第6話 変わるボッチな俺の日常
週末のものすごいキャンプの興奮冷めやらぬままの月曜日。
俺は、当然1人で学校に続く道を歩んでいる。
そしてその間、ずっとRINEアプリを開いて、スマホと睨めっこしている。
何故ならば、俺みたいなボッチのスマホの中で、花守さん笑顔を浮かべているからだ。だって、RINEのアイコンが花守さんの顔写真なんだもん。
ーー置き手紙に書かれていたRINE・IDは登録したものの、結局それだけで、俺は未だに挨拶すらメッセージを入れていない。
何度か送信を試みたけど、書いては消して、そしてスマホを放り投げるの繰り返しだった。
これは元々の俺の性格もあるんだけど、やっぱり''あの時"の影響なのか……
「やめとこ……」
俺はあえて、言葉に出してそう呟き、スマホをポケットへつっこんだ。
「やったぜ! さっき花守さんから挨拶してもらえたぜ! しかも"おはよ!"って言葉付きで!」
「うお!? マジか!? 今日大吉じゃん! 」
「いいなぁ、俺手を振ってもらっただけだから、小吉だっけ?」
なんて会話をする別クラスの男子生徒グループが俺の脇をよぎってゆく。
ーーちなみにさっき男子生徒グループが話をしていたのは、花守さんの入学以来、我が校に発生している"かのんちゃんおみくじ"のことである。
至近距離で、言葉と共に挨拶をして貰えれば"大吉"
遠くから挨拶をして貰えれば"中吉"
グループ全体に挨拶をしてくれれば"吉"
と、言った具合の変な習慣だ。
大吉とか小吉って……花守さんはおみくじじゃ無いんだぞ。
とツッコミを入れるも、俺のようなボッチが止められるわけでもなく……まぁ、少しはやっかみがあるのだが……
そんなことを考えていると、あっという間に丘の上にある学校にたどり着く。
いつも通り空気のように昇降口に向かい、下駄箱で靴を履き替える。
「おはよ〜」
と、不意に聞こえた明るい声に、心臓がドキりと鳴り、俺の目線は当然そちらの方へ。
そこには金色の髪を靡かせ、青みかかった瞳を輝かせつつ、さらにグラビアアイドル級の胸を揺らして元気よく、みんなへ挨拶をしている『花守 花音さん』の姿が。
つい先週までは、遠い存在で、自分とは住む世界がまるで違うと思っていた彼女。
だけど、あんなに濃いキャンプを2人でしたのだから、妙に親近感が湧くというか、なんというか。
でもここでみんなの輪を割り、花守さんに"挨拶"をする勇気も根性も、ボッチの俺にはあるはずもなく……結局、人気者の花守さんに背を向けて、教室へ歩き出す。
「やぁ、花守さん」
と、爽やか風の声音で俺の脇を過ったのは、いつも陰で俺のことをとやかく言っている、サッカー部のイケメン袴田くん。
そういや、こいつ、花守さん狙いだって噂があるよな……まぁ、確かに花守さんみたく、綺麗で可愛い子と一応イケメンではある袴田くんはビジュアル面でお似合いだとは思うが……
「あっ! おはようぉ!」
ほら、袴田くんに声をかけられた花守さんもすごく嬉しそうな声で答えているし……
「香月くーーーーんっ!」
「ーーっ!?」
不意に浴びせられた言葉に、思わず踵を返した。
周囲も一瞬、シンと静まり返り、こちらへ視線を寄せてくる。
しかしそんな周囲のリアクションなどまるで気にせず、花守さんはポインポインといった擬音語をつけたくなるほど胸を上下に揺らしつつ、俺に近づいてくるではないか!?
「こらぁー、挨拶をされたら返すのが礼儀だぞぉ?」
「あ、あ、お、おはようございます……!」
「むぅ……言葉遣いっ!」
そーいや、キャンプの時、敬語は禁止って言われてたっけ。
「あ、えっと……おはよう……」
「はい、おはよ! ちゃんと挨拶できてえらいね! にひひ!」
「言葉を返すようで悪いんだけどさ……」
「ん?」
「袴田くんも、挨拶してたみたいだけど、良いの……?」
たぶん、俺の後ろで他の人たちと同じく、唖然としているであろう袴田くんのことを話題にだす。
「あっ! ごめんね、袴田くん。おはよ……で、さぁ、香月くん!」
花守さんはさらっと挨拶を返しただけで、俺へ再び青い瞳を向けてきた。
なんとなく、俺の後ろで硬直している袴田くんの姿が想像できる。
「どしたの香月くん? 変な顔して?」
「あーいや、別に……」
「でも元気そうでよかった! 昨日は寒かったからね! にひひ!」
キャンプの時によく見せてくれた屈託のない笑顔。
あの時は、キャンプに夢中であまり意識をしていなかったが……やばい、この笑顔は! 勘違いしそうになるっ! 頬が熱いっ!!
「あ、あれ? 香月くん、顔赤くなったけど大丈夫?」
「あ、そ、そう……?」
あなたが至近距離にいるからだ、なんて口が裂けても言えっこない!
「もしかして風邪!? 風邪ひいちゃった!? なんか最近、またアイツが流行ってるみたいだから! も、もしかして私のせい!?」
と、ものすごく焦った表情で、さらにググッと迫ってくる花守さん。
もし彼女の大きなお胸がなければ、かなりの至近距離に立ってしていたのはいうまでもない。
「だ、大丈夫! 大丈夫だから!」
流石にこの至近距離は色んな意味でまずいと思ったので、一歩引く。
すると花守さんはわざわざ二歩進んで距離を詰めてくる。
「本当に? 本当に大丈夫!?」
「本当に、本当に、大丈夫だから!」
「あっ……」
花守さんに背を向け、歩き出す。
彼女には悪いけど、いつまでも周囲の好奇の視線に晒されるのはまっぴらごめんだ。
嫌なんだよな、こういう視線……あの時のことを思い出すし……
だけど、やっぱり少しやり過ぎだったかもしれないし、こんな態度を取られたら花守さんは悲しんでいるかもしれない。
そう思い直し振り返るが、すでにそこに花守さんの姿は無かった
花守さんは廊下の隅で、3年生の女の先輩と話をし始めている。
まぁ、そうだよな……人気者の花守さんなんだから、俺程度がいなくても喋る人なんていくらでもいるよな……
などと考えながら、1人で教室へ向かった。
そして窓側の列、その最後尾に位置する自分の席へ着くなり、いつも通り眠そうな雰囲気を装って突っ伏す。
「おはよー! うん、おはよ〜! 今日もあったかいねぇ〜」
普段は周囲の声なんて雑音にしか聞こえない。
だけど俺の耳は確実に、花守さんの透き通るような明るい声だけを拾い続けているのだった。
●●●
ようやく午前中の授業が終わって昼を迎えた。
当然、お昼になったからといって、俺に接触してくる人なんて1人もおらず。
いつも通り、ゆらりと席を立って、昼食として買ったコンビニパンを片手に教室を出てゆく。
今日もいつもの場所で昼飯取ろうかな、と考えていた時のこと……
「あれ……? 今……?」
なんだかスマホが震えたような気がした。
ちなみにスマホが震えていないのに、震えたように感じる現象のことを"
という厨二心をくすぐられるネーミングが与えられているという……ぶっちゃけ、そんなくだらないことを考えてしまうほど、今の俺は混乱している。
そんな中、またしてもスマホが震えたような気が、いや、確実にブルっと今、震えたぞ!?
「まさか、そんなこと……あはは……たぶん、そうこれは……前に無理やり登録させられた、アウトドアショップのDMアカウントから……ああ、もしかしたら父さんから放課後に配達に行けとか……」
あえてブツブツそう呟いて、自分に"期待するな"と言い聞かせつつ、RINEアプリのアイコンをタップする。
花音『今、どこにいるの?』
花音『一緒にお昼食べようよー?』
一緒にお昼? いっしょにおひる……イッショニオヒル……?
花守さんが俺と?
彼女はいきなり何を仰って……?
花音『おーい!』
花音『既読スルーは寂しいかな……』
まずい!? 高校に入ってからずっとこのアプリを親以外と使っていなかったから、開いたら"既読"の表示がつくことをすっかり忘れてた!?
ど、どうする? どうする俺? どう返せば……
花音『やっぱ』
花音『迷惑?」
字面を見ただけで、週末キャンプの夜に、心細そうにしていた花守さんの顔がフラッシュバックし、俺は気がつくと指を動かしていた。
A・Kouduki『そうじゃない』
花音『?』
A・Kouduki『只今移動中』
A・Kouduki『目的地は職員用喫煙所跡地』
花音『ラジャー!』
花音『すぐ行くね!』
……花守さんは、本当に来る気なんだろうか?
にしても、どうして俺なんかと一緒にお昼を……?
【作者からの重ねての大事なお願い】
本作はカクヨムコン10の参加作品となります。
読者選考を通り、先を見据えるためにも、是非作品フォロー・★評価・各エピソードへのいいね・ご感想などをください。いずれも本作の評価の基準となり、躍進するきっかけとなります。
ですので、本作を良いと思ってくださいましたら、些細なことであろうともなにかしらの“アクション”を起こしてくださいますよう、お願い申し上げます。
また併せて作者フォローもしていただけますと、大変ありがたく存じます。
それではどうぞよろしくお願いいたします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます