第3話 俺のキャンプ無双と花守さんのキャンプ飯
「食材を事前に仕込んできたんだ」
「うんっ! その方がいいってネットでみて!」
「で、どうやって調理を?」
「ふっふっふ、私にはこれがあるのだよ香月くん!」
花守さんが自慢げに取り出したのは、折り畳まれたステンレス。
それを花守さんはパパッと組みたてーー
「じゃーん! ポータブル竈門の完成です!」
ああ、これって有名なキャンプ系の漫画の何話かで、焼肉をする際に使ってたやつだ。
「お、おう、そうか……」
さっきのテントの立て方の様子から少々嫌な予感がするけど……ここで口出しするのは良くない。
というか、キャンプに関して、あれこれと手を出すのは、"あの時"の二の舞になりかねないので、まずは見守るものとする。
「ちなみに燃料は何を使う予定で?」
「オガライトを使おうかなって。かさばるから家で事前に細かくしてきたし!」
オガライトーーこれは粉状の木質材料を加圧し、六角形の棒状に成形したもので、簡単に折ったり、砕いたりできる。
ポータブル竈門へキャンプ場で売られている蒔きを入れるには、小さすぎるのが難点だ。
しかしその点を踏まえ、砕いたオガライトを用意したところは、とても良い判断だと思う。
「うわぁぁぁぁ!?」
と、感心している最中、またしても花守さんが悲鳴をあげる。
「こ、今度はどうした……?」
「着火剤、家にわすれちゃった……どうしよう……」
「ちなみに、火付けの経験は?」
「ないです……だから着火剤があったほうが良いなぁって……」
確かに火付の経験がないなら着火剤ほど頼もしいものはない。
俺だって、圧倒的に火付が楽だから、焚き火をするときはつかようにしている。
もっとも、焚き火で体が煙くさくなるのが嫌で、最近はほとんどしないけど。
「ないなら、仕方ない! 火種で有名な松ぼっくりの回収を!」
「ちょっとまって。花守さん、カレーを作るつもりなんだよね? サラダ油とか持ってきてる?」
「あるけど……まさか!?」
「少々お待ちを!」
俺は再び自分のサイトへ戻り、キッチンペーパーのロールを取り出し、再び花守さんのところへ戻った。
早速、丸めたキッチンペーパーをポータブル竈門の中へおき、そこへサラダ油を振りかけた。
そしてサラダ油を十分に染み込ませたキッチンペーパーへ、ターボライターの火を近づける。
すると、キッチンペーパーが油の匂いをあげつつ、赤い炎に包まれる。
「すごぉい! 火種になったぁ! 良くこんな方法思いついたね! すごい、すごい!」
「この方法は配達先のブラジル料理店の人に教わって……あっちの人って、庭先でバーベキューをするのが普通みたいで、この方法を良く使っているとか」
「そういえば、香月くんの家って、酒屋さんだったね! だからいろんな人と会って、いろんなことを知ってるんだね! 尊敬しちゃう!」
実際は家の配達の手伝いなんて、ほとんどしてないし、この手法はたまたま知っただけだ。
だけどこれだけ感心てくれている花守さんの気持ちに水を刺すのはどうかと思うし。
それに彼女の屈託のない"すごい!"という言葉の連呼には、正直嬉しいものがある。
花守さんはとても優しくて、良い人なので……ちょっと、本気を出しちゃっても、変な風に取らないかな?
"あの時"のみんなのように……
「じゃあ、花守さんは竈門の火を使ってカレーを作ってて。俺はその間にご飯を用意するから」
「もしかして香月くんも、竈門を?」
「いんや、もっと楽というかズボラな方法をね」
「なにそれ! 知りたい! すごく興味ある!」
「少々お待ちを」
花守さんのキラキラとした視線を背に受けつつ、またしても自分のサイトへ戻り、色々と必要になりそうなものをかき集め彼女のサイトへ。
すでに花守さんが竈門の上へ置いた黒色のクッカーからはジュワジュワと野菜と肉が焼ける良い音と、香ばしい匂いが上っている。
「おかえり! それでご飯はどうするの!?」
「これでやっちゃおうかと」
まず花守さんへ見せたのは、いわゆるレンジでチンするご飯。
ちなみにこれは、俺が今夜ここへレトルトカレーをかけて食べようと思っていたものである。
「たしかに、それ使ったほうが炊くより楽だね。湯煎もOKだし。でも、入るの?」
花守さんが怪訝な視線を向けてくるのは無理からぬこと。
レンジでチンするタイプのご飯の容器が意外にでかく、標準的なクッカーにはすっぽり全部入らない。
「大丈夫。たぶん、こっちの方が早くしあがっちゃうから先にカレーの調理を!」
「ラジャー!」
なんか花守さんって、いつもこういう感じでノリノリ、元気な雰囲気なんだと思った。
加えて毎回、浮かべてくれる屈託のない笑顔。
これは確かに、モテると、ぼっちの俺でも理解できる。
実際俺も、こうしているのが楽しいし、ほんのちょっぴり胸をドキドキさせてしまっている。
と、俺がそんな心持などとはつゆ知らず、花守さんは鼻歌まじりにカレーを作り続けていた。
ではそろそろこちらもご飯の準備をと、取り出したのはCB缶式ーーカセットコンロとかに使うガス缶ーーに接続するタイプのシングルバーナー。
その上へ水を張ったクッカーを乗せ、お湯を沸かし始める。
「やっぱりその中へご飯を入れるの?」
花守さんはスパイシーでかつ、ほのかに甘い香りをあげるカレーをかき混ぜつつ、問いかけてくる。
「いや、どちらかっていうと蒸す、が正しいかな」
そう答え俺はご飯のパックの表と裏へ、バツじるしのような切れ込みを入れた。
そして沸々と湯気をあげ始めた、クッカーの上へ、パックの表ラベルが蓋になるように置く。
「蒸すってそういうことかぁ! 確かに沸いたお湯の蒸気がご飯を温めてくれるね!」
「通常、湯煎は15分って書いてあるんだけど、この方法だと5分くらいで大丈夫なんだ」
「三倍速! すごい、すごいっ! っと、こっちはもうすぐできるよ!」
「了解」
そうして俺は2人分のご飯を温め、花守さんも焚き火カレーを完成させた。
「わぁ! ごはんツヤツヤ! 美味しそう!」
ご飯のパックを開けて、花守さんは嬉しそうな声をあげる。
そして早速、ご飯を用意したお皿へ盛ろうとするがーー
「ちょっとまった。先にこれでカバーをしないと……」
俺はお皿上へラップを敷く。
「こうすればお皿は汚れないし、ラップを剥ぐだけで、洗い物をしなくて済むよ」
「確かに! ここ水場遠いし、夜は暗いから洗い物する嫌だなぁって思ってたけど、これなら楽ちんだね!」
「でしょ?」
「なんかほんとすごいよ、香月くん! 尊敬しちゃう!」
これだけすごいとか、尊敬とまで言われると、自己肯定感が爆上がりだった。
まぁ、ちょっと気恥ずかしいけど……さらに、そう言ってくれるのが、とても美人な花守さんなのだから……
「じゃあ、はいカレーをどうぞっ!」
と、花守さんはカレーをよそったラップ巻きの皿を差し出してくれる。
まさかこんなところで花守さんの手料が食べられるだなんて……!
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