第7話 山賊の風体
帝国の辺境伯3か所をおさらいしながら麻雀をする事1週間。
とうとうその日はやってきた。
今日は辺境伯をお迎えするという事で、俺もいつもよりも貴族風な服装をしている。例えばジャボを付けさせられたり。
先触れがあり、一家総出で玄関へと向かう。
直後に到着した馬車から降りてきたのは、茶髪坊主のゴリマッチョ。
辺りを一瞥してすっと横にずれると、スキンヘッドの大男、此方もゴリマッチョが現れた。
多分あの人が辺境伯その人なんだと思うのだが……。
絶対に言ってはダメだと分かっているが心の中で言わざるを得ない。
山賊の方が似合ってるな!
そして、その奥からブロンドの長髪を揺らしながら、可愛らしい少女が降り立った。
目がぱっちりとしているためか、儚げというよりも溌剌とした印象だ。
「ようこそいらっしゃいましたフェジェス辺境伯」
「やめてくれ、堅苦しいのは無しにしよう。久しいなクレメント」
「ハハ、変わらないねデール」
辺境伯と父親はお互いに頬を緩めながら握手を交わした。
「さぁ玄関ではなんだから、案内するよ」
「頼む」
俺達は応接室へとやって来て、当主が各々の紹介をしてくれた。
馬車から最初に出てきたのは、護衛の隊長でアイバーさんと言うらしい。
そして本題の俺の婚約者である、辺境伯長女のフィノリナ・フェジェス譲。
辺境伯に紹介されて、はきはきと自己紹介をしてくれた。
今は9歳という事なので、3歳年上だ。
どうやら両親と辺境伯は学園で同級生だったらしく、婚約者同士でという体のいい追い出し文句を貰い、楽しそうに話す同窓会の空間を後にした。
取り合えず今日は天気も悪くないので、庭園のガゼボでお茶をすることになった。
お互い向かい合ってお茶を一口飲んでから、フィノリナ譲が口を開いた。
「えっと、改めてね! 初めまして、フィノリナ・フェジェスです。フェジェス辺境伯ってところから来ました!」
「初めまして、マクレンド・アリトスハインドです。よろしくお願いします」
「マクレンド様はまだ6歳だよね? 凄い落ち着いてる。私が6歳の時なんて庭を駆けまわってたのに。今でも駆けまわってるけど」
そう言ってへへと笑うフィノリナ譲。
うーんこれはかわいい!
なんだろう、父性本能を刺激するというか、滅茶苦茶頭撫でてあげたい。流石に性的な欲求は湧いてこないけど。
それに、流石に6歳の俺からは言えないけど、フィノリナ譲も9歳とは思えない程落ち着いている。
小学校に換算すると、3年生くらいか。女の子の方が成長が早いというし、しかも貴族教育を受けているだろうから、これだけ落ち着いていても納得だ。
「マクレンド様は、フェジェス辺境伯が何処にあるか知ってますか?」
「はい。此処から更に南に行った山脈の手前ですよね。そこからくる強い魔物を帝国に入れないようにする、大事な領地だと習いました」
「凄い! ちゃんと勉強してくれたんだ! ありがとう! そうなの、家って魔物が襲ってくるから危険だけど、だからみんな鍛えてるんだ!」
自分の故郷の事を知って貰えているということで、花が咲くような笑顔になった。きっとフィノリナ譲は辺境伯が好きなのだろう。
「もしかして、アイバー様みたいな人がいっぱいいるのですか?」
「うん! 皆あんな感じ!」
暑苦しッ!
想像しただけで暑苦しいわ。
そりゃまぁ強大な魔物に対抗するのに必要かもしれないから声には出せないけど、それでも暑苦しいもんは暑苦しい。
次の話題は、普段どんな風に過ごしているのかと交互に話し合った。
フィノリナ譲は、自衛が出来るように剣術を習っているとか。後は貴族の勉強をしているけれども、体を動かしている方が好きだから、座学はなんとなく落ち着かないらしい。
その後、侍女が夕食の時間だと迎えに来るまで話し、共に食堂へ向かった。
今日は特別な日なのでコース料理が出てくるかと思ったが、いつもよりも質のいい肉を使ったステーキが出てきた。
食事が終わりひとごこち付いていると、唐突に辺境伯から声を掛けられた。
「マクレンド君はよく麻雀をするそうだな」
「はい」
「フィノリナは余り麻雀をしなくてな、どうやら私に似て不得手らしいのだ」
「お父様!」
勝手に麻雀が苦手な事をばらされたフィノリナ譲は、辺境伯をキッと睨んだ。
「ハッハッハ! そう言う訳でな、良ければ滞在中はフィノリナに麻雀を教えてやってくれ」
「……わかりました」
断りたいが、流石に断れないか。
正直、人に麻雀を教えられるほど、俺は麻雀詳しくないんだよな。自分で楽しく打つ分にはいいんだけど、先生役は無理……。
なんとか誤魔化しながらやるしかないか。
最後の最後で憂鬱な気分にさせられた夕食会は、その後すぐにお開きになった。
自室に帰ってからも、どうやって教えようかと頭を悩ませた。
いや、先ずは話しを聞いてみない事には進まない。
兎に角明日だ明日。
明日の俺がなんとかしてくれるはずだ!
翌朝、各々朝食を摂り終わり、俺は侍女さんにフィノリナ譲を自室に呼んできてもらった。
お互いにソファーに座りながら、今日は俺から声を掛けた。
「えーっと、麻雀ですけど、何が嫌いとかありますか?」
「……負けるのが嫌い、それからずっと聴牌しないのも、ムズムズする。あとつまんない」
「確かに負けるのは悔しいですよね。うーん、取り合えず、一局やってみて貰ってもいいですか?」
「分かった」
という事で、侍女さんに頼んで人数と麻雀卓を用意してもらった。
段位戦は例の空間でしか出来ないが、麻雀の勉強や手軽に打つために、実際の牌も流通している。基本的には手で混ぜて積むが、家は貴族なのでダンジョンでたまに宝箱からドロップする、全自動卓を所持している。
王道RPGのダンジョンの宝箱から全自動卓が出てきたらシュール過ぎて笑えるな。
まぁこの世界だと貴族が高く買い取るから、換金アイテムとして人気らしいけど! ダンジョン関連の本に書いてあった。
そんなどうでもいい事は頭の片隅に追いやって、後ろからフィノリナ譲の手を見る。
うーん、配牌は良くないなぁ。ラスが続いていて鬱になってる時にこの配牌来たらキレるな。
実際フィノリナ譲も顔をしかめている。
それでも麻雀は配牌が悪くても自摸が良ければ勝てる。
実際フィノリナ譲の自摸は悪くない。
孤立の場風牌が重なり、更に自風牌も重なった。萬子と筒子はカンチャンペンチャンしているのでそこを払って、索子のホンイツで満貫が狙い目か。
だがフィノリナ譲は鳴ける牌が出ても鳴かず、結局他の人が和了ってしまった。
次の局は配牌も良かったが、ずるずると聴牌せず、他の人からリーチも掛からないまま、あと2順のところまできて、チーをすれば聴牌を取れるが鳴かず。
……フィノリナ譲は超面前型麻雀なのか。
そんなこんなで東風が終わった。
取り合えず南入せずに、フィノリナ譲に幾つか質問してみる事にした。
ーーーーー
あとがき
近況ノートに出てきた麻雀用語の解説を載せる予定です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます