二日目 思い出

「なあ、今日も、来たよ。」

「えっと、、、あなたはどなたなのでしょうか。」

「ああ、俺の名前はそら_氷空だ。君とは恋人だった。」

「そうなのですね。私の名前は何ですか?」

「それも忘れているのか、、。君の名前は渚だ。」

「そうなんですね、教えてくれてありがとうございます。」

「ああ、俺は君のことが好きだからな。当たり前だ。」

「えっ、、、、、」

言われた渚はちょっと頬を赤くした。

「その反応、久しぶりに見た気がする。付き合ったばかりの頃は、そうだったよなー。最近はもうそんなに初々しくなかったけど。」

「ごめんなさい、覚えてません。」

「ああ、そんなに気にしなくていいよ。これから思い出せばいいんだし。」

「はい。少しずつ思い出したいと思います。」

「ああ、そうだ。何か少しでも思い出すための助けになるかなーと思って思い出の品、持ってきたんだ。」

氷空はそういって持っていたビニール袋の中から、何やら狐の仮面のようなものを取り出した。

「これ、今年の夏まつりに行ったときに一緒に買った物なんだけど、覚えてるか?」

狐の仮面、、。狐の仮面、、。

夏祭り、、?

思い出しそう、、、でもなんか思い出せない、、、。

頭の中に霧がかかっているみたい。

「すみません、覚えてないです。」

「そうか。。謝らなくていいぞ。別に持ってきたのはこれだけじゃないからな。」

そう氷空入って今度はマフラーを取り出した。

「このマフラー、覚えているか?」

マフラー、、。

マフラー。。

――そうそう、編んで誕生日の時にあげたよね。私の恋人に。

何か心の中で別の声がした。

でも、、そうなのか、編んであげたのか。

「もしかして、わたし、そのマフラー編んで誕生日の日にあげた、、、?」

私がそう聞いた瞬間、氷空の顔がぱぁぁっとかがやいた。

「思い出したのか!?」

「うーん、、、その一部分だけは、思い出せるんだけど、、、他のことは何も、、。」

「、、そうか。」

しゅん、、、といった様子で落ち込んでいる。

思わず慰めたくなり、手を伸ばして頭を撫でた。

なぜだかそうしてあげなきゃいけない気がした。

撫でた瞬間、驚いたようにこちらを見て、ほほえんだ。

「ほかにも、持ってきたんだ。これは、おぼえているかな_」

次々と、これは?これは憶えてる?と聞いてくる。

思い出の品は、たくさんあったようで、しかもそれをちゃんととってあったようで、素直にすごいな、と思った。

きっとこの人のこと私は_渚は大好きだったんだろうな、この人もきっと私のこと大好きだったんだろうな、、そんな風に思った。

その思い出の品を見て、私は少し思い出した。

自分が誰なのか。

「うーん、じゃあ今日思い出したことは、君の名前は渚で、俺の名前は氷空。俺と君の好きな食べ物は餃子。で、俺の誕生日の時に編んでもらったのがこのマフラー。くらい、だな?」

「うん、思い出したのはそれくらいかな。」

「あ、そうだ。ここはちなみに言うと君の家から近い病院だ。」

「そうなんだ。」

「また、明日会いに来るからな。」

氷空はそう言って病室を去っていった。

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