第34話 2人の新たな門出
ーー山城社長による樹への御礼は終了し、キャンプファイヤーが開始となった。
「自分は田端 宗兵と申します。このイベントに参加したのは……」
まずは自己紹介とのことで、田端さんから始まり、恵さん、宗二くん、花音と続いて、いよいよ俺の番となった。
「香月 葵です。高二です。実家は酒屋を営んでます。趣味はキャンプです。よろしくお願いします」
……ここで終わってもよかった。
だけど、こんなチャンス滅多にない。
だから、俺は再び勇気を振り絞って……
「あと、そこにいる"木村 樹"とは中学からの……友達です!」
「ーーっ!?」
「今は学校が別でなかなか会えなかったんですけど、こちらのイベントで再会できてすごく嬉しいです! こんな素敵な機会を設けてくださったスノーパーク様に感謝しております。以上です」
全てを言い終えた後、俺の心臓は早くて強い鼓動を発していた。
今の言葉を樹はどう受け取るのか、内心は不安でいっぱい。
そして樹の自己紹介が始まる。
「……木村 樹です。おいくん……香月くんと同い年の高二で……と、友達ですっ……!」
樹から久々に聞いた、俺を指しての"友達"という言葉。
俺はずっと、樹の口からその言葉を聞きたかったのだと、この瞬間思い知る。
「ちょ、ちょっとだけ、その……長くお話ししても……?」
樹は少し申し訳なさそうな様子で山城社長に問いかける。
「どうぞ、お話しください」
山城社長の回答に、樹の表情が和らいだ。
そして樹は、中学の時よりも、ずっと魅力的になった唇で、言葉を紡ぎ始める。
「おいくんは、僕にとって大事な大事な友達です。彼の存在無くして、今の僕はあり得なかったと思います」
樹は赤い炎に照らされながら、滔々と語り続ける。
俺も、そしてこの火を囲むみんなも、樹の言葉へ静かに耳を傾けている。
「僕は元々、すごく恥ずかしがり屋で、人と接するのがあまり得意じゃありませんでした。だから中学に入るまで、友達が1人もいませんでした。そんな僕の初めての友達になってくれたのが、おいくんなんです。おいくんのおかげで、僕は誰かと何かを共有する楽しみを知りました。知ったおかげで、人と接するのが平気になって、たくさんの友達ができて……で、でも……!」
やはり火というものは、人の本心を露わにするらしい。
きっと、火を得た原初の人間も、こうして夜な夜な輪を作り、その日あったとこを素直に語り明かしたのだろう。
「1番の友達はやっぱりおいくんです……! 今、僕たちはそれぞれの事情で別の学校に通っていて、なかなか会うことができませんでした。でも、このキャンプに参加したことで、久々に1番の友達と再会できました! すごく嬉しいです。このイベントを開いてくださって、本当にありがとうございます!……い、以上です……」
そう樹が言葉を締めくくると、火を囲む全員が拍手をおくった。
俺もまた樹へ向けて拍手を送りつつ、涙を堪えるのに必死だった。
だって、樹はまだ俺のことを、友達と……しかも"1番の友達"と言ってくれた。
あんなに酷いことをしてしまった俺のことを、ずっとそんな風に思ってくれていた。
感謝しかなかった……。
それから俺たちは山城社長の進行で、時にスノーパーク製品への意見を述べたり、少し個人的な話をしたり。
楽しい時間が過ぎて行く。
その輪の中に、きちんと樹も加わっていて、そのことが俺は嬉しくてたまらなくて……
「では、私はこれで……火が消えるまで、ここに居ても大丈夫ですので。重ね重ねにはなりますが本日がご参加誠にありがとうございました。また、木村様、香月様には改めて厚く御礼を申し上げます。このお礼はしっかりといたしますので、少々おまちいただければ幸いです。それでは……」
山城社長が去ると、田端さん一家も腰を上げる。
「さすがに息子も疲れていますので、我々もこれで」
キャンプファイヤーの最中から、宗二くんは恵さんにもたれて眠っていて、今は田端さんの背中の上でぐっすり熟睡中だ。
まぁ、みんな今日は色々あったし疲れているのだろう。
じゃあ、俺も……と、腰を上げようとしたところ、
「葵くんはまだだーめっ!」
なぜか、花音に肩を押さえつけられ、再び座らされる。
「な、なんだよ……急に!?」
「君はもっと、木村さんとちゃんとお話ししなきゃ!」
そういう花音の語気はいつもより、どこか強く感じられて、青い瞳には強い意志が込められているような気がして。
「花音……?」
「木村さんは、葵くんの親友なんでしょ?」
「あ、ああ、まぁ……」
「だったら、ここでちゃんと色々と話さないとダメっ! わかった!?」
「わ、わかった……ごめん、今日はなんか色々……せっかく、こんな良いイベントに誘ってくれたのに……」
「良いんだよ、気にしなくて。木村さんも葵くんと、この機会にしっかり話してくださいねっ! それじゃ!」
花音は優しい笑みを浮かべて、火の前から去ってゆく。
せっかく花音が気を利かせてくれたのだ。このチャンスを活かさない他はない!
「樹、その……は、話がある……」
隣でずっと、残り火を茫然と眺めていた樹の横顔へ声をかける。
「んっ……聞くよ、おいくんのお話し……」
樹はただ静かにそう答えた。
「まずは……これまで、色々と酷いことをしたり、言ったりしてごめん……。これを最初に伝えたかったんだ……」
「……」
俺は中2の頃から、1番の友達である樹に変な感情を抱くようになっていた。当時の俺はその気持ちの正体が分からず混乱して……だから樹との距離を置こうとして、子供じみた言動をして、彼女を散々傷つけて……
「俺、あとで色々な人に話を聞いてもらって、中2の頃、なんで俺が樹へ変な態度を取っていたのかわかったんだ……俺、あの時、樹のことが好きだったんだって……」
「ーーっ!?」
「友達としての好きじゃなく、1人の女の子として……でも、あの時の俺はそれがわかってなくて……樹のことを考えると、心と体がおかしくなっちゃって、それであんなことを……でも、全部が終わってしまって、ひとりぼっちになった時、改めて思ったんだ……」
俺は樹の横顔をしっかりと見据える。
「やっぱり俺は樹といつまでも一緒に居たい! 1番の友達として、そばにあり続けたい! 今でもそう願っている」
「……」
「だ、だから……だから! 俺ともう一度、友達になってくれませんか!?」
頭を下げつつ、心を込めてそう言った。
しかしなかなか樹からの回答が返ってこず、不安を覚えていると……
「うっ、うっ、ひくっ……」
「お、おい、樹……!?」
「ようやく……戻れたぁ……! おいくんの、友達にっ……ひくっ、うっ、うっ……」
この涙だけでわかった。
俺はまた樹のそばにいても良いということを。
俺が欲ししているのと同じくらい、樹もまた俺のことを欲してくれているのだと。
「僕の、方こそ、ごめんなさい……」
きっとこの"ごめんなさい"は中2の頃の林間学校でのことだろう。
その年の林間学校のテーマがキャンプで、当時かなりの暴走状態にあった俺は、同級生に向かって傍若無人な振る舞いをしてしまっていた。
そんな俺を、樹は勇気を持って注意してくれたんだけど、それを皮切りに不満を抱いていたみんなが俺へ集中攻撃を浴びせ始めて……そのことで、俺は樹を怒鳴ってしまって……これが、中学時代、樹と最後に交わした言葉となってしまった。
それまでは、いつも一緒にいて、1番の友達と思っていた樹との……
「あの時ね、おいくん、あのままだとみんなに嫌われて大変なことになるって思った……だから、僕は、あんなことを……でも、今思えば、あんな場で言うべきじゃなかったって、反省してる……」
「いや……あの時の樹の判断は正しかったと思うぞ」
「そうかな……?」
「ああ。結果として、あのあとみんなは林間学校をちゃんと楽しめるようになっただろ?」
「でも、おいくんが……」
「良いんだよ、あの時は。あの時の俺は、そうされて然るべきだったんだ。目が覚めたってのもあるし! だからあの時、勇気を出して俺を叱ってくれてありがとう。でも、その時、樹の気持ちに気付けず、怒鳴ったりしてごめんなさい」
「ぼ、僕もごめんなさい!」
2人して頭を下げて。そしてほぼ同じタイミングで頭を上げて、お互いに笑い合って。
ようやく、ここ3年のわだかまりが解消できたように思う。
「じゃあ改めて……これからよろしくな、樹!」
「んっ! よろしくね、おいくん!」
固く握手を交わす。
そして俺は誓う。再び掴んだ、樹のこの手を、もう2度と離さないと。
ずっと、ずっと、ずっと、一緒にいるのだと!
「と、ところでさ、おいくん……」
「ん?」
「そ、その……おいくんと一緒にキャンプしている、綺麗な人って……か、彼女さん……?」
しまった! うっかりしてた! 樹に花音のことをちゃんと紹介してなかったじゃないか
【ご案内】
一応、このシーンに強く関連しているスピンオフのURLを載せておきます。理解の一助になればと。無料箇所の最終話だけでも、なんとなーくわかるかな? って感じです。一応、自己責任でお願いします。
<木村 樹>
https://kakuyomu.jp/users/STR/news/16818093090205129647
<花守 花音>
https://kakuyomu.jp/users/STR/news/16818093090653925700
<???>
https://kakuyomu.jp/works/16818093083895618859
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