第18話 故郷に帰る
全国大会での優勝から数日後、雅は一息つく間もなく、日常に戻っていた。競技場ではない、自宅近くの田んぼ道を走る時間が、彼女にとって特別な意味を持っていた。
地元からの祝福
雅が学校に登校すると、クラスメイトや先生たちが一斉に手を振りながら彼女を迎えた。
「雅、全国大会優勝おめでとう!」
「テレビで見たよ!すごかった!」
手話を使えない友人たちも、身振り手振りで精一杯のお祝いを伝えてくれる。その姿に雅は少し照れながらも、何度もお礼を伝えた。
「みんなが応援してくれたおかげです。本当にありがとう。」
放課後、体育館では学校全体で雅を祝う小さなセレモニーが開かれた。校長先生がスピーチでこう言った。
「大場雅さんの努力と成長は、私たち全員に勇気を与えてくれました。音のない世界でも、こんなにも素晴らしいことができると教えてくれました。」
校長先生の言葉に、体育館中が拍手に包まれる。雅は壇上で少し緊張しながらも手話で挨拶をした。
「私は、ただ走ることが好きで続けてきました。でも、皆さんの応援があったから、ここまで来ることができました。本当にありがとうございます。」
家族との時間
その夜、家族が雅の優勝を改めてお祝いしてくれた。母親は雅の好きな料理をたくさん作り、翔は再び手作りの応援メッセージを渡してきた。
「お姉ちゃん、次は世界一になってね!」
その言葉に雅は笑顔で頷いた。
「うん、絶対に頑張る。」
父親も雅の手を握り、手話でこう伝えた。
「お前は本当にすごい。音がなくても、走ることで世界とつながっているんだな。」
その言葉に、雅の胸がじんわりと温かくなった。
恩師との再会
翌日、佐藤に誘われて、雅は小学校時代の恩師である山本先生を訪ねることになった。山本先生は、雅が初めて走る楽しさを知るきっかけをくれた人物だった。
「雅、本当に立派になったね。君が全国大会で優勝するなんて、あの運動会の頃からは想像もつかなかったよ。」
山本先生の言葉に、雅は感謝の気持ちを手話で伝えた。
「先生が私に走るきっかけをくれたからです。本当にありがとうございます。」
山本先生は涙ぐみながら雅の肩を叩いた。
「これからも走り続けて、世界に君の姿を届けてくれ。」
地元の子どもたちとの交流
ある日、佐藤が地元の陸上教室で子どもたちに指導する機会を作ってくれた。雅も特別ゲストとして招かれ、小学生たちと一緒に走る時間を持つことになった。
「全国大会で優勝した雅さんだ!すごい!」
子どもたちが目を輝かせながら雅を見つめている。その姿に、雅は自分の走りが誰かの希望や目標になっていることを実感した。
「みんな、自分を信じて走ることが大事だよ。」
雅が手話で伝えると、佐藤が通訳しながら笑顔で補足してくれた。
「雅さんも最初は普通の子だった。でも、努力を続けることでこんなに素晴らしい選手になったんだ。」
子どもたちと一緒にトラックを走り、雅は彼らの無邪気な笑顔に励まされるような気持ちになった。
次なる目標へ
その夜、雅はノートを開き、静かに新たな目標を書き記した。
「地元の誇りを胸に、世界へ挑む。」
音のない世界でも、雅の走りは確実に誰かに届いている。次のステージ、デフリンピックという夢に向かって、彼女の挑戦はこれからも続いていくのだった。
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