第40話 花音はわかってるのだろうか……?


「わぁー! ここが葵くんの部屋かぁ!」


「ど、どうぞ、こちらへお座りください……」


 花音へ、彼女のために用意した座布団を差し出した。


 樹もさすがに空気を読んだのか、ベッドへは座らず、床にちょこんと腰を据える。


 俺は机を挟んで問い面で座る花音と樹の間に正座で座るのだった。


「木村さん、昔はよく葵くんの家に?」


 そして何故か、ニコニコ笑顔で花音は樹に話題を振った。 


「あ、えっと、まぁ、昔は……でも、3年ぶりで……」


「そうだったんですね! 昔となんか変わってます?」


「あ、いえ、特には……前よりちょっと、綺麗かなって……」


「たしかに想像してたのよりは綺麗かもですね。葵くんの部屋だから、キャンプグッズがぎっしりかと思ってました!」


「ど、道具類は確か、あそこのクローゼットの下段にあるプラケースに収めてあったような……」


「なるほど! 葵くん、後で見せてもらっても?」


「あ、ああ……」


 どうしよう……なんでこんなことになってるんだ……?


 そして俺はこれからどうしたら……!?


「あ、あのっ!」


 突然、樹は切羽詰まったかのような声をあげる。

さすがの花音も、俺も驚いて樹に視線を注いだ。


「実は今日の用事ってのは、花守さんにもだったんです!」


 そういって樹はボディバッグから、しっかりとした封筒を取り出し、机の上に置く。


「これ、スノーパークの山城社長さんから、先日のお礼として送られてきたもので……」


 そういえば……先月のスノーパークランド終了時、山城社長から後日、お礼の品を送っても良いかどうか聞かれた経緯がある。


「前回のキャンプの時、僕、お二人の邪魔をしちゃったなと思って……だから、これを使っていただけないかと……」


「そのチケットって!?」


 俺も慌てて机の引き出しから、同じ封筒を取り出す。


 どちらの封筒にも千葉にあるランピング施設のペア利用チケットが入っていた。


「あ、あれ? おいくんも?」


「そ、そりゃ送り主が一緒だから……」


「ああー! ここって千葉の海が近くにある、すっごく良いグランピング場じゃん!」


 花音の目がいつも以上にキラキラしている。

もうそれだけで花音から"絶対に行きたい!"っていう強い意志を感じ取る。


「ど、どうしよっか樹?」


「うーん……」


 樹も、俺も同じチケットを持っている。

つまり4人分あるということだ。


 正直俺は、このグランピングのチケットに関しては両親にあげるか悩んでいたところだった。

 なぜならば、俺としてグランピングというものには、少々思うところがあるからである。


「え? 良いじゃん、みんなで行こうよ」


「「はぁっ!?」」


 俺と樹は仲良く口を揃えて、阿呆みたいな声を放つ。


「ああでも、そっか後1人……そうだ! 今回はタネちゃんも一緒で良いかな?」


「あ、いや、それは……」


 もしこれが実現してしまえば、男子の俺以外はみんな女子となってしまう。

しかも、この施設のテントは2名一部屋。

 俺はいずれかの女子と、テントを共にすることになる。


 まぁ、花音とは何度も一緒のテントで寝てはいるが……ああ、でも種田さんが来るとなると、ううん……


「あ、あの、花守さん。それ、本気で言ってます……?」


 いいぞ、樹よく言った! さぁ、そのまま、花音へ考え直すように言ってくれ!


「本気ですけど? バランス、丁度良いと思いますし!」


「バランス?」


「葵くんと木村さんの友達ペア、私とタネちゃんの友達ペアだから?」


「た、確かに……」


 おい、樹! そこで納得しないでくれ! このまま行くと、俺とお前はいくら親友同士とはいえ、一つ屋根の下で一晩を共にする可能性があるんだぞ!?


「あ、でも、千葉までどうやって行こう……葵くんと私はバイクあるけど……」


「じ、実はこんなものも……」


 と、樹はもう一つの封筒を取り出した。

宛名は先日のスノーパークランドで親しくなった"田端さん"から。


「俺も同じもの頂いてるぞ……」


 俺も引き出しより田端さんから送られてきた"旅行券"を取り出す。


 これは旅行代理店で現金がわりに使える金券のようで、田端さんからは"これを使ってどこかへご旅行を……"とのメッセージをいただいている。ちなみにこれもまた両親にあげるか、換金するか考えていたところだ。


「あーそれ! その券を使って、旅行代理店で電車の切符の支払いに利用できるよ!」


 と、花音は嬉々とした様子を見せた。


「そ、そうなんですか……?」


「前に倉持さん……あ、私のマネージャーだった人なんだけどね、から教わったの。もしもなんかのクイズ番組に出て、商品としてもらったら、そういう使い方もできるって」


 花音から"マネージャー"とか"クイズ番組"とかの言葉出た途端、樹は明らかに驚いた様子を見せている。


「お、おい、花音、そのことを話しても良いのか……?」


「木村さんじゃ良いかなって。だって葵くんの親友なんだし!」


「そういうもんか?」


「そういうもん!」


「あの、おいくん、花守さんってもしかして……?」


 いよいよ疑問が限界に達したのか、樹自ら聞いてくる。


「中学の途中まで、モデルを中心に芸能活動をしてたんです。まぁ、色々あって、やめちゃいましたけどね」


 そうあっけらかんと語る花音だった。

 樹は驚きを通り越して、やや放心状態である。


「っと、私の話はこれぐらいにして……葵くんと木村さんが、それを提供してくれるなら、グランピング計画はそのチケットだけで実行に移せるね!」


「ぼ、僕はもともと、おいくんと……花守さんに、このチケットをあげようと思ってて、それで今日は……」


「そうだったんですね! じゃあ、せっかくだし一緒にいきましょうよ、木村さん!」


「うう……」


 樹は花音のテンションに戸惑いながらも、行きたさそうな視線を俺へ向けてくる。


 もはやこうなってしまっては……


「ま、まぁ、良いんじゃないか……?」


 花音や樹が乗る気なのだから、俺がとやかく言うのは良くない。

それにここで断ると、なんとなく花音と樹の2人が、とってもしょげてしまう気がしたからだ。


「おいくんっ!」


「さっすが葵くんっ! 決断早いね! じゃあ早速タネちゃんへ連絡を……!」


「花音、ちょい待ち。その前に大事なこと忘れてね?」


 俺は机の上に広げた教科書を、ペンでトントン叩く。


 グランピングへゆく前に、俺たちは期末テストという難所を乗り越えなければ。

もし浮き足立って酷い成績を取った際は、グランピングどころではなくなってしまう。


「ぼ、僕も週明けからテスト週間だから、それが終わってからの方が嬉しいです!」


「だね! せっかく計画しても、補習で潰れちゃ意味ないし! じゃあまずは勉強を頑張ろう!」


 まぁ、これまでの成績的に俺と花音じゃ、そうはならないだろうけど……でも、万が一があるし、やっておいて損はないだろう。


「じゃ、じゃあ、僕はこれで! 2人とも勉強頑張って!」


 樹は慌ただしく立ち上がった。

そしてチラッと、こっちを見て微笑み、部屋を出てゆく。


 って、アイツ、俺の上着を着たまま出て行った……まぁ、良いか。

もう樹とは仲直りをして、いつでも話ができたり、会ったりできるんだ。

上着を返してもらうことなんていつでもできる。


 むしろ、樹のところに何かしらの俺のものがある。

それが俺と樹の繋がりを象徴しているもののような……そんな気がしてならない。


「さっ、葵くん、グランピング計画を成立させるために勉強しよ!」


「あ、ああ!」


「っと、その前にタネちゃんに電話してもいい? グランピングの件、聞いておきたくて!」


「ど、どうぞ……」


「ありがとっ!」


 早速花音は種田さんへ電話をし始めた。

その様子から、種田さんは一瞬戸惑った感じを受けたが、了承したらしい。


 俺も俺とて今でも楽しみではあるが、戸惑いも。


 だって、花音や樹と仲が良いからって、女子3人の中に俺1人だぞ?


 確かに誰かと何かをすることに飢えている俺だけど、俺以外が全員女子というのは、いかがなものか……花音はそのことをわかっているんだろうか……?

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