第8話 もし貴方がそんな領主邸で生まれ育ったら、どうなっていたと思いますか。
「フィノリナ様は、鳴くのは嫌いですか?」
「嫌いじゃないけど、麻雀の先生は鳴かないから」
「その先生が鳴くなって言ってるんですか?」
「んーん、鳴くなとは言われてない、でも見て覚えてって」
成る程、その麻雀の先生が面前型なのか。
だからそれを見たフィノリナ譲も面前型と。
なら、超副露型の麻雀を見せたら、少しは刺激になってくれるだろうか?
俺はフィノリナ譲と選手交代をして、卓についた。
それから俺は、兎に角ポンチーポンチーして、流石にこれは鳴かないという手配以外は全て鳴いた。もしこの一局だけ副露率を換算したら、えらい数字になっているだろう。
東風戦を終らせて振り返ると、フィノリナ譲がなんとも言えない顔をしていた。
取り合えず感想を聞くためにソファーに座って貰って、紅茶を侍女に用意して貰う。
「どうでしたか?」
一旦紅茶を飲んで落ち着いてからフィノリナ譲に問うと、フィノリナ譲もカップを静かにテーブルに置いて此方を見て、そして目をそらした。
「なんか、いけない事してるみたいだった」
「い、いけないこと、ですか?」
その反応は予想してなかった!
じゃあさっきの微妙な顔も、うわぁドン引き、だったってことぉ!
いや、鳴き麻雀しただけで、非人道的行為だけど合法だからセーフな現場を見た様な感想を貰っても……想定とえらい違うんだが。
「マクレンド様みたいな麻雀する人、見た事ないし、なんか、あー……うまく言えないけど! なんか、なんか! でもすごかった!」
逆転勝利ぃ!
なんかよくわからんが、凄かったって言うならプラスの感想って事でいいんだよな?
それなら少しは刺激になったということだろうか?
「何か感じて貰えたなら良かったです。私は、麻雀ってもっと自由でいいと思うんですよ。全然鳴かないのもありだし、私がやったように滅茶苦茶鳴くのもありだと思います。両方やってみて、バランスよく両方使うのもいいです。そのバランスを鳴く方に天秤を傾けるのか、それとも面前に天秤を傾けるのか。兎に角自分に合った、楽しいと思えるスタイルを見つける事が重要だと思います」
「……楽しいと思えるスタイル。マクレンド様! 私いっぱい鳴く麻雀やってみたい! けど、初めてで上手く行くか分からないから、後ろからサポートして欲しい!」
「わかりました」
折角だと言って、手が整っていて普通は鳴かない手でも、いっぱい鳴き麻雀をやるフィノリナ譲。
やった事のない麻雀に最初はあたふたしていたが、だんだんと慣れてきたのか、ゆっくりではあるが、何処なら鳴けるか配牌から考えているようだった。
初心者鳴きあるあるの、役が行方不明をたまに挟んで、それでもガンガン鳴いて行った。
昼食をはさんで今度は俺も含めて卓を囲む事半荘3回、一旦休憩となった。
「鳴くのって思ったよりも楽しい! 難しいけど! あと点数が物足りない!」
「鳴いても高い手は有りますけど、リーチ自摸みたいな爽快感というか、そう言うのは無いですね。なので、フィノリナ様はバランス型を目指すのがいいのかもしれませんね。後はどの程度の手を鳴くのか、鳴かないのか、それはやってみながら調節しましょう」
「マクレンド様に相談しながら麻雀を打ってもいい?」
「勿論です」
という事で、今日は一日、フィノリナ譲の、どの程度の手を鳴くのかの相談で終わった。
翌朝、日課のウォーキングをしていると、フィノリナ譲がツカツカと歩いてきた。
「おはようございますフィノリナ様」
「おはよう! マクレンド様! マクレンド様はお散歩中?」
「はい、ちょっとでも痩せようと思いまして」
「え!」
お散歩というよりはダイエットの為にやっているので、その事をお伝えすると、ピシリとフィノリナ譲が固まってしまった。
「フィノリナ様?」
「えっ、あー、無理なダイエットはしない方がいいと思う! 私達まだ成長期だし! いっぱい食べて寝てダイエットは大人になってからの方がいいと思う!」
ずいっと顔を近づけられて、まくしたてられた。
「でも、もうちょっと痩せた方が将来旅に出るにもいいので……」
「そんな事ない! 私の家に来る商人さんも旅してるけど大きいから!」
なんだこの勢い。
ダイエットされたら困る事でもあるのか? いや、ないだろう!
むしろ結婚するならすらっとしたイケメンの方が女子的にはいいんじゃないのか?
ハッ! もしや実は好きな人がいて、その人と結婚するために俺をデブのままにして、私結婚する人はすらっとしたマッチョがいいからって婚約破棄したい狙いかッ!
実は騎士団の息子と良い仲になっていて、なんとかチャンスを窺っているとか。
「あのフィノリナ様、もしかして好きな方がいらっしゃるのですか? 婚約破棄がされたい様なら、全然かまいませんよ」
「えっ? いきなりどうしたの? 好きな人とかは、いないけど……」
違うんかい!
じゃあなんでダイエットさせるのを止めさせるんだよ。
逆にパパみたいな人がタイプなの~って言うパターンだとしたら、ウォーキングじゃなくて筋トレしろって事か?
なんか、太ってから筋肉付けた方が体が大きくなるとか、どっかで聞いた事があるぞ! 本当かどうかは知らないけどな!
「えっと、ウォーキングじゃなくて筋トレして欲しいってことですか?」
「筋トレはした方がいいと思うけど、違う。マクレンド様はまだ6歳だし、過度の筋トレは逆効果だし」
違うんかい!
と言うか、筋トレについて詳しそうだな。
実はゴリマッチョになる秘訣とかが、領内で定着しているのか?
「もう単刀直入に聞きますけど、なんで痩せさせたくないんですか」
「……だって……」
「なんですか?」
「だって細い男なんて男として見れないんだもん!」
うぉ、いきなり声量がデカい。
「私は産まれた時からお父様や騎士の皆に囲まれて暮らしてきた。周りにいる男は、執事から商人まで太い筋肉か太い脂肪の男の人だけ! だから私にしたらソレが男の人だったの! でも違った! 外に出て知った! 男の人が細い! びっくりした。それからドン引きした。えっあれ男? うそぉってなった。マクレンド様に会って、まだ薄いけどぽっちゃりしてて安心した。私の婚約者はちゃんと男の人だったって。でも今細くなろうとしてる! 嫌! 男の人のままでいて! お願い!」
あっけに取られてその場て固まっていると、もう一度「お願い」と言ってフィノリナ譲が頭を下げた。
「取り合えず頭を上げてください、えーっと、理解は追いついてないですけど」
つまり、フィノリナ譲はゴリマッチョ&デブ専ってことぉ?
えーいや、でも、えーそんなことある?
というか普通になんじゃそりゃ!
フィノリナ譲にもなんじゃそりゃ! だけど、それ以前にその二種類の男しかいない領主邸ってなんだよ! 執事さえもゴリマッチョかデブなんかーい!
「……ちょっと考えたいんで、朝食の後、また私の部屋でお待ちしてます」
それだけ絞り出して、一礼をしてフィノリナ譲と別れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます