第12話なぜモンスターはお金を落とすのでしょうか?


帰宅後、入浴を済ませて柔軟体操をしていると、

ピロン♪と音が鳴ったので、携帯電話を見ると桃花ちゃんからメッセージが届いてました。


〈今、電話しても大丈夫?〉


柔軟体操を切り上げて、了承の意味を込めてOKと書かれたネコさんのスタンプを送ると、すぐに携帯電話から着信音が流れてきます。


「はい。もしもし」


「香織? 夜遅くに電話してゴメンね。

えっと、寝てなかったわよね?」


「柔軟体操をしてたところです」


「そうよかった……食事の時のゲームの話だけど、香織は明日ログイン出来そう?」


「午前中はお稽古がありますので、ちょっと難しいですが、14時以降なら大丈夫そうです。」


「分かったわ。私は明日1日フリーだから、午前中にゲームを買ってそれからプレイするつもりよ。

14時頃に迎えに行くから、香織がログインしたらメッセージお願いね。」


「分かりました。西門の近くでログアウトしましたのでお待ちしていますね」

「でもゲーム内で携帯電話のメッセージの確認って出来ないですよね……?」


「VRリンクギアと携帯電話のパスを繋いだら、ゲーム内でもメッセージ確認出来るから大丈夫よ。」


「なるほど…知らなかったです……

後でやってみます。」


「あ、あとさ……、司さんも一緒にプレイしてるの?」


「いえ、お兄様とは別で遊んでいます。

今日は静華と師匠とユーピョンさんの3人と一緒に遊んでいました。」


「そっか……えっ!?……師匠とユーピョンさんって誰……?」


「師匠はゲームの事を色々教えてくれる方で、ユーピョンさんは私の初めてのフレンドです!」


「初日なのにもうフレンドが出来たのね……さすが香織。

ユーピョンさんは名前から女性だと思うけど、師匠も女性なの?」


「いえ、ユーピョンさんは女性ですが、師匠は男性ですよ」


「えっ……男!? 静華さんが良く許したわね……」


「静華も最初は警戒してたみたいだけど、師匠は凄く真っ直ぐな方なので、ログアウトする頃には仲良くなってましたよ」


「香織に真っ直ぐって言われるとは、正直な事しか言わない人なのね……」


「桃花ちゃんにも明日、師匠とユーピョンさんの事を紹介するね!

二人とも社会人と仰ってましたが、明日は土曜日ですので、多分ログインしてると思います。」


「ええ、お願い。」

「それに不埒なことを考えてないか、私もチェックしないとね……」


桃花ちゃんが何やらボソボソと言ってますが、よく聞き取れません……


「桃花ちゃんすみません。ちょっと聞き取れなかったです」


「いいの、大したことは言ってないから」


「そうですか。では明日楽しみにしていますね。

お休みなさい。」


「ええ、おやすみなさい。」


桃花ちゃんとの電話を終えると、中断していた柔軟体操の続きを行い、明日に向けて布団の中に入ります。

初めての経験で疲れていたのか、あっという間に意識が沈んでいきました……




翌日、ピアノの稽古を終え、昼食を食べながらゲームの事を考えます。

今日は桃花ちゃんを師匠とユーピョンさんに紹介して、

昨日買えなかった槍を購入して、それからモンスターを沢山倒しに行きましょう!


そうだ!…桃花ちゃんもゲーム初めてと思うので、ゲームの先輩として色々教えてあげましょう!


そんな事を考えていると、約束の時間が迫ってきたので、桃花ちゃんにメッセージを送ります。


「お嬢様、本日もよろしくお願いします。」


部屋の前で静華と別れ、ベットに横になりVRリンクギアの電源を入れます。


ユーディストオンラインのタイトルが出て、目の前が白くなると、昨日ログアウトした西門近くの広場が見えました。

覚悟はしていましたが、やっぱりピアちゃんと会えなかったです……

寂しい気持ちになっていると、ユキナが今日の予定について聞いてきます。


「お嬢様。本日のご予定はどうなさいますか?」


「まずは、桃花ちゃんを師匠とユーピョンさんに紹介して、それから武器を購入し、モンスターをいっぱい倒す予定です。

確か、メニュー画面でフレンドの現在地とログインしてるかの確認が出来ましたよね」


メニュー画面のフレンド一覧には、師匠とユーピョンさんがログインしてることを表していましたが、距離は結構離れてそうです…


「では、お二人には私からメッセージを送くりますのでお嬢様は桃花様への連絡をお願いします。」


「あれ……?、携帯電話のメッセージは確認出来るけど、送信が出来ません……」


「それは困りましたね……桃花様に待ち合わせ場所は送っていますか?」


「それは昨日電話で伝えてますが……」


「では、このままじっと待ちましょう。

暫く経っても来られないなら一度ログアウトして、連絡を取り合えば良いかと。」

「ただ、このローブのフードを外すべきか悩みますね……

外してしまうと、桃花様と早く合流出来そうですが、確実に目立つので面倒事も起きそうです……」


フードを外す、外さないで悩んでいると、聞き慣れた声が聞こえました。


「もしかして香織?」


「桃花ちゃん! なぜ私だと分かったのですか?」


「フードで顔は分かりにくかったけど、シルエットと立ち居振舞いでなんとなくね」


「それだけで良く分かりますね…凄いです!

あれっ? 桃花ちゃん、髪の毛の色は金髪にしたんですね?」


「前から香織の髪色が羨ましいって思ってたから、同じ金色にしてみたの」


「そんなこと言われると、照れてしまいます……」


「でも、香織は私の髪色を真似てはくれなかったのね……」


「うっ……ごめんなさい。黒髪も憧れてましたが、やっぱり、いつも見ている銀色に惹かれちゃいました……」


「ふふっ…冗談よ」


揶揄からかうなんて、ヒドイです……」

「あっ、私はゲーム内ではフェリシアって言いますので、本名で言ってはダメですよ。

マナー違反になるそうなので」


「それぐらい知ってるわよ…」


「な、なんで知ってるのですか?」


「常識でしょ?」


「えっ……」


桃花ちゃんが呆れた目をしてきたので、このままでは先輩の威厳がなくなってしまうと思い、慌てて話題を変えます。


「も、桃花ちゃんは『フィル』って、名前にしたんですね」


「うん、ドイツ語の『Pfirsich』から取ったの」


「Pfirsich……確かドイツ語で桃だったでしょうか?」


「正解」


「可愛い名前ですね。フィルちゃんて呼びますね!」


「じゃあ、私はシアって呼ぶことにするわね」

「それで、これからどうするの?」


「師匠とユーピョンさんがまだ来られてないので、来られたら紹介するね」


「お嬢様。お二人とも10分ぐらい掛かるとの事ですので、先に武器を買い換えに行きましょう」


「そうですね。

確か師匠の話では、プレイヤー産のものは高いので、まずはNPC産かドロップアイテムが良いみたいですね。」


「NPCの武器屋なら場所分かるわよ」


「なんで、桃…フィルちゃんは知ってるのですか?」


「今、本名を呼びそうだったわね……

まあいいわ、ゲームを買いに行く前にネットで色々調べていたし、実際にフェリシアが来る前に見たからよ」


「流石フィルちゃん、抜かりないですね……」

「ゲームの先輩として色々教えてあげる計画が……」


「なに、先輩風吹かせようとしてたの?」


「うぅ…、仰る通りです……」


桃花ちゃんは、初めて何かする時、事前に隅々まで調べて、完璧にやろうとすることを忘れてました……

多分先輩の私よりも、桃花ちゃんの方が色々詳しいかもしれません……

私が落ち込んでいると、桃花ちゃんが慌てたように口を開きます。


「ま、まあ、私もまだまだ知らないことがあるから、色々教えてね先輩。」


桃花ちゃんは元気づけようとして、先輩である私を立ててくれました。

私のプライドが凹みながらも、足は進み、武器屋に到着します。


「お嬢様。こちらの槍はどうでしょうか?」


静華が持ってきた槍を見てみると

銅の槍:オークソルジャーが持っている銅製の槍(ATK+10)


「結構ATKが上がりますね。おいくらでしょうか?」


値段を確認するとそこには『4,000ルピ』と書かれていました


「…………私、1,000ルピしか持ってなかった気がします」


「昨日モンスターを倒していたので、ルピが増えているのでは?」


静華に言われ所持金を確認すると、『5,910ルピ』になっていました…


「……!? なぜ所持金が増えているのでしょうか?」


「モンスターを倒したからですね」


「なぜ、モンスターを倒すとお金が増えるのでしょうか?

モンスターもお金で売り買いをしているのでしょうか?」


私が質問すると、二人とも何とも言えない表情で唸ります。


「うーん、改めて聞かれると理由は説明出来ないけど、ゲームっていうのはそう言うものじゃないの?」


釈然としない気持ちはありましたが、これ以上質問をしても疑問が解消されなさそうなので、

おとなしくお金を払い、店を後にしました……

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