第2話 とあるエピローグ。か~ら~のプロローグ
ここは地球のある宇宙ではない、別次元。いわゆる異世界である。
剣と魔法の世界。お約束どおり勇者と魔王の戦いがあった。
そして……
「クソが! 魔王倒して終わりだと思ったのに! 邪神なんて聞いてねえ! こんな連チャン要らねえよっ!」
剣を振るう男。それは勇者だった。仲間は魔王戦で軒並みリタイア。男は突如現れた自称邪神と一人戦っていた。
『フハハハ! 勇者よ! 我に降り新たな魔王となるなら命は助けてやると言っておろう?』
「ステキなお誘いだがよ! 俺はもう宮仕えはゴメンなんだよ! <大閃光>!」
『フンッ! クハハハ! ならば死ねぃ! その身体をアンデッドにしてくれるわ! <魍魎の誘い>!』
「っ! <神聖光壁>! っぶねえな! てめぇこそくたばりやがれっ! オラッ!」
勇者と邪神の戦いは一昼夜に及んだ。手出しする者も、観客さえいない、勇者にとって寂しい戦いであった。
(クソ、魔王を倒してレベルアップしてたから何とかなってるものの、一人じゃキツイぞ……あー、俺、何やってんだろう……そもそもこの世界のため命賭ける理由ってあったっけ?)
連戦に継ぐ連戦で勇者はレベルはともかく精神が疲弊していた。
そして、この勇者、物語ではよくある『転生者』であった。しかも、幼少の頃に教会に見出され、親元から引き離され世間と隔離されて戦闘訓練ばかりさせられてきた身の上である。訓練中に頭を強打し前世の記憶が戻ったというベタな展開ではあるが、男はその元日本人の記憶を頼りに考えた。ここで国や教会に逆らっても個の力は数の力には敵わない。しかも無名で何の功績もない『勇者候補』だ。長いものには巻かれよのことわざ通り黙って国の言う通りにした。逃げるなり一旗上げるなりするのは魔王と一戦交えてからでよかろうという判断である。多くのラノベのように実は魔王がいい人的展開もあるかもしれない。その時は国や教会にざまぁしてやろうと一人ほくそ笑みながら訓練を続けた。
その後もズルズルと国の言いなりで戦わされた。おそらく勇者はブラック企業の社畜だったのだろう。幸いなのは敵方は人間をエサとしか思っていない関係性だったことで同情心も罪悪感も最低限で済んだことだ。男は青春と呼ばれる時間をほぼずべて戦いに費やすことになる。
それは魔王との戦いまで続いた。
男はこの戦いが終わったらスローライフするんだ、とフラグが乱立するような気持ちで戦いに辛勝したが、まさかまさかの邪神登場である。
(考えたら腹が立ってきた! クソ貴族にクソ神官どもめ! テメーらは戦わないくせにブクブク太りやがって! 豚に謝りやがれ! テメーらのために戦ってるんじゃねえんだぞ! って、あれ? じゃあ、なんで俺、戦ってるんだ? 転職……魔王に転職もいいかもなあ……)
いわゆるランナーズハイ。勇者はあらぬ方向、いや、真っ当かもしれない方向へ進もうとしていた。
その時、勇者の心にどこからともなく声が聞こえてきた。
((いけません! 邪神は倒さなければなりません!))
「おわ! なんだ!? 力が溢れてくる!?」
『キサマ! その力は何だ!?』
「何だか知らないが、考えるのは後だ! 今なら使える! <次元斬・五月雨>! ついでに全力の<浄化>だ!」
『おのれ! かムぃっ』
突然戦闘力の上がった勇者は何かに気付いた邪神をバラバラに切り刻み、弱点である神聖魔法で存在ごと消してしまった。
「ふ~っ。倒せたかな。お、レベルアップ。間違いないな……って、おいおい、どこまで上がるんだよ……え?」
邪神が消え、一息ついたところで、勝利の余韻に浸る間もなく勇者は周囲の環境が全く違うことに気が付いた。
「……真っ白空間? 俺も死んだわけじゃないよな? 転生した時だってお呼ばれしてないし……」
『死んではいませんよ。急に呼びつけてごめんなさいね。あのままだと地上に神が降臨したことになってしまうので……』
「光がしゃべった……あー……展開的に神サマ? いい方の」
勇者の目の前に現れたのは辛うじて人型だとわかる光の塊だった。そして勇者は気付いた。この声は邪神との戦いの最後に聞いたものだと。さらに元日本人の知識が答を告げてくる。
『はい、その通りです。勇者さん、邪神を倒していただき、ありがとうございます』
「あー。まあ、成り行きで……それで、俺はお褒めの言葉をもらうためにここに連れて来られたのか?」
『いえ、ちょっとイレギュラーなことが起きまして……』
『おい。さっさと神格を取り上げればいいだろうが』
光が、いや、神が増えた。聞き比べると前者は若い女性っぽく、後者は男っぽい。それもチンピラ成分を含んだ。
『待て。それはいかんぞ』
また光が増える。今度も男声だ。
これで勇者の前に現れた神は三体となった。一体、何が起こっているのか、勇者には皆目検討がつかない。
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