第19話 次世代へのバトン
全国大会での優勝から数週間が経ち、雅はデフリンピックに向けた準備を始める一方で、自分の経験を次世代に伝える大切さを感じ始めていた。走ることの楽しさ、挑戦することの意味、そして音が聞こえない世界でも夢を追い続ける素晴らしさ――それらを次の世代に伝えることで、新たな可能性を広げたいという思いが芽生えていた。
地元での陸上教室
佐藤の提案で、雅が地元の子どもたちを対象とした陸上教室の特別講師を務めることになった。陸上教室には、聴覚障害を持つ子どもたちだけでなく、健聴の子どもたちも集まっていた。
「今日は、全国大会で優勝した大場雅さんが来てくれました!」
佐藤が紹介すると、子どもたちは目を輝かせながら雅を見つめた。
「こんにちは。今日は一緒に楽しく走りましょう。」
雅が手話で挨拶すると、佐藤がそれを通訳してくれた。子どもたちから自然と拍手が湧き上がり、雅は少し照れながらも笑顔で応えた。
子どもたちとの交流
陸上教室では、雅がスタートダッシュのコツやフォームの改善などを教えた。
「スタートの時は、腕をしっかり振って、地面を強く蹴ることを意識してね。」
手話で伝える雅の姿に、聴覚障害を持つ子どもたちは特に感動したようだった。
「私も耳が聞こえないけど、速く走れるかな?」
ひとりの女の子が不安そうに尋ねると、雅は優しく頷きながら答えた。
「もちろんだよ。私も最初はただ走るのが好きなだけだった。でも、好きなことを続けていれば、きっと夢に近づける。」
その言葉に、女の子は少し自信を取り戻したように笑顔を見せた。
子どもたちへのメッセージ
練習の最後、雅は子どもたちを集めてこう語りかけた。
「私は音のない世界で走り続けてきました。でも、それが私の強さになりました。みんなも、自分の持っているものを信じて、一歩ずつ進んでいってください。」
手話を交えた雅の言葉に、子どもたちやその家族、教室のスタッフたちが温かい拍手を送った。
「ありがとうございました!」
子どもたちの元気な声と笑顔が、雅の心に深く刻まれた。
美咲との再会
その日の帰り道、雅は特別練習会で出会った美咲と再会した。美咲も次世代の子どもたちにスポーツを教える活動をしており、互いの取り組みについて話し合った。
「雅、君の話を聞いてすごく嬉しくなったよ。私たちがこうして走り続けることで、未来の選手たちに夢を与えられるんだね。」
雅は美咲の言葉に頷きながら答えた。
「はい。私たちの走りが、誰かの勇気や希望になるなら、それが一番の喜びです。」
二人は笑い合いながら、次のデフリンピックでの再会を誓った。
新たな使命
その夜、雅はノートを開き、新しい目標を書き加えた。
「走り続けることで、次の世代に希望を届ける。」
音のない世界で走る雅の姿は、すでに多くの人に勇気を与えていた。デフリンピックという大舞台で活躍することで、さらに多くの人々にそのメッセージを伝えたい。
雅の挑戦は、自分自身の夢を追うだけでなく、次世代へのバトンをつなぐ使命へと変わりつつあった。そして、その思いが彼女を次のステージへと駆り立てていくのだった。
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