第4話 職業選択タイムアタック




 どうする? 応援を呼ぶか? でも俺の教師として入り込めているような人間だし、絶対にバレるだろ!

 ばれたら最後、ブスリなんてこともあるか?


 ヤバイぃぃぃぃ、早くしないと戻って来る!


 こうなったら防御系の職業を取るしかない!


 落ち着け、今焦って間に合わなかったら終わる。


 落ち着いて職業を呼び出し、そして前々から目を付けていた結界術師という職業を選択。

 そしてポイントを使って下級をマックスのレベル10へ、それから中級もレベル10へ、更に上級を開放して一気に10へ!

 

「ウガッ」

 

 その瞬間、脳に多量の情報が流し込まれ、思わず立っていられなくなる。

 

「ふぅ」


 しかしほんの十秒ほどで収まり、立ち上がることができた。

 直ぐに扉の方へ振り向くが、先生が帰って来る気配はない。


 セーフ! 間に合った。

 まだ時間はあるか?


 一応、ステータスを確認しよう。



―――



N:マクレンド・アリトスハインド


R:人間


J:上級結界術師


S:【結界術】【魔力操作】【魔力回復上昇】


―――



 簡素なステータスだが、見やすいので今は有難い。

 確かに職業の選択とスキルを習得出来ている事を確認して、素早くウィンドウを消す。


「お待たせいたしました」


 ウィンドウを消した瞬間、先生が入って来た。


 ギリギリセーフ! なんでこんなことになってるんだよ!

 教師の人選位もっとしっかりやってくれよ!


「はい」


 俺は何事も無かったようにしっかり頷いて、差し出された先生の手を取った。


 屋敷での行動は大胆で、コソコソと歩くことなく堂々と屋敷を出た。

 流石に表の門から出る事はせずに、先ず一度庭に出て、そこから使用人が使う通用口を通り街へと出た。


「おぉ」


 自分が今中々にリスキーな状況にあると分かっていても、それでも、まるでアニメの中に入ったような世界に自分が立っている状況に、思わず感嘆の声が出た。


「それでは行きましょう」


 通用口で待っていた三人の騎士の格好をした人を連れて、品のいい商店や屋敷が並ぶ道を歩く。


「此処は領都の中でも最も治安のいい場所です。領主邸や引退した騎士爵をお持ちの方等の屋敷が連なります」


 暫く歩くと、2メートルほどの壁が見えてきた。

 

「あれは、この区画と一般の平民が過ごす区画とを隔てる城壁のようなものです」


 壁には門が埋め込まれており、そこに兵士が二人立っていた。


 先生は懐からカードの様な物を出して兵士に差し出すと、兵士は一つ頷き先生にカードを返した。そして門を開けてくれる。


 眼前に飛び込んできたのは、人々が行きかう商店街のような雰囲気の道だった。


 俺がはぐれないようにしながらも、きょろきょろと辺りをお上りさんしていると、先生が解説をくれた。


「此処は商業エリアになります。青果や薬、武器や洋服、それからアクセサリーまで、様々ま店がこの通りに存在しています。そしてこの大通りに店が出せる事が、この街でのステータスとなります」

「この道以外にも店はあるのですか?」

「勿論です。もう一本横の路地に入っても、同じように様々な店が営業しています。それに、露店等も行われています」


 露店!

 前世では全く馴染が無いが、異世界ファンタジーの露店と聞くと、ワクワクしかないな!


 っと、あまりはしゃぎすぎるのも禁物か。どう考えてもはしゃいでいていい状況では無いしな。

 それでも一つ安心した事があると言えば、市井の人々の顔色や表情が悪くないことだ。

 もし、家がテンプレ悪役の様な存在だったら、税金を絞りに絞って、街全体の活気がなくなっているはずだ。だが、商店が繁盛して活発にやり取りがされているならば、領民の見えるところでは、まともな領主なのだろう。


 そこから少し街を移動する乗合馬車に乗って住居エリアへとやってきた。

 馬車には何か特別な魔道具の様な物が取り付けられているようで、街中に馬糞が転がっているなんて事は無かった。

 これに関しては、家のトイレが水洗式な事を考えて、なんとなくは分かっていた。

 

 ……まぁ、元がゲームの世界だから、そういうところはリアルにしないでファンタジーにするのは、お決まりっちゃお決まりか。

 そのおかげで快適に過ごせるんだから、文句なんて全くない。


 住居エリアを更に外壁の方へと進むと、段々家の造りがみすぼらしくなってきた。

 今まではレンガ造りの家々だったが、この辺りは木造建築の様だ。

 そして更に奥へ行くと、家というより納屋の様な家が増えてきた。


 ここは、所謂スラムという所なのだろうか?

 ファンタジーの知識しかないが、もしスラムだというのならば、もっと壁に寄りかかった人とか、ごろつきとかがいるはずだと思うのだが、先程から行きかっているのは、痩せた主婦が多いように見受けられた。


「此処は貧民街です。主に農奴が住んでいます」

「農奴……」

「はい、村から出てきたはいいが、仕事にありつけなかった人や、軽犯罪者の労役等に使われています。この辺の家は、村から出てきたり、仕事が無かったりと言った方が多いです。もう少し外壁の方へ進むと、労役を行っている人々の住まいがあります。そこは、逃げ出さないように監督役の兵が見張っています」

「畑はこの辺りにあるのですか?」

「いえ、外壁を出た先になります」


 それは……結構危険な仕事場だな。

 この世界には魔物がいるから、もし襲われたりしたら無事では済まないだろう。

 だからこそ、犯罪者の労役になっているのかもしれないが……。


「着きました。さぁ中に入ってください」

「え?」


 まさか目的地があると思わず素っ頓狂な声を出してしまう。

 

 攫われるならもっと路地裏で攫われたりするのか思っていたけれど、まさか拠点に招待を受ける事になるとは……。

 思わず一歩足が後ろに下がると、固い何かが背中に当たった。

 上を見上げてみると、無表情に此方を見下ろす護衛騎士の顔があった。

 

 あ、はい、逃げられないわけね。

 そりゃまんまとこんなところまでご足労させて、それじゃあって返してくれるわけないよな!

 

 俺は瞬時に自分の体に纏わりつくように結界を構築し、言われるがままに家の中へと入った。


 扉が閉まった瞬間、手を後ろに回され縛られ、同時に足も縛られる。

 そして口を開けさせられ、布を噛まされた。

 因みに全て結界の上からなので痛くない、それに結界を周囲に押し進めればこの程度の拘束は直ぐに解けるだろうと感覚で分かった。


 そのまま部屋の隅に置いてあったぼろい木の椅子に座らさせられた。


「よぉ、随分と手際よくやったじゃねぇか」


 家の中にいた細身でやせ型の無精ひげを生やした男が、ニヤッと笑いながら先生に話しかけた。


「……そうなんだけど」


 対する先生は苦虫を嚙み潰したような顔をした。


「なんでそんな顔をしているんだ、お前の手並みは鮮やかだったぜ。まんまと使用人をだまくらかして坊ちゃんを此処まで連れてこれたんだからよ」


 護衛の男は努めて明るく先生へ話しかけたが、なんだかそれがカラ元気に見えた。


「早くここから出た方がいいわ。計画は一度」


 先生が話している途中に、玄関の扉がものすごい音を立てて開かれた。

 そこに居たのは、一発で酔っ払いと分かる酒瓶を手にした禿げたおっさんと、買い物かごを手にした、先程すれ違ったような気がする、この辺ではスタンダードな衣服の主婦? だった。


「人様の家に勝手に入ってきやがって! なんの用だ!」


 元々家にいた男が怒鳴りながら侵入者へ近づいて行く。

 それに反して、先生は俺へと近づき、椅子の下に括り付けてあったナイフを引き抜いた。


 その瞬間、俺は結界を押し広げて全ての拘束を引きちぎった。

 

 何故なら、あの二人が助けだと分かったから。


 先生は結界を壊そうとナイフを振るうが、全て結界に弾かれている。

 

 見たか! これが上級職業レベマの力だ! 

 とは言え早く決着付けてくれ! これ、使っている間はずっと魔力を消費するタイプなんだ! まだまだ余裕とはいえ、初めて使ったからいつ切れるか戦々恐々なんだよ!


 俺の願いが通じたのか、俺が拘束を破ったことに敵は動揺し、その隙をついて二人はさっさと賊を買い物かごに入っていたロープで拘束していく。

 その手並みのなんと鮮やかな事か。衝打と体術で相手を床に叩きつけ、その間に手足を縛った。


 先生はその光景に苦笑いを浮かべ、抵抗せずに拘束された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る