第9話ヒーラーとしての第一歩


モンスターの戦闘も出来ましたし、街に戻って新しい武器を買いに行こうと考えていると、

静華が私に向かって問いかけてます。


「お嬢様。もう街に戻られるのでしょうか?」


「そう言われると、何か忘れてる気が……」


「お嬢様はヒーラーを目指していると伺ってますが、

一度もヒールを使ってないのでは……?」


「あっ……確かに一度もヒールを使ってません……」


ヒーラーを目指してるのに、戦闘に夢中でヒールの使用を忘れていました……

でも私達のHPは一切減ってないので、どうしましょうか……?


私が困っていると、師匠が案を出してくれました。

ただ、あまり乗り気ではない感じです……


「HP満タンの人にヒールしても熟練度上がらんから、

わざとモンスターの攻撃を受けてHPを減らすしかないけどどないする?」

「その役をやってあげたいけど、ここのモンスターのATKと俺のDEFの関係で全く俺のHPが減らんからなぁ……」


「お嬢様の為でしたら、喜んでこの身を差し出します。」


「…!? そんなの絶対にダメです。ユキナが傷付くぐらいなら私が代わりになります!」


「それこそ絶対に許可できません!」


師匠がせっかく提案してくれたのに、私達が互いに譲らずまた難航してしまいます……

暫く悩んでいると師匠がまた解決策を出してくれました。


「こうなったら辻ヒールでもやってみようか!」


「「辻ヒールでしょうか?」」


「そや。簡単に言うと、通りすがりのプレイヤーにヒールをばらまく事やな」

「ただ、辻ヒールも注意点があるから気を付けてや。

1つ目は必ず相手の了承を取ってからする事。

2つ目は戦闘中にヒールをすると色々トラブルになるから、必ず戦闘終了後ドロップアイテムを拾ってからにする事や。

俺も見守っとくから、とりあえずやってみようか!」


師匠の提案を採用し、辻ヒールを開始します。

静華もヒールを覚えいるので、効率の関係上、残念ながら先ほどと同様に二手に分かれます……


暫く歩いていると、高校生ぐらいの男の子がスピアイーグルと戦っているのが見えました。


戦況は男の子のHPが半分を切っているのに対し、スピアイーグルのHPは、ほとんど減っていません……


スピアイーグルはトドメとばかりに、高度を上げて突撃の構えを見せます。

男の子は迎え撃つつもりなのか木の剣を構えました。

しかし、突撃してきたスピアイーグルが予想以上に早かったのか、慌てて回避します。


回避されたスピアイーグルはすぐに反転して二度目の突撃を繰り出します。

しかし、男の子方は体勢が不十分なままで、このままではやられてしまいそうです……


私は思わず「右側に思いっきり剣を振ってください!」と叫んでしまいます。

あっ……これはマナー違反ですね。後で謝罪しないと……


私の叫びに男の子は一瞬放心しましたが、慌てて剣を右側に振り抜きました。

運が良かったのか、振り抜いた剣がスピアイーグルの側頭部に直撃し、そのまま粒子となって消えていきました。

男の子は暫く呆けてましたが、慌ててドロップアイテムの回収に切り替えました。


師匠の教えの通り、ドロップアイテムの回収が終わったタイミングで私は声をかけます。


「戦闘中に声を掛けるなど、差し出がましい真似をしてしまい、申し訳ございません……」


謝罪で下げた頭を上げると、男の子は目を見開き、口がアルファベットのOの字に開いたままピクリとも動きません……


暫くしても、まるで石化したように動かないので、ネットワークの接続が途切れたのかな? と考えいると、漸く男の子が話し始めます。


「え、え、えっと。こ、こちらこそ助かったので、全然、全然大丈夫です! む、むしろありがとうございます!」


すごい早口でしたが、私の過ちを許して頂けたみたいで、ひと安心です。


「いえ、急に叫んでしまいましたので、ビックリさせてしまいましたよね……」

「お詫びと言ってはなんですが、ヒールをさせて頂いてもよろしいでしょうか?」


本来の目的であった、辻ヒールの交渉をすると、男の子は大げさに何度も頷いてくれました。

HPが半分以上減ってるので、早く治療して安心させてあげたいですね。


「では、ヒールさせて頂きます。『ヒール』」


すると『+9』と表示されました。

あれっ? 師匠から私のヒールでは、6しか回復出来ないと、お聞きしてましたが……

疑問に思いましたが、男の子のHPがまだ8割ほどしか回復してなかったので、すぐに、もう一度ヒールを使います。

すると今度は『+7』と表示されました……


回復量が違った理由を考えていると、男の子と目が合ったので、男の子で実験まがいな行動をしちゃった事を悟られないように微笑むと、今度は真っ赤な石像のように固まってしまいました...…


……今まで私と目が合った方は、石像のように固まってしまうか、恐怖?で声が震えてしまう方がよくいらっしゃるので、

私って神話に出てくるメデューサみたいに恐ろしい存在なのかと、その都度考えさせられます……


そのような事を考えてると、師匠がやってきて、男の子の耳元で何やら言っています。

耳打ちされた男の子は石化が解けて、慌ててお礼を言い、あっという間に走り去っていきました……


「師匠。先ほどの方に何と仰ったのでしょうか?」


「男同士の秘密や」


師匠はそう言って、はぐらかしてきました。

こちらも気になりますが、先ほどの回復量の違いの方が気になったので師匠に尋ねます。


「師匠。先ほどの男の子に辻ヒールをさせて頂いたのですが、最初は回復量が9だったのに対し、

二回目は7になったのですが、なぜ回復量が変わるのでしょうか?

そもそも、私のヒールでしたら6しか回復しないと思うのですが……」


「それはエパクトシステムが影響してると思うわ。

1回目のヒールの時は気合いがいっぱい入ってて、

2回目は少し抜けたんたちゃうかな?」


「あっ…確かに一度目のヒールは男の子のHPが半分切ってた事もあり、内心で『痛いの痛いの飛んでいけ~』と念じながら使った気がします。

2度目はヒールの回復量が多い理由を考えながらスキルを使ったので、それが原因かもです。」

「エパクトシステムは本当に、私達の気持ちを汲み取ってくれているのですね……」


「まあ、1.5倍の回復量を出せるヤツはそうはおらんけどな……」

「知らんヤツでこれやったら、身内やとなんぼ増えるんやろ……?」


師匠は何やら恐ろしいものを見たといった風貌で、私の事を見ています。

もしかして私の事をメデューサみたいな女って思ってるのでしょうか……


これ以上気にすると本当にメデューサみたいになりそうなので、脳裏に浮上した疑問を振り払い、気を取りなおして、辻ヒールを続行します……

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