第3話 とあるエピローグ。か~ら~のプロローグ2



『メンドくせえ! まだるっこしいんだよ! たかが人間じゃねえか! 取り上げれば済むこったろ!』


 三体の神のうち、チンピラっぽい神が荒ぶる。

 勇者は内心イラっとしたが黙っていた。修行(?)の賜物である。


『バカね。そんな横暴許されるわけないじゃない。アナタ、邪神に堕ちたいの? だったら丁度ここにパワーアップした勇者君がいるわ。どれぐらい持つか試してみる?』


『う、それは……』


「なあ? 俺はそいつを斬ればいいのか?」


 神に逢えば神を斬り、仏に逢えば仏を斬る。戦闘続きで精神がやさぐれていた勇者は光たちの会話に割って入った。いまだ手にしていた聖剣をチンピラっぽい神に突きつける。


『ま、待って! コイツ、まだ、辛うじて、ギリギリで堕ちてないから! 今倒しちゃうと勇者君が邪神に堕ちちゃうから!』


『クソ、酷え言い方だな! オレだってこの世界のためにだな……ちっ、わかったよ。従ってやるよ。従えばいいんだろ! βδεζηφ……ほら、これで文句ねえだろ。あとは勝手にしろ』


 勇者にはわからない遣り取りのあと、チンピラっぽい光の塊が消えた。

 聖剣の向ける先がなくなったことで勇者は剣を納める。


『ホッホッホ。まだ若いのぅ。それに比べて、もっと若いはずの人間がこうも落ち着いているとは。なるべくしてなったのかのぅ』


「……結局アレは討伐対象じゃないのか? 俺は誰を斬ればいいんだ? そこのジジイっぽいのか?」


『……ヒョッ!? こりゃ闘争本能に従っているだけじゃったか。ワシも見る目がないのぅ。○×△、何とか説得せんか』


『えー? 丸投げ? やりますけど……あのね、勇者君、もう戦わなくていいからね。もう少し冷静になってお姉さんのお話しを聞いてくれるとうれしいな』


「心外な。俺はいつでも冷静だ。その話とやら、さっさと聞かせてもらおう」


『やりにくいわね、この子……えーと、実はね……』


 魔王を倒したことで一応国からの依頼をこなした勇者は、今後のスローライフを夢見ていた。なのでこんなわけのわからない状況は早めに解決したかった。

 そのため余計な茶々は入れずに神の、はじめに声をかけてきた女性っぽい光の塊の説明を聞くことができた。


 それは、勇者が邪神を倒したことでことで『神格』を得てしまったことが問題視されているということであった。

 実は、人間でも長い間正しい方法で修行を全うすればいつかは神格を得て神になることができるのだが、この勇者の場合は少し違っていた。邪神を倒しただけでは本来神格を得ることはできないはずなのだ。だが、戦いの最中、とある神、はじめに話しかけてきた女性っぽい神が介入してしまい、その神気と邪神が持っていた神格が共鳴したか何かで起こるはずのないことが起こったのではないかと推測されている。こんな現象は前代未聞だそうだ。


「そうか。あの時急に力が増したのはそのせいか。おかげでヤツを倒すことができた。礼を言おう」


 神格云々はともかく、気になっていたことが判明したのでスッキリした表情の勇者。また、この勇者、ひとりよがりなタイプではない。事実魔王戦まではいろんな人間とパーティーを組んで戦っていたのだ。各国にいた勇者候補たちや騎士、神官、冒険者など、魔王を倒すためには手段も流儀も選んでいられず、メンバーがリタイアしたら即入れ替えを繰り返し、最後は勇者一人が生き残ったのである。

 ゆえに、戦いの最中、邪魔をされたのではなく、助けてくれたのなら素直に感謝することに抵抗はない。むしろ、もっと早く手を貸せよと言いたかったくらいだ。


 だが、その勇者の感想は少し違っていたようだ。


『いいえ。私が力を与えたわけではないの。それは禁じられているしね。私がやったのは、ギリギリ許されている「神託」ね。勇者君が精彩を欠き始めたからちょっと見てみたのよ。そしたら投降しそうになってて慌てて声をかけたの。間に合ってよかったわぁ』


「そ、そんなことはどうでもいいだろ! けど、確かに力が増したぞ?」


 心を読まれていたことがわかり動揺する勇者だった。同時に神ならそれもありえると諦め、全力で誤魔化し話を元に戻す。


『うふふ。人の心が揺れるのは仕方ないわ。神だって堕ちる時は堕ちるんですもの。まあ、それはともかく、本当に私は力を与えてなんかいないわよ。私がやったのは「神託」を通じて「鼓舞」しただけよ。人間の魔法にもある「精神バフ」ね。もっとわかりやすく言うと「火事場の馬鹿力」かしら。要は勇者君の全力を絞り出したのよ』


「……俺にまだあんな力が残ってたのか……」


 女神っぽい光の説明で、どうやら『元気玉』ではなく『界王拳』や『超神水』の方だったらしいと納得する勇者。これだから転生者は話が早い。


 残る問題は『神格』についてだ。名前の響きからも人間の手に余るのは勇者も感じるところである。


「……なるほどな。とにかく偶然が重なって俺に『神格』なんてモノが生えたわけか。ああ、それであのチンピラが取り上げろって言ってたんだな。バカなヤツだ。一言説明すればいいものを。アレは人間を話の通じないサルだと思ってるタイプだな」


『身内がごめんなさい……』


「いや、説明してもらえて助かった。ワケがわからんうちにワケのわからんものを取り上げるって言われたら俺は抵抗間違いなしだったからな。いいぜ、神格とやら、持ってってくれ。人には過ぎたもんだ」


『いや、それはできんのぅ』


 説明を丸投げしていた年寄りっぽい光の塊がここで口を挟んだ。

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