第2話 結果は2着
白と緑を基調とした家具が品よく置かれている、この広い部屋が俺の自室だ。
寝て起きたら前世の記憶を思い出していた。
椅子を窓まで押してよじ登り、カーテンに潜り込むと、窓の外には庭師たちに整えられた広い庭が朝日に照らされていた。
カーテンを閉め、今度は鏡台の前に立つ。
ダークブラウンの短髪に緑の少し垂れ目な瞳、それからちょっとぽっちゃりとした、まだ子供な男の子が写り込んでいた。
「本当に、転生、したんだな」
転生詐欺で悪魔に魂を持っていかれるかも、なんて考えていたので、話に聞いていた通りに転生出来てほっと胸をなでおろした。
「昨日までの記憶も……問題ないな」
記憶が無かったらどうしようかと思ったが、流石女神様解ってらっしゃる。
後は俺が5歳児相当の演技をすれば完璧だ。
演技なんかやった事無いけどな!
記憶によれば、俺は無口で大人の言う事は頷く大人しい子共だったようだ。
……それなら何とかなるか?
無口キャラ万歳!
一人でニコニコしながら手を上下に上げ下げしていると、小さくノックの音が響いた。
マズい!
なんとか鏡台の前に座り真顔を作る。
「失礼いたします。おや、おはようございますマクレンド様。本日は大変早起きでいらっしゃいますね」
それにコクリと頷いて答える俺。
やってきた侍女さんはカーテンを開けると一礼して退室した。
おぉ本物の侍女さんだ! しかもゴシックメイド服! 本物! 感動しかないな!
そう言えば、さっき窓の外から見た景色の中に、アニメや写真でしか見たことの無かった景色が広がっていた気がする。
少し足早に椅子によじ登り外を見る。
「おぉ~」
多分俺は何度もこの景色を見たことがある。
だが、やはり、記憶を思い出す前と今とではあまりにも感じ方が違う。
ついさっきも同じ光景を見たが、寝起きだったからかそれとも記憶の定着のせいか、今ほど感動しなかった。
だがしかし、はっきりと意識が戻った俺は、この光景を見て胸踊らせずにはいられなかった。
「本当に、異世界……」
そう言えば社畜になってから忘れていたが、俺は異世界小説をよく読んでいて、自分も転生したいなぁなんて事を思っていた。
「はは、なんか懐かしいな」
まさかそれが実現するとは、人生何があるか分からなさすぎる。
外を眺めながら少し黄昏ていると、先程の侍女さんが朝食を持って戻ってきた。
子供用の椅子とテーブルに並べられた本日の朝食は、トーストと目玉焼きとウィンナー、それからお砂糖入り紅茶、デザートにぶどうだ。
異世界感全く無いな!
記憶を思い返してみれば、異世界定番の食事事情とは真逆だ。
ほぼ日本と同じ。昨日の夕飯はカレーだったよ! 大変美味しかった記憶があるな!
まぁあるに越したことはない。ないけど……テンプレ異世界転生に憧れていた気持ちもないではない!
あっ、麻雀が経験値になるトンチキな世界だからテンプレじゃねぇーや!
じゃいっか。 いただきまーす。
朝食の後は、お勉強タイムである。
文字の読み書き、簡単な計算。昼食を挟んで、点数計算、麻雀。
後ろ二つの場違い感よ。
勉強が終わったらフリータイム。
昨日までのマクレンド君は書庫に籠っていたようなので、俺もそれに倣って書庫へと赴いた。
適当な本を持って椅子に座り息を吐きだす。
書庫、遠い。
いや、この屋敷が広すぎる。
薄々感じてはいたけど、どう考えても貴族だろ俺。
大丈夫かな、一応主人公の補佐をするために方々へ行く予定なんだけど。
俺は次男だから、スペアは家に居ろ! とか言われたら厄介だ。
まぁいい、そうなったらなったで考えるしかない。
取り合えず、このダンジョンの歩き方でも読むか。
やっぱりファンタジーと言えばダンジョンだよな!
「マクレンド様、そろそろお夕食のお時間です」
侍女の声で、現実に戻って来る。
結構集中して読んでいたようだ。
ダンジョンとは何なのかの考察から始まり、実際のトラップや魔物の事、それから何故人間が食べられる調味料等がドロップするのか、等々面白い内容が盛りだくさんだった。
まさか今ここで朝食のツッコミの答えを貰えるとは思わなかったけどな。
メタい事を言うならば、此処が日本のゲームの世界で、多分料理システム的な物があったのだろう。
俺が昔やった事のあるRPGでも、バリバリ日本食を作る事が出来るゲームもあったしな。
朝食とは違い、夕食は家族揃って食堂で食べる。
絵画なんかで見た事のある長いテーブルで、それぞれ決められた場所に座る。
本日はステーキと白米、それからミネストローネである。
うん、白米もあるんだな、滅茶苦茶助かる。
それらはコース料理として出てくるのではなく、一般家庭のように全て配膳されてから食べるようだ。
記憶を遡ってもコースが出てきた例がないので、コースは特別な日に限るのかもな。
「マクレンド」
「はい」
食事を終えて背もたれに体重を預けていると、唐突に父親から声を掛けられた。
父親は黒髪緑目のすらっとしたイケメンである。雄々しいよりも中性的な感じで、前世でアイドルデビューでもしようものなら、人気者間違いなしだっただろう。
「マクレンドも先日5歳になった。そろそろ麻雀のレート戦を解禁する」
「……はい」
「マクレンドは授業の成績が大変優秀だそうだから、午後は勉強ではなく、麻雀をするように」
「はい」
「えー兄さまだけずっこいー!」
勉強を免除されたのを聞いて、1歳下の弟のオーランドがぷっくりと頬を膨らませた、なんとも子供らしくてかわいい姿だ。
「ランはいつも勉強中そっぽ向いてるからだよ」
「リースうるさい!」
プイッと顔をそむけたオーリスは、オーランドと双子でよく似ている。
だがどうも性格は真逆の様で、オーランドはよく外で走っているのを見かけるが、オーリスは俺と同じで書庫に居たり、外に居ても座ってお茶を飲んでいたりと、インドア派な感じだ。
「二人とも、私の部屋においで。喧嘩は時と場合と程度による。それをじっくり教えてやろう」
「「ごめんなさい!」」
「ダメだ、来なさい」
「「はーい」」
しょぼくれて父親と食堂を去っていく後ろ姿に、三人に聞こえない程度にクスクスと忍び笑いが聞こえてきた。
「可愛いわね」
「えぇ、まったく」
美女と美女が中良さそうに笑い合っており、大変絵になる。
二人は俺の母親と母親だ。
父親は二人の女性と結婚しており、一人は俺の実母のシンシアお母様、もう一人は双子の実母のエレインお母様。どちらもお母様と呼ぶように躾けられているので、一緒に暮らしている他の人のお母さんではなく、母親が二人いるという感じだ。
夕食がお開きになったので、自室へ帰る。少ししてお風呂に入り、異世界一日目は終了した。
翌日、昼過ぎまでは一緒で、その後は初めての麻雀実践となる。
一応麻雀の講師から一通り学んでいるので、やり方は把握している。
何があってもいいように俺付きの侍女さんも後ろで控えている。
先ずはメニュー画面を呼び出す。
「ホーム」
そう唱えると、目の前にVRMMO系のアニメで見たことのある、半透明なウィンドウが飛び出してきた。
「ッ」
思わず関心の声を上げそうになったが、俺は無口キャラでしかもホーム画面の呼び出しは何度も行っている。
そんな俺がおお~なんて間抜けな声を出せば、普段との違いに気が付かれてしまう。
なんとか声を押し殺せて良かった。
さて、気合を入れなおしてウィンドウへ向き直る。
開いたメニューはスマホのホーム画面に似ており、それぞれ四角いアイコンに、ステータス、職業、麻雀と書かれている。
今回はその中の麻雀をタップ。
するとアプリが起動し、麻雀のメニューが展開される。
メニューは、1人対戦、レート戦、ポイント、ルール、の4種類だ。
そして上にはレートが0と表示されている。
……想像だけれども、本来は観戦とか牌譜とか3人麻雀か4人麻雀かの選択があったのではないかと思う。
何故かと言うと、4種類にしては画面が広すぎるからだ。
きっと、リアルな世界にする為に、削らざるを得なかったのではないかと思う。
まっ、考えても答えの出ない事だから、これ以上は無駄だ。
それじゃあレート戦をポチっとな。
すると足元に魔法陣が現れて、俺は会場に転移させられた。
すべてが白い空間に俺は居た。
いや、一つだけ、部屋の中央に置かれた麻雀卓だけが色を持っていた。
そして、白い人型が2人、3人と現れる。
その麻雀卓は俺の身長に合わせたサイズで、これは誰もがベストな大きさに調節されているらしい。
つまり、一緒に麻雀を打っているが、相手は実態の有るホログラムと言ったところだろうか。
4人目が現れると、頭上に東南西北のルーレットが回り出し、席が決まる。
麻雀卓は全自動で行われ、点数の移動も実物の点棒ではなく、卓に表示されている点棒が変化するネット麻雀風と言えばいいのだろうか。
実際に卓で麻雀を経験したことがあまりないので、これには大変助かる。
またチョンボやイカサマは出来ない様になっているらしい。
この辺は転生前に女神様に聞いたけれども、神気とやらでごり押したらしい。
さぁ、異世界初麻雀!
――――――――――
以下、興味がある方向け。
この世界の麻雀のルール。
・25000点持ちの30000点返しでオカ有り、サドンデスは無し、西入はせず。
・順位点は経験値に関するので、本編でやります。
・赤3枚、一発、裏ドラ、槓ドラあり、槓ドラは即時捲りで、嶺上牌を取る時は捲ってから取る。ただし槍槓時の槓ドラは、槓無効扱いでドラは乗らず。
・喰いタン後付けあり、和了るのに1翻は必ず必要。
・途中流局はなし。
・王牌は14枚の残しで、海底牌の槓は出来ず。
・聴牌連荘有りで、オーラス親の和了り止めも有り。
・ハコ割れ、つまりマイナスになっても終了は無しで続行。
・ダブロン、トリプルロンは無しで頭ハネ。
・パオは、大三元、大四喜、四槓子の最後の大明槓、のみツモ和了り時責任払い、放銃者が居た場合は折半払い。
・少牌、喰い替え、空ポンチー槓、錯ポン、錯チー、錯槓、ロンツモ発声だけして倒牌しない等は、神気により出来なくなっている。
・四暗刻単騎や国士無双十三面待ちはダブル役満じゃなくて役満扱い。ただし、四暗刻大三元等の複合系はダブル役満扱い。
・ファン牌の雀頭は2符で連風符は付かない。
・役満は以下のみ。
天和、地和、国士無双、四暗刻、大三元、緑一色(發無しオッケー)、字一色、小四喜、大四喜、清老頭、四槓子、九蓮宝橙。
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