? その勇者君を追放なんかしたら私の罪になっちゃうの! だから追放はできないの! 追放OKなのにはビックリしたけどさ』


「言っていることがわからん。追放できないのにどうやって追い出すんだ?」


『一つだけルールの穴があるのよ。勇者君、転生者でしょ?』


「……まあな。誰にも言ってなかったが、やっぱりバレてるのか。だが、それがどうした?」


『勇者君はこの世界で生まれたからこの世界で神になれるけど、元の世界で神になる資格もあるのよ。人間でいうと二重国籍みたいな感じね。だから罰として追放されるんじゃなくて、自主的に元の世界に帰るってことにすれば、私たちの関わることじゃないの。確かに実質同じだから勇者君は怒るだろうなって―――』


「それ採用!」


 勇者は食い気味に反応した。


『……もう。こんなアッサリ受け入れるって知ってれば面倒な説明しなくてよかったのに……』


『ホッホッホ。そうではなかろう。くどい説明があったからこそ、この世界に愛想が尽きたのじゃろうて。人間どもの業は深いのぅ。神として申し訳ないわ』


「……まあな。前世の記憶も大概だったが、この世界よりはまだマシだ。文化も文明もな。地球に帰れるなら、頼まれてもこんな世界にいたくはない。神であるお前らには悪いがな」


『ううん、気にしないで。勇者君がどんなに苦労して来たか、知ってるつもりだから。それなのに何も報いることができなくてゴメンね?』


「いいさ。もともと神頼みするつもりもなかったし、地球に帰れるなら最高のご褒美だ。感謝してもしきれない」


『そう言ってもらえてよかったわ。あー、これで一応問題は解決ね。肩の荷が下りた感じよ』


「それで、今すぐ帰してくれるのか? 地上には碌な財産もないし、裸で帰れって言われても文句はないぞ?」


『……まだ問題が残ってたわね……あのね、さっきも言ったけど、私たちが追放するんじゃなくて、勇者君が自発的に元の世界に自身の力で帰らなければならないの。つまり私たちは手を貸せないわ』


「……じゃあ、どうやって帰るんだ?」


『う~ん、%&*$、どうしたらいい?』


『ふむ、神力を渡さず、自身の神力の使い方を教えるのは構わんじゃろ。勇者の称号を持っておるんじゃ、「神託」で多少の知識を与えるのと変わらん』


『そうね。教えるだけならルール違反にはならないわよね。そういうことよ、勇者君』


「だから、どういうことだ?」


『修行よ!』


 その言葉を聞いて渋い顔になる勇者。


『安心しなさい。何百年もかからないわよ。もちろん勇者君次第だけどね』


「くそ、やってやらぁ!」


 こうして勇者は神の世界にしばし滞在し、神力の使い方を学ぶことになった。

 ちなみに、@#$%という名のチンピラ風の神も指導のため呼ばれたが、勇者の神力を使った戦闘訓練でボコボコにされた。死んでも復活できるので問題なしである。

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