第6話 流石に皇子は問題がある。



 は? なにそれマクレンド知らない。

 もしかして実はちゃんとした保険に入っていた状態だったのか!

 待て待て、って事は何か? 何かしらの安全策を施されていたが、俺は知らなかったので勝手に職業を取ってしまったと。


 マ ズ イ


 いや、でもこれ俺悪くないだろう。

 それならそうと先に言っておいてくれよ!

 これで叱責されたら、いい子ちゃんのマクレンドのままじゃいられない。

 グレグレのグレだぞ!


 思考が纏まらないうちに、父親がチラリと侍女に目をやるのが見えた。

 侍女は一つ頷き、有無を言わさず俺の上着を剥ぎ、後ろを向かせた。

 6歳児の抵抗なんて無意味さっ。


「ふむ」


 俺の背中に向けて唸る父親。


「付与術は切れていないね。使い切りの付与術なんだけれどもね。服を着せて上げて」

「畏まりました」


 またも早業で元通りになった。

 流石長年父親に仕えている侍女は仕事がはえぇや……。


「さて、なんとなくわかるけれどね、一応マクレンドの口から聞かせてくれるかい?」

「はい……。先生に外へ連れ出されそうになった時、あんまりにも怪しいから、結界術を取りました。なんでか取れたし、丁度良かったので。勝手に職業を取ってごめんなさい」

「謝れるのは偉いが、今回は仕方ないから謝る必要はないよ。むしろその歳でそこまで考えられるなら大したものだよ」

 

 よかった……。

 仕方ないとはいえ、何かしらお小言があるかもしれないと思ったが、逆に褒められてしまった。


 そう言えば俺6歳だったわ。

 6歳が自分で判断して自衛したんだから、そりゃ褒められこそすれ怒られないか。


「結界術が取れたのは、アリトスハインド家の子は皆、結界術を付与されるから、それで取れたのだろうね。アリトスハインド家の子が何故結界を付与されているかと言うと、こういうことがあるからだね」


 それに関しては、身をもって知りました。


「さて、それじゃあこれを使うといいよ」


 父親はそう言って執務机の引き出しから、七色が混ざり合う球体を取り出した。


 なんだそのなんか、なんだ? 何とも言えない色の球体。

 夏祭りのスーパーボールすくいのデカイやつがあんな色してるのを見たことがある気がする。もうちょっと透明度が高ければ綺麗なのかもしれないが、この球体をお世辞にも綺麗だとは言いずらい。


「これは職業戻しの宝玉と言って、たまにダンジョンの宝箱から出てくる物なんだよ。これを使えば、取得した職業を破棄してポイントに戻す事が出来る」


 つまりこれを使えば俺は結界術を綺麗さっぱりポカンと忘れて、麻雀のポイントが元に戻ると。


 いや、そんなことしないが?


 折角の自衛が出来る職業を態々手放さないだろ!

 さっきの付与があるからいいだろうって事か? でも使い切りで一回使ったらお終いなら結界術持っていた方が安心安全!


「結界術そのままにします」

「いいのかい? マクレンドも麻雀の授業でやったろう? 職業を2つ取得した後、3つめ以降を取ろうとすると、必要なポイントがどんどん高くなって行くんだ。だから最初の2つは将来の事をキチンと考えて取らないといけないんだよ。だから、職業を勝手にとってはダメなんだ」

「でも旅に出るなら、結界術あった方が良いかなって、思います」


 というか、麻雀の授業で習う内容じゃないよな!

 なーんで麻雀の授業で職業の話になるのか。

 そう言う世界なんだけどな!

 前世の記憶がある俺からすると違和感しかない。


「……そうか。もし気が変わったら言いなさい。これを使うのに、職業取得後何日までと言った制限はないから、いつでも使えるよ」

「わかりました」


 正直俺にはチートがあるから、取得に必要なポイントは100分の1だし、ポイント獲得制限もないから他の人よりもポイントが稼げる。だからそこまで気にしなくてもいいが、もしそれが無かったらと考えると、確かにかなりの死活問題だろう。


「それから、全くの別件だけどね、マクレンドに婚約者が出来たよ」

「え!」


 は? いきなり婚約者?

 いやいや、今迄お見合いのおの字も無かったのにいきなり婚約者?

 と言うか話変わり過ぎでは?


「驚くのも無理ないと思うけどね、そんなに難しく考えなくていいよ。他国は違うけれども、帝国貴族にとって、皇族の血が関係しない婚約なんて、あってないよなものなんだ」

「そうなんですか?」

「うん。男爵や騎士爵は別だけれども、伯爵家で婚約者がいないと、その子には何か問題があるんじゃないかと思われてしまうんだ。だから、実際将来に結婚しないにしても、家の子は何処に出しても恥ずかしくないですよ、と宣言するために婚約するんだよ」

「婚約者と結婚するのは珍しいですか?」

「いや、半々くらいかな。婚約者になれば会う頻度も高くなるしね。良く知らない人よりも、昔から知っているこの人でいいか、となるんだよ。それに、婚約者はほぼ同程度の爵位の貴族家で交わされるのが殆どだから、過ごしてきた環境も似ているからね。ただもう半分くらいは学園で知り合って結婚したり、パーティーでアタックして結婚したり、そういった恋愛結婚も少なくないよ」


 意外だな。

 婚約者なんてもっとガチガチなもんかと思っていたけど、帝国に関してはそんな事ないのか。

 実際のところは分からないが、前世では婚約破棄物なんかも多かったしな。あれは前提として、婚約はそのまま履行されるものだからこそ、破棄することによってストーリー性が産まれるんだろうし。

 

 でもこの国は婚約破棄なんて当たり前にあるらしいから、そこまで騒動になったりはしないのか。


「ただ、皇族や公爵家は、国政に深く関係があるから、もし婚約したらそのまま結婚だね」


 そんな事なかったわ。

 流石に皇子様が婚約破棄したら問題らしい。

 そりゃそうか。


「まぁもし皇族が婚約破棄なんてしたら、家の出番かもしれないね。背後関係はきっちり洗って、あまりにもひどいようなら、対処しないといけない」


 にこっと笑った父親だが、目は笑っているように見えない。

 6歳児になんて話ししてんだよ! 

 やめてー、フラグにならないでくれー。


 翌日学園に行ったら、唐突に誰かが家の事情で学園から居なくなっている、みたいな感じになりそうだ。


 うん、まぁこのゲームは乙女ゲーじゃないし、その辺は安心していいだろう。

 いいよね女神様! 大丈夫なんですよね!


 まぁいい、まぁいいとしか言いようがない。将来の事は分からない。そうなったとしても、早々に俺の出番はない。対処は俺じゃないて家がすることだろう。


 そんな事よりも重要なのは、俺の婚約者がどんな人なのかという事だ。

 正直気になる。


 恋愛結婚も悪くないと思うが、気心の知れた人と親友の延長みたいな家庭にも憧れがある。

 それに、正直に言えば、結婚の事よりも主人公の方を優先しないといけないから、恋愛とかしてる暇ねぇ。

 そこんとこ行くと、婚約者っていうのは有難い話しだ。


 ……まぁ相手方が、こんなにほったらかされたら無理って、他の人と結婚する可能性を除けばだがな! 

 それが一番有力じゃあないかな!


「それよりもマクレンドの婚約者のご令嬢だけれどもね、本来はあちらの方が爵位が上なので此方から挨拶に行かないといけないのだけれども、丁度王都にいるらしくてね、帰りにこの街へ寄ってくれるそうだよ。折角だから、色々と知り隊だろうけど、詳しくは内緒だよ」


 先程とは違い、今度は楽しそうな笑みを浮かべて唇の前で人差し指を立てた。


 クッ、イケメンがやると絵になりやがる。

 俺もこの人の遺伝子継いでるし、大人になったらイケメンになれるだろうか。

 それはそれとして、爵位だけは聞いておこう。

 それで公爵が飛び出して来たら最悪だ。だって決まりって事だからな。

 ……まぁ話しぶりからしてなさそうだけれども。


「伯爵よりも上だと、侯爵ですか?」

「いや、辺境伯だね」


 成る程、そっちか。

 となるとどこの辺境伯になるかだが、このいたずらっ子の顔をした父親は教えてくれる気が無さそうだし、全部勉強しとくかぁ。

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