隠キャボッチの俺が、金髪碧眼・巨乳で陽キャな学校で一番可愛い『花守 花音』さんに懐かれました〜俺、いつものようにソロキャンプしてただけなんですけど〜
第8話 うっかり俺は花守さんのことを、後ろから抱きしめる!?
第8話 うっかり俺は花守さんのことを、後ろから抱きしめる!?
「なんだよ、今週末もキャンプか?」
「あ、うん、まぁ……じゃあ行ってきます」
「来週は配達頼んだぞー」
「ふーい」
父さんの呆れた視線を流し、荷物を積んだスーパーカブへ跨った。
そしてエンジンと同じく、胸の内をトクトク鳴らしつつ、いつもの湖畔キャンプ場へと向かってゆく。
そして、いつものキャンプ場の、いつも舎営の前にはーー
「おっはよぉー! 香月くん!」
「お、おはよう、花守さん……」
ばっちりキャンプ装備を整えた、花守さんが明るい笑顔で俺を迎えてくれる。
相変わらずマウンテンパーカー越しでも、彼女のチョモランマ? エベレスト? はご立派で……けしからん。
まさか、また花守さんと2人でキャンプをすることになるとは……しかし、この間と比べて、少し装備が少ない気がする。
代わりに、花柄のソフト保冷ケースが前よりパンパンである。
「なんか前回より軽装で、逆に保冷バックがすごいことになってるけど……?」
「あれこれ準備してたら、あっという間にこんな感じにね。だからテントとかは全部レンタルにするんだ! それよりも"アレ"ちゃんと持ってきてくれた?」
「もちろん! リクエスト通り"焚き火台"はばっちり!」
今回のキャンプに際して、花守さんへ要望を聞いてみたところ、彼女は真っ先「焚き火をしてみたい!」と答えていた。
ぶっちゃけ俺自身は、焚き火は面倒だし、終わったあと身体中が煙くさくなるので、あまりやりたくはないのが本音だが……花守さんのリクエストなら仕方がない。
「焚き火、楽しみだなぁ〜上手に火付けられるかなぁ〜」
隣を歩く美少女の友達は、きっと胸の奥にある期待を、その巨乳のように膨らませているのだろう。
「花守さん、ここにはどうやって来たの?」
「バスだよ。そっからは徒歩!」
「タフだなぁ」
「ふふん、私運動部なんで!」
そういや花守さんってバトミントン部でレギュラーだったよな、たしか。
俺たちは舎営で受付を済ませ、薪を購入し、湖畔のテントサイトへ向かってゆく。
そして早速、サイトの設営に乗り出した。
まずはテントを2張り。前回のキャンプは問題が発生したから1張りのテントで一緒に夜を過ごしたけど、今回はそうも行かない。
俺と花守さんは夫婦でも、ましてや恋人でもないのだから。
「ねぇ、香月くん、借りちゃった後でいうのもあれだけど、本当に2張り立てるの?」
「は?」
驚きの発言に思わず花守さんを見遣ってしまった俺。
「私は別に……良いよ?」
これは一体、どういう意味で……!?
頭の中には、色々な回答が浮かんでは消えてゆく。
まだ花守さんとの付き合いは時間的には短い。だけど、ここ数日で彼女がなんとなくどんな人かわかって、俺っていう存在は彼女にとっては"好き"な人であるわけでーー
「わかった。じゃあ、そうしよう」
平静を装って、レンタルテントを手に取った。
「あ、あ! ほ、本気……!? 本気でそうしちゃうの!?」
と、顔を真っ赤に染めて慌てだす花守さんだった。
「だって、言ってきたのそっちでしょ?」
「あうぅ……ご、ごめんなさい、冗談です……」
やっぱりね。人との距離感がなんていうもんだから、そういう冗談も割と無茶なものが多いのかなと思って言ってみたが正解だったらしい。
「冗談はここまで。じゃあテントを!」
「お、おーう!」
こういう空気感を俺はすごく懐かしいと思った。花守さんはアイツとまったくタイプが違う人だ。でもこうして一緒に過ごしていると、1番楽しかった中1の頃の思い出が蘇り、いつしか胸が弾んでいる。
俺と花守さんは協力して、ドーム型テントを、なるべく寄せ合って2つ張ったのだった。
いくら一緒に寝ないとはいえ、こうしてできるだけ近くにした方が、花守さんも安心だと思ったからだ。
花守さんは前回のキャンプからちゃんと勉強をしてきてくれたのか、難なく作業をこなしてくれた。
これにて陣地の形成は完了し、いよいよこれからが本日の本番!
「わぁ! 焚き火台だぁ! すごぉーい!」
折りたたみ式の金属フレームに、受け皿の簡単な焚き火台ではあるが、花守さんは青い目をキラキラと輝かせている。
普段は、ただ火を焚いて暖を取るだけなので、上に
「じゃあ俺、“バトニング”してるから花守さんはごゆっくり」
「見ててもいい?」
「良いけど、そんな楽しいもんじゃないよ」
一応そう告げて、防刃グローブを装着した。
頑丈なバトニングナイフの根元を、垂直に立てた薪に押し当てる。
そしてナイフの先端を、他の薪でトントンと叩いてゆけば、木目に沿って薪が細かく割れ始める。これこそ、ナイフや鉈で薪を割る技術――バトニング。
「すごいね! 手慣れてるね! さすが香月くんだね!」
「な、慣れれば誰だってできるって……」
花守さんの称賛の声に気恥ずかしさを覚えつつ、それでも危ない刃物を使っているので慎重に作業を進めてゆく。
「あのさ、私もやってもいい? バトニング!」
「良いけど、手袋は?」
「えーっと、軍手なら……」
「軍手じゃ危ないって。少々お待ちを」
たぶんそう言うだろうと思って用意した、俺のよりも二回りほどサイズの小さな防刃手袋を花守さんへ渡す。
「わぁ! 用意してくれてたんだ! ありがとう! さすがだね、香月くん!」
花守さんは嬉しそうに言いながら、ルンルンといった様子で手袋を装着。なかなか様になっている。
「あとでちゃんと手袋代払うね! 幾ら?」
「良いよ、それぐらい。まぁ、その……俺と花守さんが友達になった記念のプレゼントってことで……」
「プレゼント、嬉しい! ありがとっ! じゃあ今度、私のも何かプレゼントするからね!」
むしろその笑顔と、勢いで揺れる胸で十分プレゼントに……なんて口が裂けても言えっこない。
実は結構な出費だったけど、うん、花守さんが喜んでくれたからよしとしよう。
そうしてプレゼントされた防刃グローブを装着した花守さんは、さっそく俺と同じ要領でバトニングを開始したのだが、
「あ、あれ? うまく刃が入んないなぁ……」
花守さんは一生懸命刃先を木材でトントンと叩いているが、ナイフがなかなか入ってゆかない様子。
「もうちょっと力を入れてみ」
「これぐらい?」
多少は力を強めたようだが、刃が食い込みはするものの、なかなか進まずにいる。
こういうのって、言葉で伝えるのってすごく難しいんだよな。
だったら、
「ちょっと後ろから失礼するよ」
「ひゃっ!?」
花守さんの後ろへ周り、ナイフを持つ彼女の左手に自分の手を重ねた。右手も同様に。
いうなれば二人羽織の格好か。
力加減はこうした方が伝えやすいというのは、中学の頃勤めた野外ワークのアシスタントの経験からだ。
「刃物を使っているときは集中。これ一番大事」
「わ、わかりました……」
「あと、ナイフの柄はもっとしっかり握る。叩く方の木も同じくらいの強さで握って」
「う、うんっ……!」
「少し体の力抜いて。俺が花守さんの腕を動かすから。それで力加減を覚えてね」
俺は花守さんの手を自分の手で操って。しっかりと握ったバトニングナイフの刃先を木で叩いてゆく。
すると、ずっと食い込んだままだったナイフが、薪を割り始める。
「わわ! 刃が進んだ!」
「ほらほら、刃物を使うときは、そっちに集中。いくらグローブを付けてるからって危険!」
「はいっ!」
花守さんの手を傷つけないよう注意を払いつつ、俺の体を使って力加減を教えてゆく。
だんだんと力加減がわかってきたのか、俺が徐々に力を抜いても、彼女自身の力が薪を割り始める。 やがて薪がパカンっと、
「わ、割れたぁ! 香月くん、私、自分で薪割れたよぉ!」
俺の顔の真横で、花守さんは満面の笑みを浮かべる。
俺の顔の真横で……オレノ、カオノ、マヨコ!?
「わ、わぁ!? ご、ご、ごめんいきなり!!! 俺はなんてことを!!」
バトニングの方法を教えるためとはいえ、俺は花守さんを背中から抱き抱えるような体勢になっていたのだと、今更ながら気がつき、驚いて尻餅をつく。
自分からふんわりと花守さんの良い匂いが漂ってきて、変な気分が高まる。
「えー……い、今更〜?」
そう軽口は叩いているが、花守さんの白い肌の頬には僅かに朱が刺していた。
「てか、わざっとっていうか、あえてっていうか? 普段はクールな香月くんの意外な側面とか?」
「そんなことはございませんっ! アシスタントの時、ああやるのが1番効率的だったから、ついその時の経験を頼りに! ただそれだけ、それだけでございます!」
「ぷふっ! わかってるって! そんな謝んないでよぉ!」
どうやら怒ってはいないらしい。
とりあえずホッと胸を撫で下ろす。
「最初はびっくりしたけどさ、真剣に教えてくれてる香月くんの横顔、すごく素敵だったよ」
「は?」
不意に出た"素敵"という言葉に、思わずアホめいた息を吐く。すると花守さんの頬もみるみる赤くなって行き、
「ちょ、ちょっとジュース買ってくる! 喉乾いちゃった! 香月くんは何がいい!?」
「じゃ、じゃあ、俺はコーラで……!」
「コーラね! ラジャー! ではいってきますっ!」
と叫んで、花守さんは足早に自販機のある舎営の坂を駆け上がり始めた。
さっきのは素敵って言葉は冗談……? でも、じゃあ、なんであんなに顔を真っ赤に……?
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