第41話 いざ、グランピングへ!
花音『何位だった?』
ーー期末テストが終了し、答案返却も終わって、いよいよ順位発表の日を迎える。
とはいえ、全く動揺なんてしていない。
なにせ、今回のテストの手応えはバッチリだったのだから。
A.KOUDUKI『7位でした』
花音『くっそぉ!』
花音『私より30番も上じゃん!』
花音『なんで一緒に勉強してたのに、こんなに差がつくの!?』
とはいえ、この間聞いた順位より花音は20番も順位を上げている。
彼女も相当頑張ったようだ。
花音『でもこれなら、ばっちりOKだね!』
花音『ちなみにタネちゃんも問題なし!』
花音『あとは木村さんだけだね』
花音『確認よろ!』
A.KOUDUKI『了解』
樹だけは学校が違うので、テストの日程がズレている。
なので待つこと数日……
A.KOUDUKI『そろそろテストも終わったと思うけど、手応えは?』
頃合いかと思って、樹へRINEを入れる。
すると、ややあって既読がつき、またしても映像通話の申請が。
『あー! おいくん、またカメラオフにしてる! 僕はちゃんと出してるのに酷くない?』
映像を通話をし始めた、樹の開口一番がそれだった。
「いや、だからいちいち映像通話をする必要はないような……」
『だ、だって……おいくんの顔が見たいから……』
急にスマホの中から、しょげた樹の声が聞こえてくる。
その声を聞いた途端、胸にチクリとした痛みが発生した。
『僕たち、今離れ離れだし、これまでもずっと……だから、せめて、こうしてお話しできる時は、おいくんの顔が見たいなって……どんな些細なことでも、顔をみてお話ししたいなって……』
「そ、そうだったんだ……」
『でもごめんね。これ僕のわがままだよね。嫌だったり、迷惑だったらこのままで良いからね……』
どこからどう聞いても、それじゃ納得しないような樹の口ぶりだった。
それに樹は未だに恐れているんだ。
また俺と離れ離れになること……仕方ないな全く……!
『わぁ! おいくん、ありがとぉ! ふふふっ!』
こちらのカメラをオンにした途端、画面いっぱいに樹の笑顔が広がる。
この瞬間、俺も今後は樹とのオンラインの会話は、ちゃんとこちらのカメラもオンにしようと思った。
俺も俺とて、こうして樹の顔が見られることに、喜びを感じたからである。
『おいくん、ちょっと髪伸びた?』
「ああ、まぁ。そろそろ切ろうかなって」
『そっかぁ。でも、今のおいくんも捨て難いなぁ!』
「そうか?」
『んっ! でもどっちのおいくんもかっこいいから!』
「さ、サンキュー……と、ところでテストの方はどうだったんだ?」
このままだと雑談で終わりかねないと思い、まずは本題を切り出す。
『順位はまだだけどね、たぶんバッチリ!』
「まっ、中学の時から樹は成績優秀だったから、あんまし不安には思ってなかったけどな」
『ありがとっ! 僕のこと信じてくれてて! すっごく嬉しい! おいくんのそういうところ、すっごく好き!』
樹は心底嬉しそうに画面の中でそういった。
どんな意味であれ"好き"と言われるのは嬉しいものである。
とはいえ、樹やはり女の子なので、別姓から"好き"と言われると、気恥ずかしいものもあるのも確か。
『これでグランピングはできそうだね!』
「だな」
『でもさぁ……おいくん、本当にこれで良かったの? もしかしたら花守さんと2人きりで、出かけられる機会だったかもしれないのに……』
「花音とは何だかんだでよくそうなっているから、たまにはみんなも良いんじゃないかって思ってるよ」
『そっか……そうなんだ……』
「不満か?」
『ちょっと……この間までおいくんと僕、喧嘩してたから仕方のないことだけど……』
「ならこれから取り戻そうぜ」
できるだけ明るい声音意識して、樹へそう言った。
すると樹は、この短い言葉だけで俺の真意を察してくれたのか、表情を和らげてくれる。
『うんっ! 僕も取り戻したい! おいくんと離れてた3年分の楽しい思い出を、これからっ!』
「ああ、その通りだ」
『それじゃ、残念だけど今日はこれで……このあと、水泳のミーティングがあるから……』
「おう、頑張れ」
『あのさ……できるだけ、花守さんとの邪魔はしないようにするから、そのぉ……えっとぉ……』
「昔みたいにいつでも連絡してこい。基本的には出るようにするから」
『んっ! ありがとっ、おいくんっ! じゃ、じゃあ……』
と言って閉口しつつも、画面からなかなか樹の顔が消えない。
「どうした?」
『ごめん、ねっ……なんか、切れなくて……』
「それじゃずっとこのままだぞ? ミーティング良いのか?」
『そ、そうなんだけどぉ……ううっ……』
「んじゃ、俺から切るぞ」
『んっ! 良かったらまた、連絡してね?』
「おう」
『できたらで良いから、僕のも取ってね……?』
「ああ、もちろん。つか、できるだけ取るようにする」
『そ、それじゃ、お休み……おいくんっ……!』
「ああ、お休み。また連絡する』
樹のお願い通りに、俺から通話終了のアイコンをタップするのだった。
画面の中から樹の姿が消えてもなお、彼女の残像が俺の網膜には残り続けている。
心の暴走故とはいえ、俺は一時、樹に強い関心を寄せていたのだ。
こうして気になってしまうことは仕方がない。だが、そのせいで、アイツとの関係がついこの間までダメになっていた。
俺はそうした気持ちよりも、取り戻した樹とのこの良好な関係をずっと続けて行きたい。
気の置けない相手として、ずっと付き合ってゆきたい。
それが俺と樹のお互いのためなのだから……
ーーこうして無事に定期テストを乗り切った俺たちは、花音主導でさっそくグランピングの計画を練り出す。
本当は夏休みに入ってからが良かったが、各々の予定を突き合わせた時、夏休み前の土日以外が不可能だと判明。
年中暇な俺とは違って、みんな忙しいようだ。
結果、夏休み直前の土日を使って、向かうこととなり……
「おっはよーあお……こ、香月くんっ!」
この街にある唯一の駅で、花音と種田さんと合流。
今回はグランピングであるため、花音はふわっとした印象の白っぽいワンピースを着ている。
さすがは元モデルだけあって、素人目でみても見事な着こなしだと思った。
道ゆく人ーー主に男性ーーがチラチラ花音を見ているのは、格好が可愛いからか、はたまはワンピースを着ていても存在感を主張している胸か否か……
「ども……」
と花音の影から出てきたのは種田さんだった。
彼女はTシャツにミニのスカートとシンプルな装いながら、さすがは美容室の娘さんだからなのか、なんとなく洗練された印象を受ける。
「お、おはよう、花音……は、花守さん! なんか荷物、多くないですか……?」
「ちょっと色々詰めてたら、大きくなっちゃって。あはは!」
一泊二日なんだから大型のキャリーケースは大きすぎるような気がするが……まぁ人の荷物のことだから、とやかくいうのは良くないか。
「じゃあしゅっぱーつ!」
花音の一声で、まずは各駅停車の電車へ搭乗。
これの終着駅で樹と合流することとなっている。
にしても……
「……」
花音を俺と種田さんで挟む形で座っているのだが、種田さんからは明確な"警戒心"のようなものを感じる。
ひょっとすると、種田さんは俺の中学時代のことを知っていて、警戒をしているのかもしれない……
少々気まずい空気の中、電車に揺られ、終着駅に到着。
「おはようおいくんっ! 花守さんっ! 種田さんもっ!」
しかし樹と合流して、空気が一変する。
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