第3話 貯金は必要だからやっているのであって、別に好きではない。
麻雀は時間泥棒である。
気が付いたら、俺が転生してから一年が経った。
この一年、俺は麻雀と勉強を続ける変わりのない日々を過ごしてきた。
まだ職業にポイントを振る事は許可されていないので、経験値は溜まる一方だ。
因みにレートは2020となっており、経験値は13250ポイント溜まっている。
「はぁ」
ベッドに入って寝ているふりをしながら、ホーム画面を開く。
慣れた手つきで職業をタップしてため息が漏れた。
これだけポイントが有るのに使わないとか、生殺しが過ぎるだろぉぉぉ。
女神様の仰った通り、俺にはチートと呼べる機能が解放されている。
職業もそうだ。
本来職業は、ある程度訓練をすると、職業として選択できるようになるらしい。
それが俺の場合は、最初からユニーク系の職業以外は全て解放されている。いや、解放されていると言うのは語弊がある。こういう職業無いかな? と考えるだけでその職業かそれに至るための職業が選択できるようになってしまう。
うーん、これはまごう事無きチート。
しかも、職業の解放や、職業のレベルを上げるのには麻雀で稼いだ経験値を使う必要があるのだが、俺は他人よりも約100分の1のポイントで職業の解放やレベルを上げる事が出来る。
なので、最近はもっぱら将来どういった職業をどの順番で解放しようか悩んでいる。
特に俺は主人公を助けるという契約の元この世界に転生させて貰ったわけだから、それを蔑ろにすることはできない。
出来なくはないが、した後が余りに恐ろしい。
マジもんの神罰がくだるだろうしな。
こっそりポイント使って職業解放しちゃえばいいじゃないか! と、心の中の悪魔が囁いてくるが、天使がばれた時のデメリットをコンコンと説いてくるので悪魔も不貞腐れている。
折角この一年頑張っていい子ちゃんを演じているのに、態々それをぶち壊す事はないよな。
因みに、無口キャラは色々と不便になって来たので、現在はある程度話すようになっている。
きっかけは麻雀のレート戦が始まった事で、麻雀に関して家族や先生とよく話すようになったからだ。
いやぁー本当にいいタイミングで記憶を思い出せたものだ。
後は、ちょっと不安な事がある。
それは家についてだ。
家が伯爵家のお貴族様である事は勉強で知っていたが、ちょっと不穏な感じなんだよな。
家族仲は良いし、執事や侍女とも仲のいい家族ではあるんだけど、初めて来る商人だったり、メイドだったりをたまに見かけた時、皆一様に緊張しているのが此方にも伝わってくるほどド緊張していた。
確かに伯爵家に不敬を働けば色々と不味い事になるだろうけど、例えば商人は他の貴族とも関係があるだろうし、メイドは偶に男爵家の令嬢が来ることもある。
だから貴族という存在にはある程度慣れていても可笑しくないのに、冷や汗が見えてくる気がするほど緊張している。
それでふと思った。
もしかして家ってなんか裏でヤバいことしてる? と。
例えば税をこれでもかと上げたり、領民を人とも思わぬ所業を行ったり……。
それを含めて、この世界がゲームな事を考えると……。
悪役、なんてこともあり得るわけだ。
しかもテンプレデブ悪役貴族ではなく、なんか裏で暗躍している系の悪役。
違うって言いきれないのが怖い!
女神様に、ストーリーについてもっとちゃんと聞いておけばよかったな。
なんかテンプレの魔王とか教団とかいるよ、くらいのふんわりとした知識しか教えて貰えてない。後はミッション? とやらで教えて貰えるらしいが、今のところホームにもステータスにも職業にも麻雀にもそれらしいものは無い。
まだ主人公が産まれる前、とかなんかな。
それだと俺が中年になってからストーリーが始まったりするかもな。
まぁとりあえずは、職業が選べないとどうしようも無いし。麻雀、麻雀、麻雀か。
悪役では無いかという疑念は覚えるが、それを確かめるすべもなく、日々勉強と麻雀に勤しんでいたところ、新たな勉強が追加された。
それはダンスである。
前世での運動神経は並であったが、この体はぽっちゃりなのによく動く。別に運動をしているわけでもないのに、だ。
そう言えば記憶力や頭の回転も前世と比べるとえらい良くなった。
例えば麻雀の手出し自摸切りが楽に覚えられたり、相手の手の考察の深度も増した。
もしかしてこれもチートのうちなのだろうか?
考えられる理由としては、様々な職業に適応できるような体になっているので、スペックがその分必要だった、なんてのはどうだろうか?
まぁいくら考えても分からないので、これは放置で。
とはいえやはりこの体型だとダンスには不利である。
世界を回る必要もあるし、取り組むか、ダイエットに!
前世で上手くいった例のないダイエットに!
取り合えず今日は昼食を食べたら庭を歩いてみようか。
日課にウォーキングが追加されて、偶に弟のオーランドに絡まれる。
オーランドは家の騎士に剣術の稽古をしてもらっているようで、授業がある時間も、授業がない時間も熱心に素振りをしている。
「レン兄様も一緒に剣術やろうぜ!」
「遠慮しとくよ」
「ちぇー」
ぶんぶんと素振りをしているオーランドを見ながら、やはり最初は魔術系、もしくはテイムや召喚系の職業にしようかと考える。
だって魔物に近づくのは怖いからな!
ある程度争いから離れた場所で生きてきた俺が、いきなり剣を持って魔物をばっさばっさと無双していくのは、どう考えても無理だ。
勿論能力的には出来るだろう。だが、絶対にへっぴり腰になって見れたもんじゃないだろう。
先ずは戦いに慣れるために、遠距離攻撃から。
物理的な距離を稼ごう。
でもやっぱり剣でバッサバッサは憧れるよなぁ。
俺も何時か戦いに慣れて、鍔迫り合いとか魔物の懐に入って切り抜ける、みたいな格好いい剣士になれたりするのだろうか。
そんな事を夢想していた翌週。
本日はダンスのレッスンデーである。
先生は何処にでもいる、ちょっと幸薄そうな女性だ。しかしダンスになると有りないほど華がでる。
今日は少し長めのレッスンを行うことになり、途中の休憩で外を眺めていると、先生が背後にやってきた。
「マクレンド様は外に興味がおありですか?」
「うん、街の様子とか見てみたい」
「一度も街へは行った事が無いのですか?」
「うん」
「でしたらこれから行ってみますか?」
「え」
「街、行ってみたくないですか?」
「行ってみたい」
「では、着替えましょうか? 着替えは此方ですね」
先生はそう言うとクローゼットを物色し始めた。
……いやッ勝手に決めちゃダメだろ!
俺は伯爵家の令息だぞ! そんな親戚の子共とこっそりお外へ~、なんて気軽さで街には行けない!
と言うか、護衛はどうするつもりだ、今から集めるのか? それとも実はお父様から依頼されてるのか! いや、それにしても唐突過ぎるし、こういうのはもっと万全に行うもんじゃないのか!
「まぁこれですかね」
先生が手に持っていたのは、茶色を基調とした、貴族よりは一段下がるが、大きな商会の坊ちゃんに見えるような服だ。
「先生、あの、護衛は?」
「メイドに集まるように指示しておきましょう。お部屋で待っていてくださいね」
そう言って足早に去っていく先生を、俺はなんとも言えない表情で見送った。
先生、怪しすぎるだろぉ!
次の更新予定
2024年12月3日 04:00
麻雀RPG~段位戦のポイントが経験値になる世界~ 金鈴令 @kanasuzurei
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