六~八日目 どうして

「渚ー!会いに来たよ。」

誰か、男の人が病室に入ってきた。

誰なんだろう。

「えっと、、、あなたはいったい誰なんですか?」

「え、、?ちょ、うそだろ?」

「嘘ではないです。。。本当に、誰ですか?」

「、、、もしかして、忘れたのか?」

「すみません。何か、大切なことを忘れている気がしますが、、思い出せないです。」

「、、、、これ、見て思い出せるか?」

男の人が、石を私に見せた。

「あ!もしかして、氷空、、?」

「ああ、そうだよ、思い出してくれたか?」

「うん思い出した。どうして忘れていたんだろう。昨日思い出したばかりなのに。」

「まだ、記憶が不安定なのかもしれないな。記憶を思い出せたこと自体が奇跡だと医者が言っていたから。」

「奇跡、なんだ、、。」

「ああ、でも、本当に良かった。」

「うん、良かっ_。。。」

「どうしたんだ?」

不思議そうな顔で氷空が問いかけてくる。

答えなきゃ、答えなきゃいけないのに、答えられない。

「ぁ_」

私の様子が変なことに気づいたのか、氷空は医者を呼んだ。

「、、これはまずいです。今までの記憶は一部取り戻したようですが、言語の変換を行う部分が普通とは少し違くなってしまって、、、つまり、話すことができなくなっているようです。」

「え、、?嘘ですよね、、?さっきまで、さっきまで話していたのに、、?」

「ええ、急にこの症状が出るというケースは非常に珍しいです。」

「え、、、?嘘、、そん、な、」

氷空はそう呟いて、茫然としていた。気が付くと医者が説明を終えて出ていこうとしていたのに、それに気づかず、ぼうぜんとしていた。

声を何か、かけてあげたい、そう思うのに、口が動かない。

話せない。

どうして。

なんで。なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで。

どうして、どうしてことばが、でないのかなぁ。

どうして、氷空にこえをかけれないのかなあ。

どうしてよ、どうしてさっきまで話せていたのに。。

「渚、、、泣いているのか?」

ぇ?わたし、ないているの?

氷空に言われて初めて、自分の頬を涙がつたっていることに気が付いた。

涙が、ぽろぽろ、ぽろぽろとあふれて、止まらなかった。

しばらくのあいだ、氷空は泣いている私を優しいまなざしで見つめて、何も言わずに温かい手でなでてくれた。

氷空が優しくしてくれて、うれしいはずなのに、うれしいのに、どうしてだかあふれる涙がより勢いを増すだけで、なかなか止まらなかった。

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