第4話 とあるエピローグ。か~ら~のプロローグ3



「できんって、ジジイ、そもそも神格とやらを取り上げるためにここに呼んだんだろ? コッチも暇じゃねーんだ。さっさと処理してくれ」


『ホッホッホ。若いのはせっかちじゃ。できんもんはできんのじゃよ。主にルール上の問題でのぅ』


「ルールねぇ。神なのにというべきか、神だからこそというべきか……世知辛い」


『実はそうなの。こんなことって前例がないし、誰も不正をしてないしで強制執行するワケにもいかないのよ。そんなことしたら、私も邪神に落ちちゃうからね』


「……コッチが頼んでもか? 正直、勇者の称号ですら邪魔なんだ。神格なんて厄ネタでしかないんだが」


『すまんな。ルール上無理じゃ。信賞必罰というじゃろ? 邪神を倒してくれたお主にさらに恩恵を与えることはできても何かを取り上げることはできんのじゃよ』


「そのルール、ポンコツだな。受け取り手の都合はお構いなしかよ」


 人間の世界でも儘あることだが、神の世界でも同様のようだ。押し付けがましいことこの上ない。


「問題大アリなのはわかった。で、俺をここに呼んだ理由は結局何だ? 説明してそれで終りじゃないだろ?」


『ええ。本題はここからなんだけど……勇者君、アナタ、正式に神にならない?』


「は? 俺が神? 冗談だろ?」


『冗談なんかじゃないわ。神格を得た人間をこのまま地上に野放しにするワケにはいかないの。ようやく魔王の脅威が去った地上で邪神以上の力を持った存在が力を振るうのは更なる混乱の元になるとは思わない?』


「それは……俺はスローライフ希望だから問題ないと思うが……」


『周りが放っておかないって話よ。アナタを手に入れれば世界征服も簡単ね。争奪戦の始まりだわ』


「……俺が神格を持ってることを黙っていれば……」


『無理ね。神官とか、わかる人にはわかるもの。だから邪神を倒してレベルアップしてる最中に強制召喚したのよ。新たな神格の持ち主の存在が生まれたことがバレないようにね』


「勇者の称号持ちなのも生まれてすぐバレるし、なんて世界だよ、クソが……」


『神になるのがそんなに嫌?』


「当たり前だ。戦うことしか知らない俺に何しろってんだよ。第一、神になったらあのチンピラの下に付くのか? 舎弟やら三下になれってか? おととい来いだ」


『うふふ。@#$%ったら嫌われたわね~。神の上下関係はまた別の問題として、勇者君の仕事は簡単よ。今までどおり勇者として活躍してくれればいいのよ』


「何言ってんだ? 俺が地上に行くと戦争になるって脅してきたばかりだろうが」


『違うわよ。正式に神になってくれるなら、ルール上問題なく神格を封印できるわ。そうすれば勇者君は勇者のまま活動できるってわけ』


「またルールかよ……邪神に堕ちたヤツの気持ちがわかるぜ……」


 現代日本の記憶と神殿に囲われていた経験を持つ勇者にとっては他人事ではない問題だ。


『ちょ、ちょっと待って! ダメよ! 邪神に堕ちたりしちゃ!』


「堕ちるつもりはないが、堕ちる神もいっぱいいるんじゃないか? そのうち神の半数超えたら負け確だろ? 世界は邪神に支配されたりしないのか?」


『ホッホッホ。知らぬとは恐ろしいのぅ。神格を持つお主だから教えてやろうかの。確かに邪神に堕ちれば好き勝手できるじゃろう。しかしのぅ、一つだけデメリットがある。それも特大のじゃ』


「勿体付けるな、ジジイ」


『ホッホッホ。そのデメリットとはの、邪神が滅ぶとそのまま消滅するということじゃ』


「滅ぶと消滅って、当たり前のことだろうが」


『そうじゃないのよ。逆に言うと、神は消滅しないわ。だから勇者君の言う通り、仮に邪神が神の半数に達して全面戦争になったとしても、負けて殺された神はいずれ復活するの。対して邪神は倒されるとそのまま消滅。ね? 最後は神が勝つようになってるワケ。そのルールというかシステムを知っている神は滅多に邪神に堕ちないものよ。遠回りの自殺みたいなものだからね。@#$%も一線を越えようとはしないし』


「……ああ、あのチンピラか……わかった。邪神については理解した。なるべく堕ちないように心がけよう。話を戻すが、神になって勇者を続けるというのが意味がわからん。魔王がいないんだからお役御免でいいだろ?」


『勇者君はイレギュラーなんだからしょうがないでしょ? 簡単に言うと、神に至るための修行ね。勇者として人々のために戦うのも善行と看做されるわ。勇者君の場合レベルも功績も充分なんだけど、期間が短すぎるから続けてほしいの。それに、勇者君の身体は人間のままなの。肉体の寿命が尽きるまでは完全な神とは言えないし』


 そう言われて勇者は自分の身体と目の前の二つの光の塊を見比べる。この世界の神はラノベに出てくる人間そっくりの姿はしていないのだなと改めて思った。


 自分が死んだ後、こんな光の塊になるのかと思うと何ともいえない気分になる勇者だったが、それよりも説明の中の寿命が尽きるまでという言葉が引っかかる。


「何となくわかった。だが、それはつまり、勇者の仕事が魔王を倒して終りじゃなく、これからも死ぬまで国や神殿に飼われて戦わせられるってことか?」


『ええ。そうなるわね。あ、ちなみにレベルが上がったことで寿命も延びてるから、修行も捗るわね。正式に神になったとき、きっとランクが高くなるわよ?』


「そこが問題じゃねえ! 寿命が延びた? 俺は一体いつまで働かされるんだよ!?」


『えーと、千年はないでしょうけど、2,300年じゃ利かないわね。5、600年くらいかしら?』


「却下だ!」


『えー?』


 スローライフ希望の勇者としては当然の判断だった。

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