三~五日目 記憶_?
それから毎日のように氷空は思い出の品を見せたり、思い出話をしてくれた。
渚は、愛されていたんだなぁ、と思った。
そんなある日、
「今日は昨日持ってこれなかった思い出の品、持ってきたんだ。」
「そうなんだ。」
「これ、覚えているか?」
氷空は、一つの石をみせた。
―――これ、知ってる。
頭の中に、記憶が雪崩のように流れ込んでくる。
そうだ、そうだった。
「もちろん、もちろんだよ。氷空。」
「本当か!?」
涙が頬を伝うのはきっと感動のせいだろう。
「うん、全部。たぶん、全部思い出した。」
――――――――
私の名前は、浅木 渚。
高校二年生で、氷空のことが大好きだった。
中学一年生の時、氷空に告白して両思いだったことが判明し、そこから付き合っていた。懐かしいな。
初めてのデートの時に拾った石がとてもきれいで、氷空の瞳の色とそっくりだったから、すごく大切にしてたっけ。氷空の見せてくれた石はその時の石だ。私は一言もその拾った医師の話はしていないから氷空がいったいどうやって手に入れたのかわからないけど、きっと私の母親に事情を話したりして私の部屋に入ったのだろうか。
だとしたら少し恥ずかしい。
きっと片付けられていなくてぐちゃぐちゃで足の踏み場もなかっただろうから。
あー、あの頃に片付けておけばよかったな、なんて思うけどまあ今更なのかな。
母親が今までお見舞いに来なかったのはきっと仕事が忙しかったからだろう。
今まで高校生になるまでに親と会ったことはほとんどなかった。
幼い時は、おばあちゃんがそばにいてくれて、私のことを育ててくれた。
今はもう体調がよくなくて病院に入院しているけれど。
中学生くらいの時の私はとてもひねくれものだったなあ。
クラスの人たち全員が自分の敵に見えてきてしまって、色々あって、大変だったけど、本当に大変だったけど、本当に懐かしい。
どの記憶も、どの時も、氷空を好きになった瞬間から。
私のすべては色づき始めた。
氷空が、私の中の時間を動かしてくれた。
氷空は私のすべてだった。
今回記憶を失ったのが私のほうでよかった。
もしも氷空が記憶を失ってしまっていたら、と考えるとぞっとする。
本当に、良かった。
―――――――――――
「氷空、、、愛してる。」
氷空に向かって渚はそう呟いて抱き着いた。
「ああ、、、俺もだ。。」
二人は抱きしめあった。
そんな二人の様子を沈みかけの太陽は静かに眺めていた。
もう二度と、忘れてなるものかと、渚はそう、思った。
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