第15話罪禍の古城遺跡②
次の階層に向けてステータスを確認していると、ユキナが青色の液体が入った瓶を手渡してきました。
「お嬢様、こちらを飲んでMPを回復してください」
「これって確か、MPポーションですよね?
なぜユキナが持ってるのでしょうか?」
「昨日、ログアウトをする前にパンダモンさんから頂きました。」
「師匠からですか!?」
「直接お嬢様に渡すと、遠慮されると思ったみたいで、
私がお嬢様の分まで預かっています」
「そうですか……ちょっと師匠にお礼を言ってきます!」
「師匠! MPポーション凄く助かりました。
ありがとうございます。」
「かまへんよ。それより先の戦闘で武器の耐久値が大分減ったんちゃうの?」
「耐久値でしょうか?」
「武器のステータスを長押しすると、出てくるか確認してみ」
銅の槍:耐久値12%
「残り12%です……」
「ありゃ。あれだけ酷使したらな……
確かスケルトンホプロマクスのドロップアイテムで剣落ちてたやろ、レア武器やからそれ装備しとき」
「大剣は得意ではないのですが……仕方ありませんね」
剣闘士の黒剣:スケルトンホプロマクスが愛用している大剣(ATK+80)
「この剣、凄くATKが高いです!」
「中級クラスのレアドロップで両手装備やからな」
「ていうか、フェリシアちゃん、先の戦いで熟練度上がったんちゃう?」
「ロールはまだマスタリー化してませんが、スラッシュが熟練度100%になり、『ソニックブレイド』と『ペネレイト』の2つを覚えました!」
「おっ、ソニックブレイドか…中々良いスキルやな」
「そうなんですか?」
「スキル欄をタップしてみ」
ソニックブレイド:消費MP7
剣速が少し上がり、次に与えるダメージ100%アップ
ペネレイト:消費MP5
次に与える突き攻撃のダメージ100%アップ。
「剣速が上がると書かれてますが、体が勝手に動くのでしょうか?」
「どう説明したら良いやろ……
このゲームって他のゲームにあるAgility(敏捷性)がないのはステータス見たら分かると思うけど、体が軽くなったり、動作をスムーズになったり、スキルによっては、隠しパラメーターの扱いで存在はしてるねん。」
「だがら、ソニックブレイドはフェリシアちゃんが剣を振ろうとすると、
システムがそれをサポートして、いつもより剣速が上がるってイメージやな」
「なるほど...慣れるまで違和感がありそうですが、慣れると便利そうなスキルですね」
「あと、フェリシアちゃんはリフレクション全然使ってないけど、
かなり強力なスキルやから使ってみるとええで」
「次で試してみます!」
それから私達は小部屋で準備を終えて、階段を上がり2階層にやってきました。
暫く探索するとサーチに反応があります。
「敵が2体接近中です!」
「あれは、スケルトンソルジャーとスケルトンアーチャーやな」
「アーチャー……遠距離攻撃ですか…厄介ですね」
「私とフィルちゃんでアーチャーを倒すから、
二人はソルジャーをお願い!」
「分かりました!」
ユキナは先ほど覚えたスキル『挑発』を使うと、スケルトンソルジャーとアーチャーの両方がユキナの方へ注意を向けます。
ユキナ以外の警戒が甘いスケルトンアーチャーに向かって、ユーピョンさんが『ファイアランス』を使うと、アーチャーが5mほど吹っ飛びダウンしました。
ダウンしている間にフィルちゃんが追い討ちをかけて、戦闘を優位に進めていきます。
アーチャーが攻撃されているのにも関わらず、割れ関せずとソルジャーがユキナに斬りかかります。
ユキナはいつも通り安定して動きでソルジャーの攻撃を完全に捌き、反撃の隙を伺いながら牽制するつもりのようです。
業を煮やしたソルジャーが大降りを仕掛けます。
「そこです!『リフレクション』!」
リフレクションを使うと、半透明な板が現れ、ソルジャーの剣が板に接触した瞬間、剣が大きく弾かれてソルジャーは体勢を崩しました。
隙をうかがってたユキナは私が言うまでもなく、
『シールドバッシュ』を使い、ソルジャーを撥ね飛ばしダウンを奪います。
絶好のチャンス到来です!
「ユキナナイスです! この隙に畳み掛けますよ!『ソニックブレイド』!」
ソルジャーがダウンしてる所に、首を目掛けて剣闘士の黒剣を振り下ろすと、ソルジャーの首と胴が離れ粒子に変わります。
「大勝利ですね! フィルちゃん達はどうでしょうか?」
ユーピョンさんのファイアランスを受けて吹っ飛んだアーチャーの方を見ると、ユーピョンさんが丁度トドメをさした瞬間でした。
ドロップアイテムを拾った後、アーチャーを倒したフィルちゃん達と合流します。
「そっちも終わったみたいね」
「この剣のお陰で、危なげなく倒せました!」
「お疲れ~、2階層はアーチャーの狙撃さえ気を付けとけば、1層目よりも楽やからな。
ここはあんまり修行にならんし、さっさと上がろうか」
師匠の仰った通り何回かモンスターと遭遇しましたが、私達の敵ではなかったようでサクサク倒していきます。
3階層では新たにスケルトンシーフも出てきましたが、
不意打ちに気を付けていれば、問題なくサクサク進みました。
ただ、3階層の小部屋では中々危ない場面がありました。
小部屋に入った私達がソルジャーとアーチャーの対処をしてた時に、
背後に回ったスケルトンシーフがユーピョンさんの腕を切りつけ、瀕死の手前までHPを削られてんやわんやでした……
その時はフィルちゃんが新しく覚えた『ダークミスト』で敵の視界を奪ってくれたので、私がすぐさま『ヒール』で回復し、ユキナが『挑発』でシーフを引き付けた事で体勢を整え、難を逃れました……
4階層で出てきたスケルトンメイジは、
様々な毒魔法を使ってきましたが、範囲内の状態異常回復が出来る『祈りの雨』が大活躍で、危なげなく倒せました。
師匠曰く、毒の霧を出してくる『ポイズンスモッグ』は範囲内にいる敵を強制的に猛毒にし、
猛毒は使用者のINTの20%分を、MID関係なく10秒毎にダメージを与えてくるので、中々の脅威だったそうです……
ただ、4階層の小部屋ではメイジとシーフとソルジャーが2体ずつ出てきた時は猛毒の恐ろしさを知りました。
ソルジャーに隠れたメイジが『ポイズンスモッグ』を連発し、祈りの雨の発動もシーフが邪魔をしてくる為、
一度だけ猛毒になってから10秒が経過してしまい、フィルちゃんがHPの半分、ユーピョンさんがHPの8割失い、あわや全滅する所でした……
戦闘が終わり4階層の小部屋で、次に向けての準備を始めていると、ユーピョンさんが師匠にアドバイスを求めます。
「そろそろHPを伸ばさないとヤバいわよね……?
腕を軽く切られただけで瀕死しそうになったり、
猛毒になって20秒すらもたないのはちょっとね……」
「せやな……5階層から上はさらに難易度上がるしな。
そろそろ皆のロールもマスタリー化出来ると思うし、
ここいらでロールを付け替えようか」
「でも、ロールの切り替えは街かセーフポイントでしか出来ないから、折角ここまで来たのに、トランクイル平原のセーフポイントまで戻らないとダメなんじゃないの?」
「それを解決するのが『ポケットサンクチュアリ』や。
ユキナさん。ダンジョン入る前に預けたやつ出したって」
「かしこまりました。」
ユキナがイベントリから半透明な立方体を取り出しました。
「それを地面に置いて、使用するのコマンドをタッチしてみ」
ユキナは師匠の指示のもと、半透明な立方体を地面に置きコマンドをタッチします。
すると、立方体がどんどん大きくなり、大きくなった立方体の側面と衝突しちゃうと思っていましたが、そのまま私をすり抜け、10畳ほどの大きさにまで膨れ上がりました。
「これで街中やセーフポイントにいなくてもロール変更出来るで」
「すごい……こんなアイテムもあるのね」
「モンスターが近くにいると使えんけど、
ポケットサンクチュアリの中やとログアウトも出来るから、大型ダンジョンを攻略する時の必須のアイテムなんや」
「でもそんなアイテム高いんじゃないの?」
「確かにそれなりの値段はするな」
「そんな高価なもの使ってもいいの?」
「気にせんでええよ」
「前々から思ってたけど、あなた、私達に対して良くしすぎじゃない?
特にフェリシアちゃんにはダダ甘だし、恩を売ることで、あわよくば……なんて思ってるわけじゃないでしょうね?」
ユーピョンさんが師匠を問い詰めると、ユキナとフィルちゃんも疑いを持った眼差しで師匠を睨み付けていました……
師匠はあわよくば何をするつもりなんでしょうか……?
「人聞き悪いこと言うなや!
俺が君らに良くしてる理由は……まあ、あれだ……
師匠って呼ばれるのは最初は嫌やったけど、頼られていく内に、なんや…人に教えるのも悪くないって思うようになったからや!」
「それでお嬢様に特別甘いのは、沢山頼ってくるからでしょうか? どうなんですか? 下心がないと断言できますか?」
「ユキナさん怖い、怖い。フェリシアちゃんの事になると暴走しすぎでしょ」
「ユキナさんは昔からそうですよ……
まあ、私もユキナさんほどではないけど、どうなのかは気になりますね」
「まあ、100%下心がないとは言えん……ちょ!?短剣構えるのヤメテ……
だってしょうがないやろ、こんな可愛い子が師匠、師匠って甘えてくるんやで!
男やったらコロリといくに決まってるやん。」
「何を言ってるんでしょうか? 女性でもイチコロですけど」
「その無表情マジで怖いからやめて……
フェリシアちゃんに甘い理由やったな……
それは、俺がフェリシアちゃんに救われたからや。」
「えっと……私、師匠を救った記憶がありませんが……」
「そりゃあ、俺が勝手に救われただけやからな。」
「詳しく伺ってもよろしいでしょうか?」
「聞いて気持ちいい話やないで?」
「師匠の事をもっと沢山知りたいので教えて下さい!」
「はぁ……分かったわ。
俺な実は前に固定でパーティー組んでたんよ……
男3人と女1人のパーティーでそこそこ名も売れてたんや。
気の良いヤツらでな、俺はアイツらの事を本当に仲間やと思ってたんや……」
「そんなある日、俺はリアルで仕事が早く終わって、いつもより早めにログインしてもうて、
いつもアイツらが集まってた飯屋に向かったやんや。
飯屋に入ると声が聞こえてな、よう聞くとアイツらは俺の悪口を言っててな、
かまってきてウザいとか、関西弁が気持ち悪いとかボロクソ言ってたわ。
俺はその日逃げるようにログアウトしたわ……
次の日になって、俺は聞き間違いやと信じたかったんやろな、その後もアイツらとつるんどったや……」
「でもな、つるんでいく内に、アイツらと喋ってても目が合わへん事に気付いたんや。
あの日の悪口のせいで俺が思い込んでるだけの可能性もあるから、普段通り接してたんやけど、気のせいではなくてな、アイツらと話してるだけで嘲笑されてる気分になってくるんや……」
「それ以降、人間ちゅうもんを信じれんくなってな、
それが態度に出てたんやろうな、前のパーティーからは追放されたんや……
それから俺は、一からやり直したい気持ちなのかは知らんけど、気付けば始まりの街アインベルグにおってな、
そこでフェリシアちゃんらに出会ったって言うわけや……」
「フェリシアちゃんはこんな俺ともしっかり目を合わせてくれるし、感情も豊かで、すぐに裏表がない子やと分かったわ。
君はな、人間を信じられへんくなってた俺にとって希望やねん。
そんなフェリシアちゃんやから俺も真っ直ぐ当たろうと思って、少し怖かったけど途中から関西弁で話してんで。
でも、そんな俺に対して関西弁でありのまま話しても良いって言ってくれた時は嬉しかったなぁ……
だから俺はフェリシアちゃんに甘いのかもな……」
「うわ、はっず……自分語りなんて俺のキャラちゃうねん……
さっき言ったことは忘れてくれ……」
「忘れません。
師匠は人を信じたいのに信じられず辛かったんですね。
そんな優しい師匠の事が、ここにいる皆は大好きですよ。
私も師匠の心の支えになれた事を嬉しく思っています。」
「うっ…………」
私の体が勝手に動き、気付けば師匠を抱き締め、幼子をあやすように頭を撫でていました……
「ちょ!?……フェリシアちゃん!? これはさすがにマズイって!」
「いいんですよ~♪」
はしたないとは思いましたが、師匠を慰めたい気持ちが勝ち、私は理性ではなく本能で師匠を甘やかします。
「い、いや、さすがに恥ずかしいから勘弁してください……」
師匠はお気に召さなかったようで、仕方なく抱擁を解きます。
「師匠。お顔が真っ赤です」
「誰のせいやと思ってんねん!」
「パンダモンさん。そろそろ通報しても良いでしょうか?」
「勘弁してくれ……
確かに初めて会った時は、君らがハラスメントで訴えてくれたら、そのままゲームやめようと思ってたけど、
今は違うからな!」
「フリでしょうか?」
「フリちゃうわ!」
「ヤバい、時間を結構無駄にしてもうた。
ポケットサンクチュアリの効果時間が後10分ほどしかないから、ちゃっちゃっとロール付け替えや」
師匠が焦って話題を逸らそうとしてることに、皆は気付きながらも、時間が迫っていることもありニヤニヤするだけに止め、おとなしくロールを付け替えるのでした……
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